人間の長寿化と同様に、医療技術の進歩に伴って犬も長寿命になってきています。しかし、医療技術が優れたことで新たに問題視されている病気も増えているのです。
問題視されている病気には、犬の肝臓病があります。人間と同様に、犬の肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、触診や症状からは見つけにくい病気のため発見が遅れる傾向にあります。
発見しにくい病気には、一体どのように対応すればよいのでしょうか。本記事では犬の肝臓病を発症する原因・症状・治療方法・予防方法について詳しく解説します。
急に愛犬の食欲が低下するといった症状が見られる、愛犬の健康管理ができているのか心配になる場合には、ぜひ参考にしてください。
犬を苦しめる「肝臓病」とはどのような病気?
まずは肝臓病の前に肝臓がどのような働きを持っている臓器なのかについて説明します。肝臓は、腸から吸収した栄養分を燃やしてエネルギーに変換(代謝)したり解毒したりするための臓器です。
胸とお腹を隔てる横隔膜のお腹側に接した位置にあり、犬の体の中で最も大きな臓器とされています。心臓から送られてくる血液の約4分の1が肝臓に供給されるほど、重要な役割を持つ臓器といえるでしょう。
肝臓は肝細胞・胆管・血管から構成されています。肝臓病に該当する主な腫瘍としては、以下の通りです。
- 結節性過形成
- 肝細胞腺腫
- 肝細胞がん
- 肝胆管がん
- 胆管がん
- 血管肉腫
- カルチノイド
- その他悪性腫瘍
上記の結節性過形成・肝細胞腺腫・肝細胞がんは肝細胞由来で発症する腫瘍とされています。肝胆管がん・胆管がんは胆管由来、血管肉腫・カルチノイド・その他悪性腫瘍は血管由来の腫瘍です。
肝細胞由来の病気を発症する確率が最も多く、全体の8割以上を占めます。基本的に孤立性の発症であれば結節性過形成・肝細胞腺腫・肝細胞がんは、予後は良好になる可能性もあるでしょう。
犬が肝臓病を発症する原因とは?
犬の肝臓病とはどのような病気なのかについて先述しました。次は、肝臓病を発症する原因について詳しく解説します。
発症リスクを高める原因は、以下の3つです。
- 感染症
- 薬物中毒
- 肥満
それぞれ詳しくみていきましょう。
感染症
犬の肝臓病を発症する原因の1つ目は感染症です。
- アデノウイルス1型
- レプトスピラ
- 寄生虫
- 真菌
上記のようなウイルス感染症や細菌感染症から肝炎を引き起こします。症状が悪化したり病気が進行したりすると、肝臓病へと繋がる可能性が高まるでしょう。
特に犬伝染性肝炎ウイルスとも呼ばれるアデノウイルス1型は、数日から数ヶ月生存できる強い病原体で世界中に分布しています。
アデノウイルス1型はアルコール消毒や石けんでは抵抗性があるため、除菌の効果が薄い傾向にあります。アデノウイルス1型を死滅させるには、アンモニウム塩以上の強さのものを準備する、もしくは56℃のお湯が必要です。
また、感染した犬の排泄物にアデノウイルス1型が残っているため、ほかの犬の口や鼻を近づけないように注意が必要です。
ほかにも細菌感染はケガや衛生環境が悪い状態で引き起こす可能性があります。愛犬の状態や衛生環境にも留意しましょう。
薬物中毒
2つ目の肝臓病を発症する原因は、薬物中毒です。薬物中毒は、麻酔薬や銅の蓄積によって中毒症状が引き起こされる物質として挙げられます。
麻酔薬が必要となる治療を受ける場合には、薬物中毒にならないよう投薬量には気をつけましょう。
また、銅を蓄積させる原因はドッグフードの添加物であると、アメリカの研究者が懸念を示しました。実際に市販のペットフードを調べてみると、銅濃度を測定した結果は基準値の倍以上のものが出てきています。
全てのドッグフードに該当するわけではありませんが、犬が食べるものにも注意が必要です。
肥満
犬の肝臓病が発症する原因の3つ目は、肥満です。犬も人間と同様に、肥満はさまざま病気のリスクを高める原因として示唆されています。
特に抗体を持たない子犬に高脂質な食事を与えて肥満になると、犬伝染性肝炎ウイルスに対する抵抗力が低下することが判明しています。
抵抗力の低下に伴って、生存率も低下していくのです。成犬であっても、高脂肪食や運動不足は肥満を引き起こす原因になります。
