愛犬や愛猫が突然、嘔吐や下痢を始めたら、飼い主としてはとても心配になるものです。消化器症状は単なる一過性のものから、重大な病気が隠れていることもあります。
本記事では動物病院での消化器ケアについて以下の点を中心にご紹介します。
- 動物病院の消化器科について
- 動物病院の消化器科で行われている検査
- 動物病院の消化器科で扱う主な疾患
動物病院での消化器ケアについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
動物病院の消化器科とは
動物病院の消化器科は、専門的な知識と技術を有する獣医師が診療にあたっており、ペットの消化系統に関連する病気を専門として診断、治療を行います。具体的には、食道から肛門までの消化管全体に加えて、肝臓、胆嚢、膵臓などの消化器官の機能障害や疾患を扱います。
診断の過程では、症状の原因を特定するために詳細な問診が重要です。これには、ペットの食事内容、行動の変化、出現している具体的な症状の性質などが詳細に調査されます。
さらに、血液検査、糞便検査、X線検査、腹部の超音波検査、そして必要に応じてCT検査や内視鏡検査が行われます。
これらの検査を通じて、内臓の異常や感染症、腫瘍の有無などを検出し、場合によっては組織サンプルを採取して詳細な診断を進め治療方針を決定します。
消化器疾患を疑う症状
動物病院において消化器疾患を疑う際に注意すべき主な症状を解説します。
ペットが下痢や嘔吐を繰り返す場合、これらは消化器系の問題の典型的な兆候です。なかでも、便の色が異常であったり、血便が見られる場合は、即時の医療介入が必要です。
また、便秘や腹痛、体重の減少、食欲不振も消化器疾患が原因であることが考えられます。
ペットの消化器系の症状は、時として急を要するものです。もしペットが上記のような症状を示した場合は、迅速に動物病院に連絡し、適切な診断と治療を受けることが重要です。
動物病院の消化器科の診療の流れ
動物病院の消化器科での診療の流れは、以下のように進みます。
- 受付:
まず受付で診察券を提出してください。緊急を要する場合には、事前に電話連絡を入れて状況を伝えたうえで受診することをおすすめします。また、ペット保険などを利用される場合は、保険証の提示を行うことでペットの医療記録が迅速に確認され、スムーズな診療が行えます。 - 問診:
ペットの最近の行動、食事、現れている症状についての詳細な問診により、獣医師が診察に必要な情報を事前に把握します。 - 身体検査:
獣医師によるペットの身体検査が行われます。視診、触診、体温測定などのほか、体重測定や脱水状態のチェックが行われます。 - 追加検査の提案と実施:
症状に応じて、血液検査、糞便検査、腹部エコー検査、レントゲン検査などの追加検査が提案されることがあります。これらは詳細な診断を行うために必要です。 - 診断と治療計画の説明:
検査結果をもとに、獣医師が診断を行い、治療計画を立てます。この段階で、治療計画、リスク、予想される費用について飼い主に詳しく説明し、同意を得ます。 - 治療の開始:
飼い主の同意を得た後、治療が開始されます。治療はペットの状態や症状に応じて行われ、定期的なフォローアップが必要な場合もあります。
こうした一連の流れにより、ペットの消化器系の問題に対して適切な診療が提供されます。
動物病院の消化器科で行う検査
これまで述べてきたように、消化器疾患にはさまざまな消化器症状が現れるため、異常のある臓器を見つけるために、複数の検査を組み合わせて診断が行われます。
ここでは、動物病院の消化器科で行われる主な検査について解説します。
血液検査
動物病院の消化器科で実施される血液検査は、消化器系の疾患を診断し、ほかの健康問題から区別するために重要です。基本の血液検査のほか、肝臓、膵臓、および胃腸の健康状態に関連する数値を詳細に分析します。
肝臓の問題が疑われる場合、血液検査では肝酵素の異常な上昇、ビリルビンの増加、コレステロールレベルの変動が指摘されることがあります。
これらの指標は肝胆道系の障害を示す典型的なサインであり、総胆汁酸の測定など、さらに詳細な肝機能試験を行うことで、肝機能の具体的な問題を特定します。
膵臓の健康に問題がある場合、血液中の膵酵素レベルの上昇や炎症マーカーの上昇が観察されます。また、膵臓腫瘍の鑑別診断の一環として、ホルモンの濃度測定も行われることがあります。
一方で、胃腸の疾患が原因で血液検査に異常が現れることは少ないですが、病状が進行し重度になると、消化吸収が十分に行われず、血液中のタンパク質レベルが低下し栄養状態の悪化を示すことがあります。
これらの血液検査結果から、獣医師は消化器系の疾患の存在を確認し、治療方針を決定します。
