人間と同じように、犬も皮膚炎を発症することがあります。犬の皮膚炎は、決して珍しい病気ではありません。犬種に関わらずどんな犬でも皮膚炎になる可能性はあり、さまざまな症状が出るため気づきやすい病気ではあります。では、犬が皮膚炎になった場合、どのような症状が出るのでしょうか。本記事では犬の皮膚炎の症状や種類、原因、治療法、予防法について、詳しくご説明していきます。
犬の皮膚炎の症状
犬は普段から被毛に覆われているため、皮膚が見えることはあまりありません。犬の皮膚炎に早めに気づいて対策するために、犬が皮膚炎になった場合に見られる主な症状を、いくつかご紹介します。
かさぶたやフケが出る
かさぶたやフケが出ている場合、皮膚炎の可能性があります。痒みがあるような仕草をする場合は感染症や寄生虫などによって症状が出ていることが考えられ、痒みがあるように見えない場合は、栄養状態の悪さや内分泌疾患(ホルモン異常)などによって症状が出ていることが考えられるでしょう。
脱毛
皮膚炎と脱毛は、切り離して考えられないところがあります。犬は基本的に身体中に被毛が生えていて、直接皮膚を見る機会はありません。そのため犬の脱毛によって、皮膚炎にかかっていると気づくきっかけになることが多くなっているのです。
脱毛時に確認したい点としては、毛が切れているか切れていないか、痒みがある様子があるかどうかの2点です。毛が切れているのであれば、何らかの理由により自分で傷つけたり、毛がもろくなる病気であったりという原因が考えられます。何も生えていないように見えるのであれば、内分泌異常などの原因も考えられるでしょう。
脱毛が見られた場合は、犬の全身をくまなく観察し、脱毛の場所を把握しておくことが大切です。
痒がる
犬が痒みを感じたときにする仕草としては、痒みを感じる部分を舐める、引っ掻く、どこかにこすりつけるなどがあります。普段と違う様子が見られる場合は、犬の身体をしっかりと確認してみましょう。
痒みの症状が重度になると、犬は昼夜を問わず掻き続けるようになります。その結果、皮膚に傷ができ、細菌や真菌が繁殖しやすい状態になってしまいます。また、痒みによるストレスから、食欲不振や元気がなくなるなどの症状も現れることがあります。
発疹が出る
犬に見られる発疹としては、主に丘疹(きゅうしん)や水疱(すいほう)、膿疱(のうほう)などがあります。丘疹とは皮膚が盛り上がる(直径1cm以下)ことで、水疱とはいわゆる水ぶくれであり皮膚の下に直径1cm以下の水が溜まること、膿疱は水疱の中身が水ではなく膿(うみ)であることを指します。
皮膚や体毛が脂っぼくなる
犬の皮膚や体毛が脂っぽく感じたら、それは脂漏症(しろうしょう)という病気の可能性があります。フケが増え、二次的な皮膚の炎症を伴うのが脂漏症の特徴です。
脂漏症は、原発性と続発性に分けられます。原発性は遺伝的なもの、続発性は何らかの病気が引き金となるものです。イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル、アメリカン・コッカー・スパニエル、バセットハウンド、ウエストハイランド・ホワイトテリアなどの犬種は、原発性の脂漏症にかかりやすいとされており、続発性の脂漏症においては、内分泌疾患やアトピー性皮膚炎などが引き金と言われています。
犬の皮膚炎の主な種類
犬の皮膚炎と言っても、実にさまざまな種類があります。犬の皮膚炎には、どのようなものがあるのでしょうか。主な種類をいくつかご紹介します。
膿皮症
ブドウ球菌と呼ばれる細菌に感染することで発症するものを、膿皮症と言います。常在菌であるブドウ球菌は、その名前の通り常に存在している菌であり、通常時は特に悪い変化は起こりません。しかしこのブドウ球菌が過剰に増加、皮膚の免疫機能が低下するなどした場合には、皮膚炎を発症することがあります。
発疹が左右対称にある、黄色味のあるフケが出る、痒がっている、脱毛しているなどの症状が見られることが特徴です。症状が出やすい部位は腹部や背中であり、症状が悪化する季節としては高温多湿である梅雨時が多い傾向にあるとされています。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎とは、皮膚にアレルギー症状が出たもので、ハウスダストや花粉などの環境中にあるアレルゲンを原因として発症します。
