猫の突然死とは?突然死の原因や早期発見の方法、予防のためにできることなど詳しく解説

猫の突然死とは?突然死の原因や早期発見の方法、予防のためにできることなど詳しく解説

愛するペットである猫が突然亡くなることは、飼い主にとって想像を絶する悲しみです。しかし、肥大型心筋症を始めとする病気や、事故、先天性の問題など、猫が突然死に至る原因は多岐にわたります。この記事では、愛猫の健康を守るため、飼い主として知っておくべき情報をまとめました。猫の突然死の原因、とくに注目すべき症状や予防策に焦点を当てて解説します。ぜひ今後の生活の参考にしてみてくださいね。

肥大型心筋症について

肥大型心筋症について

突然死の原因はさまざまありますが、とくに多いのが心筋症。中でも「肥大型心筋症」という病気が原因となるケースが多いです。ここでは、猫の突然死の原因として多く見られる肥大型心筋症について、詳しく解説します。

肥大型心筋症とは

心筋症には「肥大型」「拘束型」「拡張型」の3つのタイプがありますが、猫においては肥大型心筋症が最も一般的です。この病気にかかると、心臓の左心室の心筋が厚くなり、心室が狭くなって心臓が血液を全身に送るポンプとしての機能をうまく果たせなくなります。

その結果、全身に十分な血液・酸素を送ることができなくなり、肺に水が溜まる(肺水腫)や胸の中に水が溜まる(胸水)などの症状を引き起こします。

とくに猫の場合は、溜まった血液によって血栓が発生しやすくなり、「動脈血栓塞栓症」という深刻な状態を引き起こす場合があるのです。こうした合併症が悪化すると、最悪の場合死に至ります。

肥大型心筋症は進行性の病気で、心筋の異常は一度始まると元に戻すことができません。6ヶ月から16歳の間に発症する可能性があり、すべての猫がこの病気にかかるリスクを持っています。

とくにメインクーン、ラグドール、アメリカンショートヘアなどの品種が罹患しやすいと言われていますが、品種に関係なく、どの猫であっても発症する可能性があります。

猫における肥大型心筋症の症状

肥大型心筋症に関する報告によると、約33~55%の猫が無症状であることが分かっています。これは、病気が進行していても明確な症状を示さないままでいる猫が多い、ということです。

しかし、肥大型心筋症は猫にとって重大な健康問題を引き起こす怖い病気です。飼い主は愛猫の様子を注意深く観察し、病気の進行とともに現れるさまざまな症状や行動の変化を見逃さないようにしましょう。

猫が以下のような変化を示した場合、肥大型心筋症の可能性を示唆しています。

・大きな声で騒ぐようになる

・体の動きが鈍くなる

・足の痺れや不自然な動き

・後ろ足の肉球の色が青白く変化したり、ひんやりと冷感を感じる

・トイレの失敗

・呼吸が荒い、口呼吸している

これらの症状は肥大型心筋症でよく観察されるものですが、突発性膀胱炎やてんかん発作、中毒などの可能性もあるため、自己判断せずに速やかに獣医師の診断を受けることが重要です。

上述の通り、心筋症は初期段階では症状がほとんど現れないため、病気が進行して初めて心不全や肺水腫、胸水などの症状が出ることがあります。このような状態になると、病気は既にかなり進行している可能性が高いです。

また、病気が進行するにつれて、不整脈のリスクも増大します。不整脈の中には命に関わるものもあり、病気が進行し心不全に至る前に、突然の不整脈により「突然死」を引き起こすケースもあります。

肥大型心筋症が引き起こす合併症

肥大型心筋症の進行によって引き起こす合併症として、「大動脈血栓塞栓症(ATE)」が挙げられます。

心筋症による心臓内の血液循環の悪化が原因で血栓(血の塊)が形成され、これが動脈を通じて全身に流れ出します。血栓が全身を流れる中で、血管が細い箇所に到達したときに詰まってしまうことがあります。これが、大動脈血栓塞栓症です。

大動脈血栓塞栓症は、非常に深刻な合併症です。痛みや苦しさが非常に強く、また致死率も高いです。症状としては、足を引きずるようになったり、触れられると痛がったりするようになります。

血栓が形成されると、それを溶かす治療や、再発を防ぐための対策が求められます。しかし、一度発生した血栓は、完全に解消するのが難しい場合が多く、猫の生活の質に大きな影響を及ぼすことがあります。

