犬にも腎不全があることを知っていますか?腎臓は体の中から老廃物を排出するなどの大切な役割を果たしていますが、その機能が落ちると体に毒素がたまり、最悪の場合死に至ることもあります。そこでこの記事では、犬の腎不全の治療法や予防方法、早期発見のポイントなどを詳しく解説していきます。腎機能の低下は、特に老齢の犬にみられることが多い傾向にあります。この記事を参考に、愛犬の健康状態をチェックしてみてください。
犬の腎不全について
人間と同じように、犬にも空豆のような形をした2つの腎臓があります。この腎臓が機能不全に陥ることを腎不全といいます。
犬の腎不全とは
犬の腎不全とは、腎臓が障害を受けて十分に機能しなくなることを指します。腎臓は、体の中で不要になった老廃物や毒素を尿として排出する働きをしています。また、赤血球を作らせたり、血圧を調節したりするホルモンを分泌する機能もあります。腎臓が弱ってくると、これらの機能が低下し、貧血や高血圧になりやすくなったり、不要な老廃物をろ過することができなくなったりして、嘔吐・食欲不振・便秘などの症状が現れます。さらに進行すると尿毒症という非常に危険な状態になり、死に至ることもあります。特に老齢期の犬に発症が多く、死亡率の高い病気です。また、犬の種類によってもなりやすさが異なるといわれています。国際獣医腎臓病研究グループによると、下記の犬種は腎臓病になりやすいようです。
- ブル・テリア
- イングリッシュ・コッカー・スパニエル
- キャバリア
- ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア
- ボクサー
- シャー・ペイ
腎不全の種類
犬の腎不全の種類には、「急性腎臓病」と「慢性腎臓病」があります。急性腎臓病とは、出血や感染症、尿路の閉塞などの原因により、急激に腎機能が低下してしまう状態のことをいい、慢性腎臓病とは、腎臓に慢性的な病変が生じ、腎障害を引き起こす状態のことをいいます。また、腎障害には進行度によってステージがあり、下記のように重症度が上がるほど症状が現れてきます。
・ステージ1 初期の腎臓病。症状はほとんどなく、血液検査や尿検査で見落とされる場合もある。
・ステージ2 軽度の慢性腎障害。無症状、もしくは食欲不振・無気力状態などの症状がみられる。
・ステージ3 中等度の慢性腎障害。食欲不振、毛並みの変化、嘔吐、下痢、血尿などの症状が現れることが多くなる。
・ステージ4 末期の腎不全。これまでの全てのステージの症状が現れる。尿毒症にも陥り、意識障害や呼吸の異常なども起こる。
犬の腎不全の原因
腎不全の原因は、細菌などの感染によるもの、中毒によるもの、先天性の疾患や老齢によるものなど、さまざまです。
・先天性疾患
犬の腎臓は人間と同じように2つありますが、一方がない状態で生まれてきた場合、腎不全に至る可能性が高くなります。
・細菌感染
レプトスピラ症などの細菌感染によって、腎臓に炎症が起こり、腎臓内の細胞が攻撃されることがあります。汚い水の中を泳いだり、その水を飲んだりすることによって引き起こされます。
・中毒症
犬は、百合の花やぶどうなどの食べ物を摂取すると、中毒を起こすことがあります。中毒が起こると、腎臓の細胞を損傷する可能性が高くなります。また、人間の薬なども中毒の原因となります。
・歯の病気
歯や歯茎に細菌がたまり、歯の病気が進行すると、細菌が体の中の血液や臓器に入り込んで、腎臓だけでなく心臓や肝臓に損傷を与える可能性があります。
・老年性症候群
歳をとるにつれて体の中の細胞が壊れていきます。これにより、腎不全が引き起こされます。
その他にも、心不全やショックなどによる腎血流量の低下、免疫疾患などによる腎炎、尿路結石症などによる尿路の閉塞などが挙げられます。
犬の慢性腎臓病の症状について
腎臓病はなかなか症状が出にくいという特徴があります。しかし、注意深く犬を観察すれば、初期段階で気づくこともあります。
初期段階の症状
