犬の尿毒症とは?犬の尿毒症の原因や症状、治療法や予防法まで解説します

犬の尿毒症とは?犬の尿毒症の原因や症状、治療法や予防法まで解説します

犬にとって怖い病気の一つに、尿毒症があります。尿毒症は、腎臓の機能低下により体内に老廃物が蓄積し、深刻な症状を引き起こすというものです。重篤化すると命を落とす危険もあります。しかし、適切な予防と早期発見によって罹患リスクを下げ、愛犬の健康を守ることが可能です。では、尿毒症にかからないようにするにはどうしたら良いのでしょうか。この記事では尿毒症の原因や症状、治療法、そして予防策についても詳しく解説します。

犬の尿毒症とは

犬の尿毒症とは

尿毒症とは、尿として排泄されるべき老廃物や、尿素やクレアチニンなどの窒素化合物が血液中に大量に蓄積されることによって生じる疾患です。犬が生命を維持する上で重大な脅威となり得る、非常に怖い疾患として知られています。

尿毒症は、尿路系、とくに腎臓に深刻な機能障害が起こることで発生します。腎臓は体内の老廃物をフィルタリングし、尿として体外に排出する役割を持っています。しかし、腎臓や関連する部位に機能障害が発生すると、この排泄プロセスがうまく機能しなくなります。

尿毒症の発生は、慢性腎臓病(腎不全)の末期などによく見られる症状です。腎臓の機能が著しく低下し、尿の生成が停止すると、本来ならば尿として排出されるはずの老廃物が体内に蓄積し始めます。この蓄積が原因で、中毒症状が生じます。これが尿毒症の正体です。

犬の尿毒症の症状

犬の尿毒症の症状

尿毒症を発症した犬は、すでに何らかの腎臓疾患にかかっていることが多いです。そのため、これらの病気に伴って急性腎障害や慢性腎臓病に関連した症状が現れます。

尿毒症が進行すると、症状はさらに重篤化し、最終的には命に関わる危険な状態に至る可能性があります。

腎臓病は初期段階では症状が少ないか、全く見られないことが多いです。そのため飼い主は犬の健康状態に対して常に注意を払い、異常が見られた際には、迅速に動物病院を受診することを強くおすすめします。

ここでは、尿毒症にかかった犬によく見られる症状を解説します。

初期症状

尿毒症の初期段階では、慢性腎臓病から派生する典型的な症状が見られます。具体的には食欲不振、体重減少、嘔吐、下痢、毛並みの悪化、貧血、そして口臭の強さなどです。適切な対応がなされない場合、病状はさらに悪化します。

血液検査を行うと、糸球体のろ過機能を評価するSDMA、血中尿素窒素(BUN)、およびクレアチニン(CRE)の数値に異常が見られます。腎臓は、わずかに機能が低下した程度では血液検査の結果には反映されません。SDMAは比較的早期に腎機能の低下を示唆するものの、腎機能が40%程度失われるまでは異常値とはならないとされています。

すなわち、これらの指標に異常値が現れた時点で、腎臓には既に相当なダメージが生じていることが考えられます。

症状が進行すると

尿毒症が進行すると、犬は非常に致命的な状態に陥ります。脱水症状が悪化し、尿毒素が体内のさまざまな部位に深刻な影響を与えるようになります。

消化器系の症状としては食欲が完全になくなり、吐き気、タール状の下痢が見られることがあります。口内炎が発生したり、尿毒素に含まれる窒素がてんかんのような発作を引き起こし、意識がもうろうとしたり、最悪の場合は昏睡に陥ることもあります。

また筋肉の緊張が低下し、脱力感が生じます。さらに腎臓の尿の生成機能が著しく低下し、「乏尿」(わずかしか尿が作られない状態)や「無尿」(尿が全く作られなくなる状態)へと進行し、治療が行われなければ死に至ることもあります。

その他にも、口の粘膜がただれる、粘膜の色が白っぽくなるなどの症状が現れます。さらに重篤な状態としては、けいれんや震え、呼吸の異常などが見られる場合があります。

これらの症状は、犬が急を要する危険な状態にあることを示しています。速やかに動物病院での専門的な治療を受けることが極めて重要です。

犬の尿毒症の原因

犬の尿毒症の原因

尿毒症の主な原因は、血液中の窒素濃度が異常に高まることによる高窒素血症です。腎臓そのものの機能障害が原因となるケースが多いですが、腎臓以外の部位の異常が血液中の窒素濃度を上昇させ、結果として尿毒症に至ることもあります。