猫の肥大型心筋の治療法

猫の肥大型心筋の治療法

ここでは、猫の肥大型心筋症の治療法について解説します。

肥大型心筋症のステージング

猫の肥大型心筋症の治療において、主な目的は心不全の進行を遅らせ、血栓塞栓症を予防することにあります。

この病気の治療方針は、2020年4月にAmerican College of Veterinary Internal Medicine (ACVIM)によって発表された世界的なガイドラインに基づいています。猫の肥大型心筋症は、病期(ステージング)に合わせて異なる治療が推奨されます。

・ステージA

肥大型心筋症の好発種であるものの、実際には心筋症を発症していない状態を指します。この段階での治療は不要です。

・ステージB1

心筋症を発症していますが、うっ血性心不全や大動脈血栓塞栓症は発症しておらず、発症リスクも低いとされます。定期検診で様子を見る段階です。

・ステージB2

このステージでは心筋症があり、うっ血性心不全や大動脈血栓塞栓症をまだ発症していないものの、今後発症するリスクが高い状態です。血栓症のリスクが高い場合には抗血栓薬の投与が推奨されます。

・ステージC

心筋症があり、且つうっ血性心不全や大動脈血栓塞栓症を発症しています。肺水腫や胸水がある場合には利尿薬の投与や胸水の除去が推奨されます。また、状態が改善するまで利尿薬や強心薬、抗血栓薬、ACE阻害薬が使用されます。

・ステージD

ステージDは最終段階であり、心筋症があり、うっ血性心不全や大動脈血栓塞栓症の治療がうまくいっていない状態です。ここでは利尿薬の変更や、左心室の収縮力が低下している場合には強心薬の使用が検討されます。

猫の肥大型心筋の治療法

肥大型心筋症の治療は、病気の進行を遅らせ症状を緩和させることを目的としています。主に、以下の種類の薬が用いられます。

・強心薬

心筋に作用し、心臓の収縮機能を高めることで、心臓が血液を効率的に全身に送り出すことができるようにします。これにより、心臓の負担を軽減し、症状の改善を図ります。

・抗血栓薬

血栓形成を予防することで、肥大型心筋症に伴う合併症である大動脈血栓塞栓症のリスクを低減します。血栓が形成されることを防ぎ、血液の流れを改善することが目的です。

・利尿剤

利尿を促し、体に溜まった余分な水分を排泄することで、肺に水が溜まるのを防ぐためのものです。

・ACE阻害薬

昔は心臓薬の第一選択薬として使用されて来ました。血管を拡張し血圧を下げることで、高血圧による心臓への負荷を防いだり、浮腫を解消するものです。

猫の肥大型心筋症の予防と早期発見

猫の肥大型心筋症の予防と早期発見

肥大型心筋症によって猫が命を落とすことのないよう、予防策はあるのでしょうか。

猫の肥大型心筋症は予防できるか

残念ながら現在のところ、肥大型心筋症の発症を完全に予防する方法はありません。しかし、病気の早期発見と早期治療開始に努めることで、猫の命を守り、生活の質を維持することは可能です。

このためには、飼い主の積極的な関与と、定期的な健康チェックが極めて重要です。病気が早期に発見されればされるほど、治療による効果が高まり、猫の生活の質を長期間維持することが可能になります。

猫の肥大型心筋症の遺伝的要因

肥大型心筋症は、特定の猫の品種において遺伝的な要因が強く関与しているとされます。とくにメインクーンやラグドールといった品種では、肥大型心筋症に関連する遺伝子の変異が確認されています。

これらの品種においては、特定の遺伝子変異が病気の発症と直接関係していることが示されており、遺伝的スクリーニングによってリスクを事前に把握することが可能です。

しかし、これら特定の品種以外においても肥大型心筋症は発症し、その場合、病気の遺伝的要因ははっきりとしていません。多くのケースでは、遺伝的背景が病気の発症に一定の役割を果たしている可能性はあるものの、具体的な遺伝子の変異やその影響は明確には解明されていないのが現状です。

このため、遺伝的要因の有無にかかわらず、すべての猫において肥大型心筋症のリスクがあると考えられます。「遺伝的リスクがあるとされている品種でないから、心配しなくても大丈夫」ではなく、品種にかかわらず定期検診などの対策を講じておくことが望ましいでしょう。

