犬の皮膚炎は決して珍しい病気ではありません。犬は言葉を喋れない分、それを飼い主さんに伝える術を持ち合わせていないのも事実です。日常生活のなかで、愛犬が普段とは違う仕草や行動を示したら、もしかすると皮膚炎を発症している可能性があるのです。
飼い主さんが皮膚炎に関する知識を持たなければ、その行動を見逃してしまうおそれもあります。
こちらの記事では、犬の皮膚炎の治し方、また具体的なよくある病気の症状や予防法策などを解説します。
犬が皮膚炎になる原因

犬の皮膚炎は日常的にみられる病気であり、動物病院の来院理由でも高い割合を示しています。犬は体毛に覆われていますが、その下にある皮膚は人間の皮膚よりも薄くデリケートなため、トラブルも発生しやすいのです。
またトラブルも1つの症状だけではなく、犬によってさまざまなため原因にあった治療をしていかなければいけません。
ここでは、犬が皮膚炎になる原因をおもに3つ解説します。
アレルギー
人間と同じく、アレルギー反応を引き起こすアレルゲンを原因とする疾患です。通常は無害である異物も、犬によっては免疫機能が異常に反応し自分の身体を攻撃するケースがあり、さまざまな症状を引き起こします。
アレルゲンは、花粉やハウスダスト、ダニやノミ、それ以外にも食べ物により発症する例もあり、そのうえ細菌にも感染する二次感染も珍しくはありません。また、遺伝的にアレルギー反応を起こしやすい犬種もいます。
感染症
もともと犬の皮膚には常在菌が存在し、皮膚を健康な状態に保ち、外部からの異物の侵入を遮るバリアとしての働きをしています。しかし、免疫機能の低下により、この働きが弱ってきたときに、菌やウイルス、カビなどが皮膚に付着すると感染症を引き起こしやすくなります。
寄生虫
犬の身体は体毛に覆われているため、寄生虫が入り込みやすい環境にあります。適度な温度と湿度は、寄生虫が生息するのに適しているためです。寄生虫は犬から栄養分を摂取するために皮膚を刺激し、それにより皮膚に異常がでてきます。
寄生虫は外部寄生虫と内部寄生虫に大きく分けられ、皮膚に寄生するのは外部寄生虫で、肉眼では見えないほど小さく、さらに体毛に覆われているため発見しにくいのが特徴です。
犬の皮膚炎の主な症状

犬がやたらと身体を搔くなど、いつもとは違う行動をみせたとき、まずは体毛をかきわけて皮膚の状態を確認しましょう。明らかな症状がそこにでているケースがあるためです。
ここでは、犬にみられる皮膚炎の主な症状を解説します。
かゆみや赤み、脱毛
皮膚に赤みがあったり、腫れたりしていると、そこに炎症が発生している可能性があります。犬が自分の身体を後ろ足で引っかく、舐める、壁などに擦り付けるなどの行動をとるのは、かゆみを感じている可能性が高いです。
また、かゆいあまりに自分で掻き過ぎて毛が途中で切れたり、その部分だけ脱毛したりするケースもあります。かゆみのない脱毛は左右対称で抜けるため、一部分のみが抜けていれば皮膚炎を起こしている可能性があります。
フケや湿疹、臭い
犬のフケは皮膚のターンオーバーや乾燥のほかに、感染症やアレルギーなどの疾患に起因するものもあります。ターンオーバーは古い細胞が剥がれ落ちてフケとなるもので、これ自体は正常な状態であるといえます。ただ乾燥はエアコンや生活環境などによるため、飼い主さんは湿度調整をしてあげるとよいです。
また感染症やアレルギーなどの場合は、フケ以外にも湿疹が見られたり、膿んだようなにおいを発散したりするため、疾患を見分けられる特徴になります。
舐め壊しや掻き壊しによる傷
犬は強いかゆみで皮膚に不快感があると、その部分を過剰に掻きむしってしまいます。そのため自ら傷をつけてしまい、炎症を引き起こす掻き壊しの状態になる例も少なくありません。また傷ができると犬は本能的に舐めてしまう習性があり、これにより化膿を起こす可能性もあります。
犬の皮膚炎を起こす主な病気

