犬には玉ねぎやチョコレートを与えてはいけないと耳にしたことがある飼い主さんも少なくないでしょう。
ですが、なぜ犬に与えてはいけないのかをきちんと理解している飼い主さんは多いとはいえません。なぜなら、犬の中毒症状に関する相談や中毒症状を引き起こして病院へ受診するケースが多々見受けられるからです。
では、玉ねぎやチョコレートは一体どのような中毒症状につながってしまうのでしょうか?本記事では、犬の中毒症状と原因や誤食などの対処法を解説していきます。
愛犬を中毒症状から守りたいと考えている飼い主さんは、ぜひ一読ください。
犬の中毒症状とは
犬が中毒症状を引き起こす原因のほとんどは誤食・誤飲によるものです。あるペットの中毒に関する相談センターからの報告では、誤食・誤飲事故や急性中毒に関する問い合わせが年間約500件に達しているとされています。
さらに衝撃的なのは、年間約500件ある中毒症状の問い合わせのうち9割が犬による事例であることです。では、なぜ犬の中毒症状がこれほど発生してしまうのでしょうか。
これには犬の特性が関係していると考えられています。犬は好奇心旺盛で、自身の行動範囲内にあるさまざまなものに対して関心を持つ動物です。
また鼻が利く犬は見えないところに置いているものでも、匂いで探し出して口にしてしまいます。結果、中毒症状を引き起こしてしまうのです。
ほかにもゴミ箱の中や収納棚を漁ってしまったり、子どもが犬に中毒性のある食べ物を与えたり、落ちたものを拾い食いして中毒症状に発展するケースも報告されています。
犬が中毒症状を引き起こす原因
ここからは、犬が中毒症状を引き起こす原因について解説していきます。具体的には以下の3項目です。
- ネギやチョコレートなどの食品
- 内服薬や化学物質
- 観葉植物
それぞれの原因を詳しくみていきましょう。
ネギやチョコレートなどの食品
まずは前述していた玉ねぎ(ネギ類)やチョコレートなどの食品です。これらの食品は犬が中毒症状を引き起こす代表的な原因として知られています。
主な原因であるネギ類には、玉ねぎ以外にも以下の食品が該当します。
- ネギ
- ニラ
- ニンニク
上記の食品には、有機チオ硫酸化物(チオスルフィン酸化合物)という成分が含まれています。
人間にとっては血液をサラサラにしてくれたり、血栓予防に効果があったりと健康に欠かせない働きをしてくれる成分です。
しかし、犬の体内に有機チオ硫酸化物が入ると、赤血球に含まれるヘモグロビンを酸化させて貧血の症状を引き起こします。
もう1つの代表的な食品であるチョコレートは、カカオに含まれるメチルキサンチン系化合物という成分が中毒症状を引き起こすとされています。
メチルキサンチン系化合物とは、テオブロミンやカフェインなどの総称です。脂肪含有量が高いチョコレートは、膵炎を起こす可能性も否定できません。
ほかにも食品で中毒症状を引き起こすものはいくつかあります。
- 銀杏
- ぶどう
- アボカド
- キシリトール
上記で紹介したものはあくまでも一例に過ぎません。そのなかでもキシリトールは重大な症状を引き起こす可能性が高いとされています。
人間には害がない食べ物でも、犬にとっては毒となるため注意しましょう。
内服薬や化学物質
中毒症状を引き起こす原因の2つ目は、内服薬や化学物質です。内服薬では、人間用の風邪薬や睡眠導入剤を誤飲してしまうケースが報告されています。
内服薬はイメージできても、化学物質と聞いてパッとイメージできる飼い主さんは少ないのではないでしょうか。
犬にとって中毒性のある化学物質は、具体的にお伝えすると以下のとおりです。
- 農薬
- タバコ
- 乾燥剤
- 保冷(保湿)剤
- 化粧品
- 洗浄剤
- 殺虫剤
- 殺鼠剤(さっそざい)
上記のなかでも急性中毒を引き起こしている件数が多発しているのは、殺虫剤です。殺虫剤に続いて、乾燥剤・保冷(保湿)剤・殺鼠剤と報告されています。
特に家庭用の床に置くタイプの殺虫剤は、犬が誤って食べてしまう傾向にあります。ゴキブリ駆除に使用するホウ酸団子が代表的です。
保冷(保湿)剤については、あまりピンとこない飼い主さんも少なくないでしょう。近年の温暖化や異常気象により、ペット用のひんやりマットや枕などを導入するご家庭も増えています。