糞便検査
動物病院の消化器科で実施される糞便検査は、ペットが消化器系の問題を抱えているかを調べるために重要で、ペットが下痢や下血、嘔吐などの症状を示している時に役立ちます。
まず、ペットの糞便サンプルを採取し、そのサンプルを顕微鏡で直接調べます。この検査で、寄生虫の卵、細菌、真菌などが原因であるかどうかを特定できます。
また、糞便内に含まれる筋繊維、でんぷん粒、脂肪滴を見ることにより、ペットの消化機能が正常に働いているかを確認します。
時には、糞便の遺伝子レベルの詳細な分析が行われることもあり、病原体をより正確に特定します。ただし、一度の検査ですべての問題を発見できない場合もあるため、必要に応じて複数回の検査が行われることがあります。
また、診察時には自宅などでの糞便サンプルを密閉容器に入れて持参することをおすすめします。
X線検査
動物病院の消化器科で行うX線検査は、通常のX線撮影と造影X線検査の二種類があります。
【通常のX線検査】
この検査は、腹部の臓器の大きさ、形、位置を観察し、何らかの異常があるかを評価します。しかし、臓器同士が重なり合っている場合や脂肪の多い動物では、詳細が不鮮明になることがあります。このため、状況に応じて別の検査法を併用することがあります。
【造影X線検査】
この検査では、造影剤を用いて消化管の流れや構造を詳しく調べます。造影剤は消化管内を通過する過程でX線により映し出され、消化管の閉塞や狭窄、異常な走行などを明らかにすることができます。
また、血管造影剤を用いた検査では、肝臓の血管構造や門脈体循環シャントなどの血管関連の異常を評価します。
こうしたX線検査は、誤飲した異物の存在や病気による腸閉塞を発見するほか、肝臓、胆嚢、腎臓、膀胱、子宮などのほかの臓器の状態も一緒にチェックできるため、一度の検査で多くの情報をえられる検査です。
超音波検査
動物病院の消化器科における超音波検査は、ペットの腹部疾患を診断するための非侵襲的な方法です。この検査は、肝臓、消化管、腎臓、膀胱、脾臓などの腹部臓器の超音波映像を提供します。
超音波検査の利点は、麻酔が必要ないことで、リスクが少なくペットにとってもストレスが少ない検査の一つです。超音波検査では、リアルタイムで臓器の形、大きさ、構造、さらには血流の状態まで観察されます。
これにより、腫瘍、炎症、結石、異物などの問題を検出します。また、超音波検査は診断だけでなく、治療や検体採取の際のガイドとしても使用されます。
例えば、腹水や胆汁の採取、腹腔内の小さな腫瘍やリンパ節からの細針吸引などの医療処置を超音波の画像を見ながら行うことで、必要な処置を正確に実施し、安全性の高い治療を提供します。
超音波検査はその迅速さと正確性から、動物病院の消化器科において不可欠な検査方法とされています。
CT検査
CT検査は全身麻酔で実施され、動かない状態で高解像度の画像を取得します。肝臓、胆嚢、膵臓などの消化器系臓器だけでなく、腫瘍の有無や転移の評価にも重要です。
また、CT検査では造影剤を用いて血管や胆管の構造を詳細に映し出すことができ、体内の流れや臓器間の関係をより鮮明に描出し、正確な診断につながります。
CT検査を行った後には、必要に応じて肝臓や胆嚢などの臓器から細胞や組織のサンプルを採取し、細胞診や細菌培養でさらなる病理学的評価を行うこともあります。
このように、CT検査は動物病院の消化器科において、疾患の診断、治療計画の策定、そして治療後の評価において中核的な役割を担っています。
内視鏡検査
動物病院の消化器科で行われる内視鏡検査は、特殊なカメラを備えたチューブを動物の消化管に挿入し、食道、胃、小腸、大腸の内部を直接観察します。内視鏡検査は全身麻酔下で行われ、正確な診断のために内部の映像を詳細にとらえます。
内視鏡検査の主な利点は、実際に消化管の内部を視覚的に確認できることにあります。これにより、炎症、ポリープ、異物の存在、または潰瘍などの病変を特定します。さらに、検査中に異物の回収やポリープの切除、狭窄部位の拡張など、治療的介入も行えます。
内視鏡検査では、必要に応じて組織のサンプルを採取し、病理検査を行うことで、炎症性腸疾患や腫瘍の鑑別診断が行われることもあります。ただし、内視鏡検査には限界もあり、特に小腸の一部など、アクセスが難しい領域の評価は困難な場合があります。
また、治療効果を評価するために定期的な内視鏡検診が推奨されることがあります。このように内視鏡検査は、診断から治療、フォローアップに至るまで、幅広い役割を果たしています。
動物病院の消化器科で扱う疾患
最後に、動物病院の消化器科で扱う主な疾患を4つ解説します。
消化管の異常
