猫の直腸脱についてご存知でしょうか。直腸脱は、肛門から直腸が脱出してしまう病気です。
お尻から腸の赤い粘膜が飛び出ているのを初めて見る人は、驚いてしまうかもしれません。
どの年齢の猫にも起こる病気ですが、寄生虫に感染した子猫に起こることが多いようです。また、慢性的な便秘で何度もいきむことも原因になります。
本来は体内にあるべき腸の粘膜が外に出てしまうため、放っておくと炎症を起こしたり壊死したりする場合があります。排便の後には、注意してお尻を見てあげてください。
この記事では、猫の直腸脱の原因・症状・治療法・予防法について解説します。
猫が直腸脱を起こす原因・症状
- 猫が直腸脱を起こす主な原因は何ですか?
- 肛門から直腸がひっくり返って脱出している状態を、直腸脱と呼びます。直腸脱と似た症状に脱肛(肛門脱)がありますが、直腸の粘膜だけが外に出るのが脱肛です。対して直腸脱では直腸壁全層が反転して外に出るという違いがあり、直腸脱の方がより重い症状となります。猫が直腸脱を起こす原因として、以下のものが考えられます。
- 感染症
- 大腸炎
- 膀胱炎・尿路結石症
- 腸重積
- 便秘
- 分娩
- 肛門括約筋のゆるみ
直腸脱の原因として多いのは、慢性的な下痢やしぶり(便意があって何度もトイレで力んでも、ほとんど排便されない)です。猫の下痢は細菌やウイルスの感染や内臓疾患などさまざまな原因がありますが、特に子猫の場合は寄生虫が原因の下痢が少なくありません。下痢を起こす寄生虫で代表的なのは、トリコモナス・コクシジウム・ジアルジアなどです。これらの寄生虫に感染すると下痢を繰り返し、しぶりが続くことで直腸脱が引き起こされます。
また膀胱炎や尿路結石症などを発症すると排尿時に何度もいきんでしまって、直腸脱が起こることもあります。便秘や分娩の場合も同様で、いきみによって強い腹圧をかけることで、直腸が押し出されることが原因の一つです。
ほかにも幼い猫で肛門の機能が発達していなかったり、外傷や加齢などで肛門括約筋(肛門を締める筋肉)が衰えたりすると、直腸が脱出しやすくなります。
- 直腸脱による症状について教えてください。
- 直腸脱が起こると肛門から直腸が脱出しますが、反対にめくれているために、内部の粘膜が露出した状態です。お尻から太くて赤いソーセージのようなものが飛び出すことになるため、一目で気が付くことでしょう。痛みを伴うことも多く、食欲がなくなったりあまり動かなくなったりすることもあります。飛び出た粘膜を舐めたり、かじったりして出血することがあるので、目を離さないようにしましょう。
- 直腸脱を放置するとどうなりますか?
- 直腸脱が起きてから時間が経つと露出した粘膜が乾燥し、炎症を起こして大きく腫れたり、血流障害によって壊死したりすることがあります。直腸が壊死すると、腸内細菌が全身にまわり命にかかわる危険があるため、緊急に壊死した部分を切除する外科手術が必要になります。直腸脱を発見したら放置せずに、速やかに動物病院を受診しましょう。
猫の直腸脱に対する治療法
- 直腸脱の治療法について教えてください。
- 直腸脱の治療として初期の場合は、脱出した直腸を元に戻します。患部を洗浄しブドウ糖液やステロイドなどでむくみを取った後、滑りをよくするために潤滑剤を直腸に塗り、手で肛門内部に押し込む処置です。直腸脱は再発することが多いので、予防として肛門の周囲を縫って巾着の口のように肛門の穴を絞る処置を行うこともあります。
直腸脱の原因となる病気(寄生虫感染や膀胱炎など)があれば、同時に治療することも欠かせません。
- 外科手術は必要ですか?
- 直腸脱を何度も繰り返す場合は、腸をお腹の中に固定して脱出を防止する手術が必要になります。開腹して直腸を肛門内に収めてから、結腸を腹壁に縫合する手術が一般的です。
脱出した直腸が壊死している場合は、病変部を切り取った後に繋ぎ合わせる手術が必要です。外科手術では、麻酔によるリスクや体への負担が問題になります。
- 自宅で飼い主が猫の直腸を戻してあげてもいいですか?