4歳未満の若いころに発症することが多く、遺伝的に発症しやすいとされる犬種も存在します。痒がる様子が長期間継続している、皮膚に黒い色素沈着が見られる、脱毛しているなどの症状が特徴です。
症状が出やすい部位としては内股や脇、顔周り、足先などです。痒いからと長期間皮膚を搔きむしってしまうと、皮膚がかたくなってしまう可能性があります。また、外耳炎を併発していることも珍しくないため、注意が必要です。
マラセチア性皮膚炎
カビの一種であるマラセチアと呼ばれる真菌を原因として発症するものを、マラセチア性皮膚炎と言います。
皮膚の常在菌であるマラセチアは犬の皮脂をエサとして生息しています。脂漏症の犬では皮脂の分泌が増加するため、マラセチアが増殖しやすく、マラセチア性皮膚炎を発症しやすい傾向にあります。
痒がる様子が見られる、皮膚が赤くなる、普段とは違う独特のにおいがある、べたつきのあるフケが出るなどの症状が特徴です。症状が出やすい部位としては、内股、脇、指の間などがあります。
脂漏症
皮脂成分のバランスの乱れ、皮脂の過剰分泌を原因として発症するものを、脂漏症と言います。皮脂の分泌が多いため脂漏症を発症しやすいとされている犬種は、アメリカン・コッカー・スパニエル、シーズー、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアなどです。
身体にべたつきがある、フケが多く見られる、ベタベタした黒い耳垢がある(外耳炎の併発)といった症状が特徴です。症状が出やすくなる季節は、皮脂の分泌が増加する高温多湿な季節ですから、特に梅雨時から夏にかけては気にかけておくようにしましょう。
ニキビダニ症
ニキビダニと呼ばれる毛包虫が毛穴に寄生することで発症するものを、ニキビダニ症と呼びます。
若い犬やほかの病気にかかっている犬など、免疫力が安定していないときにはニキビダニが増加しやすい傾向にあり、母犬が母乳をあげる際、子犬にうつしてしまうこともあるため、注意が必要です。症状が出る部位としては、毛穴です。足先や顔周りの皮膚などに多く見られ、脱毛、発疹、赤みなどの症状が出ます。
皮膚糸状菌症
カビの一種である皮膚糸状菌と呼ばれる真菌によって発症する皮膚炎を、皮膚糸状菌症といいます。人間にも感染することがあるため注意しましょう。症状としては、痒がる様子がある、発疹(赤いドーナツ状)があるなどです。
犬の症状が出る部位としては足先や鼻先が多く、脱毛が見られる、皮膚に赤みが生じる、フケが出るなどの症状が見られます。土の中にいる皮膚糸状菌によって感染する場合もあるなど、感染した動物の毛から感染するだけではありませんので、注意しましょう。
犬の皮膚炎の原因
犬の皮膚炎には、さまざまな種類があることがわかりました。では、犬の皮膚炎の原因には、どのようなことが考えられるのでしょうか。考えられる原因を、いくつかご紹介します。
環境要因
犬の皮膚炎については、家庭内の環境が原因となって発症する場合もあるため、家庭内の環境を整えることは大切です。高温多湿な環境になりやすい梅雨時~夏にかけては、除湿器やエアコンなどを使用し、温度と湿度を調整するようにしましょう。また、冬など乾燥しやすい時期には、加湿器や犬用の保湿剤を使用し、皮膚の水分量を保つことで、皮膚のバリア機能を守ることができます。
食事要因
犬の皮膚炎は、食物アレルギーが原因であることも珍しくありません。牛肉や鶏肉など、食事の中で摂取するものによって発症するのです。症状としては、痒みや慢性的な下痢などが見られるでしょう。総合栄養食を与えている場合は、必要とされる栄養素がバランス良く含まれています。しかし、毛にツヤがないなど皮膚のことで気になることがあれば、サプリメントで皮膚や毛のケアができるものを与えてみることも視野に入れると良いでしょう。
寄生虫
ノミやヒゼンダニ、マダニ、シラミなどの寄生虫による感染も犬の皮膚病の原因になります。なお、ノミやマダニは薬で予防できます。特に、ヒゼンダニによって起こる疥癬(かいせん)という皮膚病の症状は強くなる傾向にあります。このダニは皮膚にトンネルを作って寄生するため、激しい痒みや炎症を引き起こします。伝染性が強いため、ヒゼンダニに感染している動物との接触や、ブラシなどの共有などは避けるようにしましょう。