おやつを与え過ぎて、肥満になることは避けるようにしましょう。ほかにも、肥満になると麻酔の効きが強まり過ぎて薬物中毒を引き起こしやすくなる傾向にあります。
肥満は感染症や薬物中毒などの肝臓病を発症する原因を高めることになるため、犬の健康管理には十分注意しましょう。
犬の肝臓病に見られる症状
冒頭でも触れた通り、再生能力が非常に高い肝臓は「沈黙の臓器」ともいわれています。肝臓病が進行して状態が悪化しなければ、病気の症状が表れてきません。
また、犬は我慢したり人間に弱みを隠したりする習性があります。気づいた時には手遅れだったなんてことを防ぐためにも、日頃から愛犬の行動を把握しておきましょう。
そのため、以下のような症状が見られた場合には速やかに動物病院へ受診する必要があります。
- 食欲不振
- 嘔吐・下痢
- 黄疸
それぞれの症状について、下記で詳しく解説しましょう。
食欲不振
よく見られる症状の1つ目は、食欲不振です。研究結果からは肝臓病を発症した犬の内、約61%に食欲不振が見られたと報告されたデータもあります。
- 食べる量が減る
- 食事に興味を示さなくなる
- 食べムラが見られる
- 食事の好みが変わる
上記のような曖昧な症状が見られた場合には、肝臓病が進行している場合があります。
また、食欲不振はさまざまな病気の初期症状にも該当します。食欲不振に陥っているかもしれないと感じたら、速やかに動物病院へ受診しましょう。
嘔吐・下痢
よく見られる症状の2つ目は嘔吐・下痢です。研究結果からは肝臓病を発症した犬の内約20~24%に嘔吐・下痢が見られたと報告されたデータもあります。
嘔吐だけだったり下痢だけだったりと症状が1つだけの場合と、嘔吐・下痢の2つの症状が見られる場合があります。急に嘔吐・下痢を繰り返すようなら動物病院へ受診しましょう。
できれば嘔吐・下痢の状態や回数、いつ頃から始まったかなど記録しておくと、スムーズな診断につなげられるため大切です。慌てず、どのような状態なのか記録するとよいでしょう。
黄疸
よく見られる症状の3つ目は黄疸です。黄疸とは、胆汁に含まれるビリルビンという色素が異常をきたして起こる病気になります。
ビリルビンは定期的に排出されるものですが、何らかの理由により排出されなくなると血液内に留まってしまいます。その結果、目・皮膚・粘膜が黄色く変色してしまうのです。
人間であれば皮膚が黄色くなるため発見しやすいですが、犬の黄疸は白目・口腔・陰茎・膣粘膜が黄色に変色します。定期的に白目・口腔・陰茎・膣粘膜を確認する習慣をつけておくことが大切です。
犬の肝臓病における治療法
犬の肝臓病における治療方法は、手術療法が一般的です。特に肝細胞由来で発症する腫瘍であれば、根治が見込める傾向にあります。
ただし、手術療法を受けられない場合もあります。犬が手術に耐えられない・肝臓腫瘍が多発・ほかの疾患(心不全・腎不全など)を併発している場合には高精度放射線治療をすすめられることもあるでしょう。
また、寿命内に肝臓腫瘍が問題にならない傾向にあると判断された場合には、手術を含む積極的な治療を推奨しないこともあります。
治療方法や犬の肝臓病の進行具合を、医師と相談することに留意しましょう。
飼い主が愛犬のためにできる肝臓病の予防法
ここからは愛犬のためにできる肝臓病の予防法について解説します。予防方法は主に3つあります。
- 定期健診を受ける
- 栄養バランスの取れた食事を与える
- サプリメントを活用する
それでは、詳しくみていきましょう。
定期健診を受ける
「沈黙の臓器」といわれる肝臓の病気を自然に発見することは至難の業です。症状もなければ、普段のスキンシップや触診で腫瘍を見つけることはほぼ不可能であるといえます。
そのため、愛犬に定期健診を受けさせることが大切です。定期健診では血液検査・尿検査・レントゲン検査の受診が推奨されています。
人間と同様に年に1度の定期健診がおすすめです。定期健診の費用は受診する動物病院によって異なりますが約8,800円〜25,300円(税込)が一般的とされています。
定期健診の内容はスタンダードプラン・しっかりプラン・シニア犬プランなど、動物病院によっていくつかのプランが準備されていることも多いです。動物病院に問い合わせ、愛犬に合ったプランを検討してみてください。