- 腸脱を見つけたら、すぐに処置をすることが重要です。
応急処置として、脱出した直腸の粘膜にワセリン・グリセリン・食用オイルなどの潤滑剤を塗り、指でゆっくりと肛門の中に戻してください。脱出が軽度なら、簡単に戻すことができます。
- 自宅で応急処置する場合の注意点はありますか?
- 猫が痛がって暴れたり、腫れがひどくて戻せなかったりする場合は、無理に戻そうとせずすぐに動物病院で治療を受けましょう。猫が直腸を舐めて傷付けてしまわないよう、エリザベスカラーを着けるのも一つの方法です。
粘膜が乾燥しないように、生理食塩水(水でも)で濡らしたガーゼを当てて、患部を保護してください。麻酔が必要になる場合に備えて、念のため来院の前に食事はさせない方がいいでしょう。
猫が直腸脱を起こさないための予防法
- 直腸脱を防ぐための予防法を教えてください。
- 猫のお腹の中に寄生する寄生虫には、さまざまな種類があります。成長した猫が感染してもあまり症状が出ないことが多いですが、幼い時期に感染すると激しい下痢を引き起こし、直腸脱の原因になる場合があります。中には猫回虫など人間にも感染する寄生虫があるため、猫を家に迎え入れる際には動物病院で寄生虫検査をお願いしましょう。特に野良猫は寄生虫に感染している確率が高いので、病院を受診し駆虫する必要があります。
- 食事面で気をつけることはありますか?
- 直腸脱の原因である強いいきみをしないように、下痢と便秘を予防する食事を与えましょう。お腹の弱い猫には消化がよく、グルテン・乳糖・保存料など食物不耐症の可能性がある成分が入っていないフードがおすすめです。便秘症の猫には食物繊維がバランスよく含まれたフードを与えると共に、便を柔らかくするために必要な水分を摂取することも重要です。猫が自分から飲んでくれない場合は、ドライフードからウェットフードに変更するなど、食事で水分を摂れるようにしてみましょう。
可溶性の食物繊維は腸の調子を整えるので下痢にも便秘にも効果があり、可溶性繊維を豊富に含むサイリウム(オオバコ属の植物の種子の皮を砕いたもの)のサプリメントも市販されています。
しかし急性のものではなく、慢性的な下痢や便秘は何らかの病気である可能性があります。原因の特定のために動物病院を受診し、食事内容も獣医師に相談しましょう。また直腸脱の原因の一つである尿路結石症も、ミネラルやpHを調節した専用の療法食を与える必要があります。
- 定期検診は直腸脱の予防にもなりますか?
- 猫の直腸脱は便秘や下痢で強くいきんだり、しぶりを繰り返すことが原因になることが多いです。そのため原因となる基礎疾患を治療する必要がありますが、定期健診を受けていると病気を早期発見することができます。
軽症のうちに治療を始められれば、直腸脱の発生自体を予防できることでしょう。また寄生虫に感染していないか調べる糞便検査では、1度の検査だけでは見落としてしまう場合があるので定期的な検査が必要です。普段から食欲や排泄などの健康状態を注意深く観察し、定期的に健康診断を受けることで、直腸脱だけでなくさまざまな病気から猫を守ることに繋がります。
編集部まとめ
直腸脱とは、肛門から直腸が反対にめくれた状態で飛び出す病気です。寄生虫感染や大腸炎などの病気による激しい下痢や、長引く便秘で強くいきむことによって起こることが多いです。
脱出して間もない場合はスムーズに肛門の中に戻してあげることが可能ですが、時間が経つにつれて大きく腫れ上がり戻すのが難しくなります。
そのまま放置すると直腸が壊死して、開腹して腸を切り取る手術が必要になる可能性があります。直腸脱を発見したらすぐに動物病院へ行き、原因である病気の治療も受けましょう。
直腸脱を予防するには子猫の寄生虫を駆除することや、下痢や便秘を改善する食事に変更することで効果があります。定期健診で健康に異常がないか確認しておくことで、直腸脱以外の病気も予防できるでしょう。
参考文献