ストレス
生活状況や犬の性格なども、皮膚炎の発症に無関係だとはいえません。アトピー性皮膚炎の場合、ストレスにより悪化するといわれています。また、ストレスを感じている犬には陰部を舐める、脇腹を吸う、しっぽを噛む、足先を舐めるなどの行動が見られるため、部分的な皮膚炎の原因になり得るのです。
犬の皮膚炎の治療
犬が皮膚炎になってしまった場合、どのような治療が行われるのでしょうか。主な治療法である内用薬、外用薬、注射、食事療法について、順番にご説明します。
内服薬
内服薬は、抗生物質、抗ウイルス剤、ステロイド、抗真菌剤、免疫抑制剤、抗ヒスタミンなど実に多くの種類があり、これらの内服薬を組み合わせて処方されます。薬の飲ませ方、タイミングなどを動物病院でしっかりと確認しておきましょう。
外用薬
外用薬は、部分的に効果を発揮します。外用薬のメリットは副作用が出にくいとされている点で、デメリットは薬を塗った場所を犬が舐めようとしてしまうことです。薬の塗り方や、薬を舐めてしまわないよう工夫する必要があります。
注射
犬によっては内服薬も外用薬も使用できない場合があり、その際の治療法として注射という方法もあります。ただしアトピー性皮膚炎については、完治ではなく良い状態をキープするための治療となります。
食事療法
総合栄養食や皮膚のケア用のフードを与えていても改善が見られない場合、食事の中のどの物質が皮膚炎の原因なのかを調べる必要があります。食事療法とは、その調べた結果をもとに、犬に合った食事を与えることによって、皮膚病を改善させる治療法です。
犬の皮膚炎の予防法
できるだけ犬が皮膚炎にならないように気を付けたいところですが、そのために日ごろからできる予防法はあるのでしょうか。日常的なケア、予防薬、ストレス管理の方法について、具体的にご説明します。
日常的なケア
日常的なケアとして取り入れたいのがブラッシングです。ブラッシングには抜け毛を除去する、毛を整えるという役割がありますが、その影響によって皮膚の血液の循環を促してくれるため、皮膚のバリア機能を高めることができるでしょう。
また、定期的にシャンプーを行うことも大切です。汚れや余分な皮脂を洗い流すことで皮膚や被毛の状態を清潔に保ちましょう。シャンプー後には保湿をすることで、皮膚表面の角質層をケアすることができます。犬の皮膚はデリケートなため、犬用の低刺激性のシャンプーを選びましょう。市販のシャンプーであれば月に1回程度にして、皮膚に問題がある場合は動物病院で処方されたシャンプーを使用しましょう。洗う際は、シャンプーをしっかりと泡立ててから洗うようにすると良いでしょう。
ノミやダニの予防薬
あらかじめ予防薬を投与しておくということも、犬の皮膚炎には効果的だと言えます。予防薬を選ぶときは、犬の性格や好み、犬の体重に合うものを選ぶようにしましょう。かかりつけの動物病院で相談し、合うものを選んでもらうと良いでしょう。
予防薬の効果が続くのは通常1ヶ月ですが、種類によっては3ヶ月効果が続くものもあります。忘れないよう定期的に予防薬を投与することで、ノミやダニが寄生することを防ぎ、皮膚炎の予防にも繋がります。冬でも暖房が効いている部屋であれば危険はありますので、ノミやダニの季節ではないからと油断することなく、年中予防につとめるようにしましょう。
ストレス管理
人間と同じように、犬もストレスの管理が肝心です。飼い主と犬との信頼関係が築けていない、散歩に出る機会が少なく運動不足になっている、身体の大きさに対して小さなケージに閉じ込めている、同居しているほかの動物との仲が悪いなど、そういったストレスをできるだけ取り除いてあげるよう心がけましょう。
編集部まとめ
いかがでしたでしょうか。犬の皮膚炎は、遺伝的なものから環境に要因するものまで多岐にわたるため、すべてを予防することは難しいかもしれません。もしも普段と様子が違う、脱毛が見られる、痒がるような仕草を繰り返すなどの症状が見受けられる場合は、患部を確認し、動物病院を受診するようにしましょう。また、食事や環境に気を配り、皮膚炎の予防と改善に努めましょう。