腎臓の主な役割は、血液を濾過し、余分な水分や老廃物を尿として体外に排出することです。このプロセスには、体の全血液の20%以上が腎臓に供給される必要があります。

ところが腎臓の機能が低下すると、尿の生成が停止し、本来尿として排出されるべき老廃物が体内に蓄積されてしまいます。これが急性腎障害や慢性腎臓病を引き起こし、最終的に尿毒症という中毒症状を引き起こします。

急性腎障害や慢性腎臓病の原因としては、下記のようなものが挙げられます。

急性腎障害による高窒素血症

急性腎障害は、腎臓への血流の減少や、濾過される血液の量の減少によって生じる病態です。結果として尿の量が減少したり、全く尿が出なくなることが特徴です。このほか、元気の消失、食欲不振、嘔吐、下痢などの症状が現れます。

急性腎障害を引き起こす要因は多岐にわたりますが、主には以下のようなものがあります。

・低血圧

 血液の流れが不十分になり、腎臓に十分な酸素や栄養が供給されない状態を指します。これは、脱水症状や重大な出血、重度の感染症などによって引き起こされることがあります。

・心不全

心臓のポンプ機能が低下し、全身への血液供給が不足することで、腎臓への血流も減少します。

・レプトスピラなどの細菌感染症

レプトスピラ症は、レプトスピラ菌によって引き起こされる感染症で、腎臓を含む多くの臓器に影響を及ぼします。

・誤食

犬にとって有害な物質や薬剤、毒物を誤って摂取することで、腎臓に直接的なダメージを与えることがあります。

・中毒

特定の薬剤、毒物など、腎臓に有害な物質による中毒が含まれます。

・免疫疾患

腎臓自体に対する免疫系の攻撃が原因で、腎機能が急激に低下することがあります。

・長時間の麻酔

手術などで使用される麻酔薬が、腎臓への血流を減少させることがあるため、腎臓に負担をかける可能性があります。

慢性腎臓病による高窒素血症

慢性腎臓病は、腎臓の機能が徐々にかつ継続的に低下していく病態を指します。一度失われた腎機能は、再び回復することはありません。この病態は犬においても見られ、その原因は多岐にわたります。

慢性腎臓病が発症する主な要因には、先天性や家族性の問題、免疫疾患、細菌感染症(レプトスピラなど)、尿路結石、中毒、慢性尿路感染症、腎毒性物質への曝露、膀胱腫瘍などが含まれます。

犬の慢性腎臓病は、症状の重度に基づいて4つのステージに分類されます。初期のステージ1と2では、症状はほとんど見られないか、あっても軽度です。

しかし、病気がステージ3に進行すると、食欲不振、元気の消失、貧血などのより顕著な症状が現れ始めます。病状がさらに進行し、ステージ4に至ると、老廃物の異常蓄積や電解質異常などが起こり、これらは腎臓病(腎不全)の末期症状として尿毒症を引き起こすことがあります。

尿毒症にかかりやすい犬の特徴

尿毒症にかかりやすい犬の特徴

尿毒症、とくにその原因となる慢性腎臓病は、あらゆる犬種で発症する可能性がありますが、とくに高齢の犬ほど慢性腎臓病を発症する確率が高くなります。これは、歳を取るにつれて腎臓の機能が自然に低下し、老廃物の処理能力が衰えるためです。

食生活も慢性腎臓病のリスクに大きく影響します。塩分やたんぱく質の摂りすぎは腎臓に過度の負担をかけ、腎機能の低下を早める可能性があります。塩分は血圧を上昇させ、これが腎臓にダメージを与える一因となります。また、たんぱく質の過剰な摂取は、腎臓が処理しきれない量の老廃物を生み出し、結果として腎臓に負担をかけます。

これらを踏まえると、高齢の犬や、不適切な食生活を送っている犬は、尿毒症にかかりやすいと言えるでしょう。

犬の尿毒症の診断

犬の尿毒症の診断

犬の尿毒症を診断するには、既往歴や犬の症状に関する聴取が行われます。次に、獣医師による視診と触診を通じて、犬の体の外から異常を探ります。

尿毒症を含む腎臓の問題が疑われる場合には、血液検査や尿検査、エコー検査などが実施されます。

血液検査

尿毒症にかかっている犬には、BUN(尿素窒素)、クレアチニン(Cre)、リン、および電解質の数値に異常が見られることが一般的です。これらの数値は、腎機能の低下と直接関連しており、腎臓が血液から老廃物を効果的に除去できていないことを示しています。また、貧血の兆候が見られる場合もあります。