動物病院の消化器科では、さまざまな消化管の疾患を診断し、治療しています。取り扱う代表的な病気を以下に述べます。
- 異物の誤飲
- 食道や胃、大腸の炎症を引き起こす食道炎や胃腸炎、大腸炎
- 食道の異常な狭窄を示す食道狭窄
- 食道の拡大症状を呈する巨大食道
- 胃幽門部の狭窄を呈する幽門狭窄
- 慢性的な腸の炎症状態である慢性腸炎や炎症性腸疾患(IBD)
- 腸内での蛋白質の喪失を引き起こす蛋白喪失性腸症
- リンパ系の異常が原因で起こるリンパ腫
- リンパ管が拡張する腸リンパ管拡張症
- 胃や直腸の腺組織から発生するがんである胃腺癌や直腸腺癌
- 胃や大腸に形成される異常な突起物であるポリープ
これらの疾患は消化管の機能障害を引き起こし、動物の健康に重大な影響を与えるため、早期の診断と適切な治療が必要です。
肝胆膵の異常
動物病院の消化器科では、肝臓、胆道系、および膵臓に関連するさまざまな病態を診断、治療しています。取り扱う代表的な病気を以下に述べます。
- 胆嚢内にゼリー状の胆汁が溜まり胆管を閉塞させる胆嚢粘液嚢腫
- 肝臓の長期にわたる炎症反応で機能低下を招いている慢性肝炎
- 肝臓に生じる良性または悪性の肝臓腫瘍
- 門脈から異常な血管が発生し、肝臓を通過せずに直接全身へと血液が流れてしまう門脈体循環シャント
- 膵臓の消化酵素が活性化し自己消化を起こすことで激しい炎症が生じる膵炎
これらの疾患はペットの日常生活に重大な影響を及ぼすため、早期発見と適切な治療が重要です。
感染症
動物病院の消化器科では、感染症による消化管を中心とした器官に影響を与える症状も取り扱っています。
一つの代表的な例として、ジアルジア感染症があります。ジアルジアは小腸に寄生する原虫で、特に保護施設の若齢の犬において感染率が高く見られます。
この感染症は軟便、頻繁な下痢、粘液便などの消化器症状を主に引き起こし、重篤な場合には体重減少や腹痛なども見られます。多くの感染が一過性の症状で終わる一方で、ほかの病原体との共感染が悪化の要因となることもあります。
また、細菌性腸炎もよく見られる疾患です。これはクロストリジウム、カンピロバクター、サルモネラなどの細菌による感染が原因であり、急性の嘔吐や下痢、時には血便を伴うことがあります。
細菌によっては健康な状態のペットでも検出されることがあり、感染が常に臨床症状を引き起こすわけではありません。
なかでも、サルモネラは生肉の摂取から感染することが多い傾向にありますが、クロストリジウムやカンピロバクターはそれ自体が病原性を持ち、腸内での毒素産生によって腸炎を引き起こします。感染症の管理には、感染源の特定と予防措置も重要です。
腫瘍
動物病院の消化器科では、消化器官の腫瘍性疾患に対応しています。以下、代表的な膵臓腫瘍や消化管腫瘍を解説します。
膵臓腫瘍は進行が早く、発見が遅れがちであり、時には外科手術や内科的治療を要することもあります。膵臓は消化酵素とホルモンを分泌する重要な臓器であり、腫瘍が発生するとこれらの機能に影響を及ぼす可能性があります。
膵臓癌と神経内分泌腫瘍の二つの主なタイプが存在し、後者は過剰なホルモン産生を引き起こし、多岐にわたる症状が発現することがあります。
消化管腫瘍は、良性と悪性の両方が含まれ、胃腺癌、リンパ腫、腺癌、消化管間質腫瘍(GIST)などが挙げられます。
これらの腫瘍は嘔吐や下痢、食欲不振、体重減少といった消化器症状を引き起こし、場合によっては消化管の閉塞や穴が開くこともあります。診断は内視鏡検査や細胞診、病理検査を通じて行われます。
これらの腫瘍は進行が速いため、早期発見と迅速な対応が生存率を高める重要な要因です。犬と猫においては高齢化が進むにつれて腫瘍の発生率が上がるため、定期的な健康診断が推奨されます。
まとめ
ここまで動物病院での消化器ケアについてお伝えしてきました。動物病院での消化器ケアの要点をまとめると以下のとおりです。
- 動物病院の消化器科では、食道から肛門までの消化管全体に加えて、肝臓、胆嚢、膵臓などの消化器官の機能障害や疾患を扱い、診断と治療を行っている
- 動物病院の消化器科では、血液検査、糞便検査、X線検査、超音波検査、CT検査、内視鏡検査などの検査が行われる
- 動物病院の消化器科で扱う主な疾患は、異物の誤飲や食道炎、胃腸炎、大腸炎などの消化管の異常や、肝胆膵の異常、感染症、膵臓腫瘍や消化管腫瘍といった腫瘍などが挙げられる
ペットが消化器関連の問題で苦しむ姿は、飼い主にとって心配なものですよね。愛犬や愛猫の健康を守るために、消化器系の異常に対する正しい知識と対応を理解しておきましょう。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。