これらのひんやりマットや枕には保冷剤や不凍液が使用されていることがあります。使用中に穴が空いてしまい、誤って保冷剤や不凍液を舐めて中毒症状を発症するケースもあるため、注意が必要です。
観葉植物
お家に彩りや癒し空間を作れることで人気な観葉植物ですが、種類によっては中毒性があります。
お家で観葉植物を育てている飼い主さんは、愛犬が観葉植物に近づかないよう注意すると同時に、中毒性のある観葉植物を覚えておきましょう。
観葉植物で代表的な以下のものは犬にとっては中毒性のあるものです。
- モンステラ
- アイビー
- ポトス
- ポインセチア
上記は育てやすい種類のため、観葉植物として注目されているものです。知らず知らずのうちに室内で育てているケースもあります。
もし該当する観葉植物がある場合には、設置場所を変更するなどの配慮が大切です。
なお、観葉植物はお家だけでなく、公園などに生えている植物にも注意しましょう。散歩中に植物の葉・花・球根・実・種子などを食べて中毒症状を発症したケースも報告されています。
公園や散歩道で気を付けなければならない植物は以下のとおりです。
- イチョウ
- ユリ
- チューリップ
- スイレン
- スズラン
- シクラメン
- セローム
植物公園やイチョウ並木などの公園を散歩させるときは、誤食・誤飲の可能性を懸念する必要があります。もし、誤食した場合には何をどのくらい食べたのか把握しておきましょう。
犬の中毒の症状と特徴
意外と身近なところに犬が中毒症状を引き起こす原因が潜んでいると感じた方も少なくないでしょう。どれだけ注意していても、犬が誤食・誤飲してしまう可能性は否定できません。
誤食してしまったときに迅速に対応できるよう、中毒症状とその特徴をまとめていくので、ぜひ参考にしてください。
嘔吐や下痢
中毒症状として代表的なのは、嘔吐や下痢です。誤食したものや量によって、多少症状が異なります。
例えばネギ類を誤食した場合には、粘膜が薄い色になって尿の色がオレンジ色〜赤色と濃くなる特徴があります。さらに貧血が重度になると、輸血が必要になるでしょう。
内服薬や化学物質の誤食による嘔吐の場合には、重症化すると吐血・黒色便(メレナ)を伴う消化器症状や急性腎障害を引き起こすケースもあります。
誤食による嘔吐や下痢かもしれないと思い当たる節がある場合には、動物病院で受診してみましょう。
体の震えなど痙攣症状
体を震えさせている場合には中毒症状を引き起こしている可能性があります。体の震えがブルブルと激しくなると、痙攣のリスクが高くなります。
痙攣症状は、重症化している可能性が高いです。さらに症状が進行すると、昏睡状態や死に至る可能性も否定できません。
そのため、体が震えていたり痙攣したりしている場合にはすみやかに動物病院で受診しましょう。
虚脱感や食欲不振
虚脱感や食欲不振も中毒症状の1つです。何らかの誤食や誤飲によって消化不良を引き起こしていることが懸念されます。
時間が経つにつれて症状が重症化するケースもあるため、誤食や誤飲が判明しているのであれば、獣医師に相談することをおすすめします。
早期発見は、急激な症状の悪化を未然に防ぐことにつながります。愛犬の様子に違和感を覚えたら、相談や受診できる環境を整えておきましょう。
症状が現れるまでの時間
何度もお伝えしていますが、誤食・誤飲したものや量によって中毒症状は異なります。そのため、症状が現れるまでの時間もさまざまです。
具体的な数字をお伝えするなら、30分以内〜48時間以降に中毒症状が現れます。例えば、ネギ類を誤食した場合に中毒症状が現れるまでの時間は、一般的には摂取後48時間以降とされています。
中毒症状が早い段階で現れるのは、糖アルコールとも呼ばれているキシリトールです。ガム・キャンディー・デンタル製品などに含まれる人工甘味料の一種ですが、犬には少量でも毒になります。
犬の体重1キログラムあたり0.1グラム以上で低血糖の発症が高まるとされていますが、一般的なキシリトール入りのガムには1粒に約0.6グラムのキシリトールが入っています。2粒のキシリトールガムで1.2グラムです。
キシリトールの吸収率は極めて高いため、30分以内に中毒症状が現れます。
- 意識の低下
- 脱力
- 昏睡
- 痙攣
上記のような低血糖の症状がみられ、危険な状態に陥りやすいとされています。誤食したものに限らず、時間が経過すれば経過する程、状況が深刻になる可能性があることに留意しましょう。