早期発見のために定期検診の受診を

肥大型心筋症の早期発見は、病気の進行を遅らせ、猫の生活の質を向上させる上で極めて重要です。飼い主が自宅で行える予防策として、以下の二つのアプローチが効果的です。

・心拍数を測る

猫の心拍数は、安静時には通常1分間に130~160拍の範囲内で推移します。運動や興奮時には240拍程度まで上昇することがありますが、安静時に200拍以上を継続する場合、心臓に何らかの異常がある可能性が高いです。

心拍数には個体差がありますので、愛猫の通常の心拍数を知っておくことは、異常を早期に発見する上で重要です。可能であれば、毎日心拍数を測定し、その記録をつけておきましょう。もし異常があった際、すぐに気付くことができます。

・心臓の検査を受ける

肥大型心筋症は、通常の定期検診では発見が難しいことが多いため、心臓に特化した検査を定期的に受けましょう。

血液検査の心臓マーカー(NT-proBNP)なら、少量の血液で検査が可能のため、定期検診時に追加することがおすすめです。心臓マーカーが高値を示した場合は、より詳細な診断のために超音波検査を受けると良いでしょう。

肥大型心筋症以外の猫の突然死の原因

肥大型心筋症以外の猫の突然死の原因

猫が突然死する原因は、肥大型心筋症に限りません。以下のような原因で、突如として命を落とすことがあります。

その他の心臓病や脳梗塞

「梗塞」とは血管が狭くなったり詰まったりする状態を指します。例えば心筋梗塞は、心臓の血管が詰まることで発症します。

猫における心筋梗塞は、肥大型心筋症が引き金となるケースが多いです。肥大型心筋症によって心臓の血液循環が悪化し、心筋に十分な酸素や栄養が供給されなくなることで心筋梗塞が起こります。

また、脳の血管が詰まることで発生する脳梗塞は、猫においても見られます。原因はさまざまで、はっきりしないことも多いですが、高血圧や心臓病などの基礎疾患を持つ猫に発生することが多いとされています。脳梗塞の症状には、片側の麻痺、吐き気、歩行障害などがあります。

感染症

猫における突然死の一因として、感染症(フィラリア症)が挙げられます。

フィラリア症は、蚊を介してフィラリアと呼ばれる寄生虫が媒介される病気です。この寄生虫が猫の肺動脈や心臓に寄生することで、肺や心臓に重大なダメージを与え、最悪の場合、突然死に至ることがあります。

フィラリア症の難しい点は、明確な症状が現れないことが多く、病気の発見が難しいことです。感染した猫には咳、吐き気、食欲不振などの症状が見られる場合がありますが、これらの症状はフィラリア症特有のものではありません。他の病気とも重なるため、早期発見のためには正確な診断を受けることが重要です。

予防には、蚊に刺されないようにすることが基本ですが、完全に避けることは難しいでしょう。このため、予防薬の使用が推奨されています。予防薬は獣医師の処方により入手でき、定期的な投与によってフィラリア症のリスクを大幅に減少させることができます。

事故や外傷による突然死

自動車との衝突は、外に出る猫にとって最も危険なリスクの一つです。猫は速度の感覚や自動車との距離感を正確に測るのが苦手で、予期せぬ速度で車に衝突される事故が発生します。猫を外に出さず、室内で飼育することで自動車事故を防ぐことができます。

・家庭内の事故

気をつけるべきは、自動車事故だけではありません。ネギ類や観葉植物による中毒、トリミング中の落下、シャンプー時のショック死、洗濯機や浴槽での水の事故など、家庭内にもリスクは多く存在します。

とくに、猫が誤って食べてしまう可能性のある物質や物体には注意が必要です。玉ねぎやチョコレート、アルコール類、観葉植物などは猫にとって有害であり、これらの物質を誤食した場合、重篤な健康被害を引き起こすことがあります。

これらの事故や外傷による突然死を防ぐためには、猫の居住環境を安全に保つことが重要です。猫が屋外に出ることを避け、家庭内でのリスクを最小限に抑えるために、危険な物質や物体は猫の手の届かない場所に保管しましょう。

まとめ

まとめ

猫の突然死は予期せずに訪れる悲劇であり、飼い主を悲しみのどん底に叩き落す事態です。しかし、今回ご紹介したように、その原因や予兆を理解することで、一部のリスクは軽減することが可能です。

肥大型心筋症をはじめ、感染症やさまざまな外傷や事故など、猫の命を脅かす多くの要因に対して、早期発見と予防を心がけましょう。

飼い主としてできる最善の対策は、愛猫の健康に対する注意深い観察と、定期検診を受けることです。猫との幸せな時間を守るために、今日からできる予防策を実践しましょう。

参考文献