さらに、多臓器不全が生じている場合は、血液検査のあらゆる数値に異常が見られることがあります。これは、腎機能障害が他の臓器にも影響を及ぼしていることを示しています。

尿検査

腎臓病を患っている犬には、尿蛋白や潜血、尿が薄いなどの特徴が見られます。また、症状が進むと、尿の量が極端に少なくなる、あるいはほとんど出なくなる場合もあります。

エコー検査

エコー検査(超音波検査)は、腎臓や膀胱の構造を直接視覚的に評価するために用いられます。この検査によって、腎臓の萎縮や腫大、構造の変化、結石の有無、膀胱の腫れや尿の蓄積、腫瘍などの異常を検出することが可能です。

犬の尿毒症の治療

犬の尿毒症の治療

尿毒症の治療は、その原因となる腎機能障害の程度によって異なりますが、基本的には脱水症状の管理、腎機能のサポート、および潜在的な原因の治療に焦点を当てて行われます。

点滴

点滴による水分補給は、腎臓病を患っている犬に対する基本的な治療です。腎臓病の犬は脱水症状を起こしやすいため、点滴によって体内の水分バランスを整え、腎臓への血流を改善することができます。

薬物療法

状況に応じて、さまざまな薬物療法が導入されます。

まず、尿が出ない場合には利尿剤が用いられます。これは尿の生成を促進し、余分な液体やナトリウムの排出を助けます。細菌感染が疑われる場合は、抗生剤による治療が行われます。

免疫性疾患が疑われる場合は、炎症を抑制するためにステロイドが使用されることがあります。貧血の治療には、増血剤などを使用するケースがあります。

血液透析

急性の腎障害が原因で腎臓がほとんど機能していない場合、血液透析が必要になることがあります。血液透析は、血液から余分な水分や老廃物を除去し、水・電解質代謝と酸塩基平衡の異常を改善するための処置です。

この治療は、専門的な技術を要するため、全ての動物病院で提供されているわけではなく、場合によっては専門の施設への紹介が必要になることがあります。

犬の尿毒症の予防

犬の尿毒症の予防

尿毒症の予防には、その根本原因である急性腎障害や慢性腎臓病を予防することが重要です。これらの病気は中毒や感染症が原因となることもあり、日常的に予防措置を講じることで、尿毒症の発症リスクを低減できます。

レプトスピラ症の予防

レプトスピラ症はレプトスピラ細菌によって引き起こされる人獣共通感染症で、とくに犬の肝臓と腎臓に影響を与えます。この病気は診断が困難のため、予防が非常に重要です。軽度の場合は自然治癒することもありますが、重症化すると命に関わることがあります。

予防には、混合ワクチンによる年1回の予防接種が効果的です。しかし、全ての混合ワクチンがレプトスピラ症を予防するわけではないため、接種する際には獣医師に確認しましょう。

また人への感染リスクもあるため、感染が疑われる場合には飼い主も予防策を講じる必要があります。具体的には、愛犬のお世話には手袋を着用し、排泄物や食事の取り扱いに気を配るなどです。

定期的な健康診断も重要です。年に1回程度の血液検査や尿検査により、慢性腎臓病を早期に発見できます。それにより、結果的に尿毒症への進行を予防することができます。

中毒物質の誤食の予防

中毒物質の誤食は犬にとって重大な健康リスクをもたらすため、予防措置が非常に重要です。誤食を防ぐためには、日常生活で犬が危険な物を口にしないように注意を払うこと。とくに、拾い食いをしないようにしつけることが大切です。

食生活に関しては、塩分やたんぱく質の過剰な摂取が腎臓に負担をかけるため、低塩分や低たんぱく質に配慮されたドッグフードを選ぶようにしましょう。これにより、慢性腎臓病の予防に役立ちます。

慢性腎臓病は初期段階では症状がほとんど現れないため、尿毒症が悪化して初めて気づくことが多いです。そのため、愛犬の健康状態に異常がないとしても、年に1回は血液検査や尿検査を受けると安心です。

まとめ

まとめ

犬の尿毒症は、腎臓の機能が著しく低下することで発生します。尿毒症が進行すると命に危険が及ぶ、大変怖い病気です。一方で、飼い主が気をつけておくことで罹患リスクを下げることができます。

重要なのは、適切なケアと定期的な健康チェックによる予防です。この記事を通じて、尿毒症の理解を深め、愛犬の健康管理に役立てていただければと思います。

参考文献