犬が中毒症状を起こしたときの対処法
犬が中毒症状を起こしたときの対処法は主に3つあります。
- 誤飲・誤食の原因物質の種類や量を把握
- 誤飲誤食したものの持参し相談する
- 誤食したものと犬の種類や体格でも治療法が異なる
それぞれを詳しく解説していきます。
誤飲・誤食の原因物質の種類や量を把握
犬の中毒症状に対処するうえで、誤飲・誤食の原因物質の種類や量を把握することは大切です。
後述する内容ですが、誤飲・誤食の原因物質の種類や犬の種類・体格によって治療方法が異なるためです。原因をしっかり把握できなければ適切な対処を施すことは難しくなります。
まずは、愛犬の中毒症状の責任追求と状況把握を徹底することが大切です。
誤飲誤食したものを持参し相談する
愛犬の中毒症状の責任追求と状況把握ができたら、すみやかに動物病院で受診しましょう。その際に、誤飲誤食したものを持参することで早期治療につなげられます。
原因物質の持参も大切ですが、いつどこでどのくらい誤食したのか獣医師に伝えることを心がけましょう。
誤食したものと犬の種類や体格でも治療法が異なる
犬の種類や大きさによって、中毒症状が現れる確率が変化します。さらに、急性中毒症状を発症した件数を年齢別で分けると、0〜1歳の子犬が大半を占めています。
子犬は原因物質の摂取量が少量であっても、急性中毒症状を引き起こすリスクが高いです。例えば、玉ねぎの中毒量は5〜30g/kgです。
体重4kgの小型犬であれば、玉ねぎが大サイズでは1/12個、小サイズでは1/8個分が約5gとなり中毒症状が現れるとされています。人間でもカフェインの中毒量が子どもと大人で異なることと同様です。
このように犬の症状や原因物質と摂取量によって、催吐処置・点滴・毒素吸着剤投与などの治療を行います。中毒症状の進行具合に応じて、胃洗浄・輸血・拮抗薬・脂肪乳剤などの治療方法を用いる可能性もあると知っておいてください。
犬の誤飲・誤食を予防する方法
大切な愛犬を中毒症状から守るためには、予防対策が必要不可欠です。では、具体的な誤食・誤飲を予防する方法をお伝えしていきましょう。
どの予防方法も簡単にできる内容ばかりなので、ぜひ実践してみてください。
中毒の原因になるものの管理方法を見直す
予防をするうえで、犬の習性は把握しておきましょう。先述しているとおり、犬は鼻が利くため見えないところに置いているものでも、匂いで探し出して口にするくらい好奇心の高い動物です。
そのため、中毒の原因になるものの管理方法を見直す必要があります。特に、床に置く観葉植物や殺虫剤などは中毒症状のリスクを伴います。
どうしても殺虫剤や殺鼠剤を設置する場合には、犬の行動範囲外の場所に設置するか、犬が届かないようゲージでカバーするといった工夫が必要です。
また犬が関心を持たないように、可能な限り犬の目がつかない場所で内服薬を服用する・犬が開けられないカギ付きの収納ケースで中毒物質を管理するなども有効な手段です。
散歩中に目を離さない
家のなかでも外でも犬の中毒症状を招く原因物質は身近な所にあります。散歩中には犬から目を離さないよう注意が必要です。
とはいえ、散歩中に犬から常に目を離さないことは難しいでしょう。よく通る散歩道に中毒性のある観葉植物がないか、愛犬も飼い主さんも心置きなく散歩できるようなドッグランがないかなど、普段からいかにリスクを回避できるかに注目してみましょう。
落ちているものを口にしないようトレーニングすることも、中毒症状のリスク分散に有効な手段なので、ぜひ検討してみてください。
まとめ
今回は、犬の中毒症状と原因や誤食などの対処法を解説していきました。
意外なことに犬の中毒症状を引き起こした原因の大半は、家庭用の殺虫剤や保冷剤などの化学物質です。
特に子犬は好奇心旺盛で体の発達も未熟なため、原因物質を少量摂取しただけでも急性中毒を発症する危険性は否定できません。
犬の誤食による中毒は、飼い主さんが日ごろから気を付けてあげれば防げることがほとんどです。
おいしいものでなくても、好奇心で口にしてしまうことがあるため、飼い主さんが「口にするとは思わなかった」と後悔されることも多々あります。
おもちゃ以外のものは犬の届かない場所に保管するよう、十分注意してあげましょう。
少しでも愛犬を守ることに役立てれば幸いです。
参考文献