腎不全となる前段階の腎障害でよくある症状は、過度に喉が渇き水をたくさん飲む「多飲」「多尿」が挙げられます。その他にも、食欲がない、口のにおいが気になる、元気がない、口内炎ができる、歯茎が薄くなる、嘔吐や下痢、血尿などの症状があれば、腎機能が弱ってきている可能性があります。このような症状に気づいたら、一度獣医師に相談することをおすすめします。
進行した慢性腎臓病の症状
腎障害は進行すると腎不全となり、尿毒症を引き起こします。尿毒症とは、本来尿として排出されるべき老廃物や血液中の窒素化合物などが多量に蓄積する病気で、非常に危険な状態となります。尿毒症は重症化すると体温低下や痙攣を起こし、死に至る場合もあります。
犬の腎臓病の診断方法
腎臓病の病気の進行具合を正確に判断するためには、検査が必要不可欠です。腎障害や腎不全の診断には、血液検査、尿検査、超音波検査、X線検査などが用いられます。
血液検査
腎臓病で一般的に行われる検査が血液検査です。ここでは、尿素窒素(BUN)やクレアチニン(Cre)などの腎数値の上昇がないかどうかを見ます。血清尿素窒素とは、たんぱく質が分解される時にできる老廃物で、大部分は尿中に排泄されます。しかし、腎機能が低下すると正常にろ過や排泄ができなくなり、検査の値が高くなります。また、クレアチニンは筋肉内で作られ、腎臓から尿中に排出されます。BUNと同じく、腎機能が低下すると数値に上昇がみられます。中でもクレアチニンは腎臓からしか排出されないため、腎臓病のステージ評価にも使われる非常に重要な項目です。また最近では、腎臓病のステージングの基準にも採用されているSDMAや、FGF23を測定することでより早期発見できるようになりました。これらの検査に加えて、高リン血症、貧血などが見られないかどうかもチェックをします。
尿検査
尿検査も腎臓病の検査にはよく用いられます。腎機能が弱ってくると、尿比重が低下してきます。このため、おしっこの色が薄くなり、においもしなくなります。また、尿の中にたんぱく質が多く見られるようにもなります。
超音波検査とX線検査
血液検査などで腎臓に異常がある可能性が指摘されたら、より精密な検査を行うため、超音波検査やX線検査を行います。そして、腎臓の大きさや構造の異常、腫瘍の疑いがないかを確認します。慢性腎障害の場合は、腎臓が萎縮していることも多くあります。
犬の腎不全の治療法
腎臓は、一度障害を受けるとその機能は回復しません。そのため、腎臓の機能が弱っていることがわかったら、すぐに治療を開始する必要があります。犬の腎不全の治療法は、栄養療法、薬物療法、点滴などがあります。
栄養療法と食事管理
腎臓への負担を軽減するためには、食事療法が推奨されます。たんぱく質を多く含む食事は、老廃物のもととなり、尿毒症を引き起こすリスクがあるため、制限が必要です。また、ナトリウムやリンに関しても制限を行い、なおかつ良質な食事を与えることが大切です。食事療法に関しては、腎臓病用の特別療法食がありますので、かかりつけの獣医師に聞いてみるとよいでしょう。
薬物療法(内服薬)
腎臓に負担をかけないための内服薬が用いられることもあります。たんぱく質を腸内で吸着させ、便として排泄させる薬や、腎高血圧を防ぐための降圧剤などが投与されます。このような目的で処方された薬は、基本的に生涯続けることになります。
また、腎臓病によって吐き気・嘔吐がみられることもあります。このような症状が出ると食欲がさらに減退してしまうため、吐き気止めや胃酸を抑える治療薬が処方されることもあります。
さらに、腎臓から分泌される赤血球を作るホルモン(エリスロポエチン)が不足するため、腎性貧血に陥ることも考えられます。この場合は、注射でエリスロポエチンを投与します。貧血がひどい時には輸血を行うこともあります。
なお、腎不全による感染症があると判明した場合は、抗生物質が投与されます。
点滴による治療
点滴は、体液を増加させて尿量を増やすことで、老廃物の排泄を促すために用いられます。