栄養バランスの取れた食事を与える
犬が肝臓病を発症する原因の薬物中毒でも先述している通り、ドッグフードの中には基準値以上の銅が検出されているものがあります。
そのため、どのような添加物がどの程度使用されているのかを調べたうえで、ドッグフードを与えるように心がけてください。
動物病院がおすすめしているドッグフードや、動物病院で購入できるドッグフードもありますので、心配な方は問い合わせしてみることをおすすめします。
サプリメントを活用する
近年、犬用のサプリメントも多く見られるようになっています。普段の食事に混ぜたり、食後に食べさせたりすることで、愛犬の健康を守る商品です。
肝臓病を防ぐことに特化した商品や、オールマイティーに健康をサポートする商品もあります。どのようなサプリメントを活用すればよいのか迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。
そのような方は動物病院へ相談することをおすすめします。愛犬に合ったサプリメントをいくつかのサンプルで出してくれる動物病院もあります。
サンプルを試しながら、愛犬に合ったサプリメントを取り入れてみることも1つの予防方法として検討してみてください。
愛犬が肝臓病を患った場合の看護のポイント
もうすでに愛犬が肝臓病を患ってしまった場合にできることについても紹介しましょう。できることは以下の通りです。
- 散歩・運動
- 食事・おやつ
- ストレス刺激
- 受診の目安
もちろん愛犬の体調や気分を優先しながら、日常生活に取り入れてみてください。
散歩・運動
散歩や運動は普段から生活に取り入れている方も多いでしょう。しかし、散歩の量や自由に走り回れているかに注目してみてください。
普段はリードを繋いでの散歩がメインな方は、ドッグランを利用して自由に遊ばせることも運動量を上げる1つの方法です。
簡単にできる方法なので、ぜひ参考にしてください。
食事・おやつ
何度も先述している通り、ドッグフードは添加物が多く含まれていないか確認して与えることをおすすめします。もちろんドッグフードだけでなく、おやつも同様です。
また、肥満ぎみな愛犬の場合は食事やおやつの量を見直しましょう。与える量が少なくても高脂肪な食事やおやつであれば、低脂肪のものに変更することをおすすめします。
美味しく食べられるサプリメントをおやつの代用として与える方法もおすすめです。ただし、用法・用量は厳守して与えましょう。
ストレス刺激
犬は食べ物やおもちゃを噛むことで、緊張状態をほぐして副交感神経を刺激することができます。噛むという行動でストレスを発散できるので、適度な噛み応えのあるおやつやおもちゃを与えるとよいでしょう。
ただし、肝臓病を発症している犬にジャーキー類のおやつは肝臓に負担をかける可能性があるため、注意が必要です。
ほかにも適度なスキンシップや犬専用のスペースを確保することでも、犬のストレスを刺激できます。人間と同様に、犬が安心してリラックスできる空間を作ることに留意しましょう。
受診の目安
健康な犬であれば、定期健診は年に1回が推奨されています。しかし、7歳以上のシニア犬の場合は、動物病院へ年に2回ほど受診することがおすすめです。
すでに肝臓病を発症している、もしくは肝臓病を発症している疑いがある場合には、動物病院の医師と相談して受診するスケジュールを相談しておきましょう。
受診する日ではなくとも、愛犬に何らかの違和感を覚えたら速やかに動物病院への受診をおすすめします。愛犬に寄り添って受診するか判断しましょう。
まとめ
犬の肝臓病を発症する原因・症状・治療方法・予防方法について詳しく解説しました。肝臓は「沈黙の臓器」といわれており、初期段階で発見するためには定期健診を受けるほか対策はありません。
愛犬の健康を守るためにも、定期健診は必須であるといえるでしょう。また、ドッグフードやおやつを見直すことも大切です。
人間と同様に犬も食べるものによって、体が作られています。与える食事をしっかり管理することはもちろん、犬は我慢したり弱みを隠したりする習性があるため、普段から愛犬の行動を把握しておきましょう。
少しでも愛犬の健康を心配している方の参考になれば幸いです。
参考文献