腎臓病になると、腎機能の低下によって高カリウム血症を引き起こす可能性が高くなります。これは病状が末期まで進行していることが多いのですが、このような状態の場合は、高カリウムを防ぐために点滴で水分補給を行いつつ、尿と一緒にカリウムを排泄し、ミネラルバランスを維持する治療を行います。
なお、点滴の方法には皮下点滴と静脈点滴があります。犬の皮膚は伸びやすいため皮下に水分を注入することができるため、皮下点滴は通院で治療する際によく行われる方法です。人間でも行う静脈点滴は、皮下点滴では症状が改善しなかったり、血液検査の数値が改善しない場合に行います。この場合入院することがほとんどです。
腎移植や透析
人間の腎臓病であれば、腎移植や人工透析といった治療も選択肢の中に入りますが、犬の場合はドナー犬の問題や透析のできる施設が非常に限られているため、かなり難しいのが現状です。また、犬の腎移植を行った研究結果によると、手術が成功したとしても生存期間は短いようです。ただし、中には急性腎障害であれば透析治療を施すことのできる動物病院もあるようです。
犬の腎不全予防と早期発見
腎臓病は徐々に重症化する病気で、一度破壊された組織の機能が回復することはありません。また、初期症状が出にくく、症状に気づいた時には重度の腎障害だったということもありえます。ですから、腎不全にならないためには、予防と早期発見が非常に大切です。
犬の腎不全のリスク要因と予防のためにできること
腎機能を守るために、まずは毎日の食事に気をつけましょう。腎不全にならないようにするには、塩分(ナトリウム)の摂取を減らすことが大切です。塩分が過剰になると、血圧が上がり、腎機能にも悪影響を及ぼします。健康な犬であれば比較的多くのナトリウム摂取に耐えられるともいわれていますが、心臓の病気があったり、既に慢性腎障害があったりする場合は過剰摂取に注意が必要です。また、たんぱく質やリンは犬にとって大切な栄養素ですが、腎機能が弱っている場合、腎臓に大きな負担がかかってしまうため制限が必要になります。ただし、食事療法は始めるタイミングを誤ると高カルシウム血症などの原因にもなってしまうため、自己判断で始める前に動物病院に相談することをおすすめします。
逆に積極的に摂りたい栄養素としては、「オメガ3脂肪酸」が挙げられます。オメガ3脂肪酸は必須脂肪酸のひとつで、腎臓を構成する「ネフロン」の毛細血管の炎症を緩和するといわれています。ただし、必須脂肪酸は体内で作ることができないため、食事などで補えるようにフードなどを工夫をしましょう。
また、水分をしっかりと補給することも大切です。脱水症状に陥らないように、欲しい時にはいつでも新鮮な水が飲めるような環境を作ってあげましょう。
さらに、腎臓病の予防には、定期的な運動も欠かせません。元気な犬であれば、出来るだけ運動不足にならないように心がけましょう。疲れやすかったり、散歩に行きたがらない場合は、無理に運動をさせる必要はありませんが、散歩が好きな犬には、気分転換のためにも軽く外に出てみるようにするとよいでしょう。
早期発見のためにやるべきこと
早期発見のためには、定期的な血液検査や尿検査などの健康診断を受けることも大切です。特にシニア期以降は病気になる可能性も格段に高くなりますので、定期検査を欠かさないようにしましょう。また、飼い主自身が腎臓病の正しい知識を身につけ、ステージごとの状態を知った上で、飼い犬をよく観察することも重要です。自宅では、犬の飲む水の量や、排尿の状態などをこまめにチェックしてあげてください。そして、多飲多尿などの症状がみられた場合は、早めの受診をおすすめします。
まとめ
犬の腎臓は一度障害を受けると回復することがなく、徐々に機能が低下していきます。放置をすると高い確率で死に至るため、腎臓病の予防と早期発見は非常に重要です。そのためには、栄養バランスのとれた食事と適度な運動、定期的な検査が大切です。そして腎障害の診断をされた場合は、獣医師の指示に従って早めに治療を始めるようにしましょう。飼い主の正しい知識が、愛犬の命を守ることにつながるのです。