犬の皮膚炎はひとことで片付けられるものではなく、さまざまな症状があり、なかには重症化のおそれを含んでいるものもあります。また皮膚のトラブルは犬にとっても大きなストレスです。愛犬が身体を掻きむしっていたり、かじっていたりすれば、なんらかのトラブルが起きている可能性があります。
ここでは、おもな皮膚炎を起こす病気を5つ解説します。
犬アトピー性皮膚炎
犬アトピー性皮膚炎は、かゆみが慢性的に起こる疾患で、1~3歳くらいの若い犬にみられる傾向が高いです。おもにハウスダストのアレルゲンに対する免疫反応が過剰となって起こるため、室内で飼育している犬は要注意であり、かゆみは慢性化するのが一般的です。
また犬種によっては遺伝的要素が大きく働き発症しやすくなるのも特徴であり、柴犬やフレンチブルドッグなどは犬アトピー性皮膚炎になりやすいとされています。
皮膚糸状菌症
この皮膚炎は真菌、つまりカビにより発症する疾患であり、その菌が顕微鏡で見ると糸状に見えるためこの病名がつきました。皮膚糸状菌は自然界に広く分布していて、土や植物など身近なところにも生息する菌です。菌に直接触れて感染するため、普通に飼育されていても感染する可能性は低くありません。
目やお口、耳の周りなど皮膚のやわらかい部分に発症しやすく、特に免疫力が弱い仔犬や高齢の犬は感染しやすいとされます。症状は円形やびまん性の脱毛、かさつきやフケ、また毛包炎となり、膿を持つしこりができるケースもあります。
マラセチア皮膚炎
犬の皮膚には酵母の1種であるマラセチア菌が常在しており、これが過剰に増殖して発症します。マラセチア菌も真菌であるため、湿度と適度な温度が保たれた環境で増殖しやすい特徴を持ち、犬の皮膚はその環境に適しているのです。健康な状態であれば、皮膚のバリア機能が働き発症をおさえられますが、免疫力の低下により増殖が防げなくなり発症します。
症状は赤みやベタベタで、脂っぽいにおいを発する場合もあり、かゆさの余り犬が掻いたりなめたりすると、症状がさらに悪化するため早期の発見が重要です。
膿皮症
常在菌であるブドウ球菌が、皮膚のバリア機能の低下により増殖して起こる疾患です。赤みや脱毛、膿疱と呼ばれる膿などが溜まった発疹が出るもの、また痛みを伴ったただれや腫れがみられる重度な症状がでるケースもあります。ただほとんどの場合、表在性膿皮症と呼ばれる軽度なものであり、命までおびやかすような心配はありませんが、放置しておくと悪化して治療が長引くため早めに対応しましょう。
寄生虫感染
まずよく知られているのはノミで、犬の皮膚にお口を刺して吸血します。そのときのノミの唾液によりアレルギー反応が起こり、かゆみを伴う皮膚炎を発症するのです。また皮膚に穴を掘って寄生するヒゼンダニや外耳道に寄生するミミニゼンダニ、毛包内に寄生するニキビダニに感染すると強いかゆみを伴い、掻きむしりによる出血などがみられます。ほかにもシラミは寄生するとともに、卵を産み付けて増殖していきますが、現在感染例はほぼありません。
犬が皮膚炎になったときの治し方

犬の皮膚炎は、1つの原因により発症するものではなく、いくつかの原因により引き起こるものです。有効となる治し方を見つけるにはまず原因を探らなければいけません。
そのうえで原因と症状にあった治療をしていきます。
ここでは、皮膚炎の治し方を方法別に解説します。
悪化因子の除去治療
悪化因子の除去治療は特に犬アトピー性皮膚炎に有効であり、まずステロイドや抗アレルギー薬などによる基礎治療で症状を緩和します。その後皮膚のバリア機能をサポート、あるいは常在菌の増殖を抑えるシャンプーを使用して症状を抑えていきます。ほかにもアレルゲンを避けた食事療法やアレルゲンを避ける環境対策なども並行して行うと効果的です。
内服薬
内服薬での治し方は、かゆみや炎症に対しては強い抗炎症作用のあるステロイド剤が効果的で、ただ長期間の服用は副作用のおそれもあります。細菌の感染には抗生剤や抗真菌剤の投与が行われ、これにより細菌の増殖を抑えられます。ただウイルスや細菌以外の病原体には効果がありません。
薬用シャンプー
薬用シャンプーは、抗菌成分や抗アレルギー成分、保湿成分などが配合されていますが、皮膚のトラブルの種類により配合が異なるため症状により使い分ける必要があります。例えば、膿皮症の治療には抗菌効果や殺菌効果のあるもの、アトピー性皮膚炎では刺激が低く保湿成分を含んだものとなります。
犬の皮膚の症状と合わないものを選ぶと症状が悪化するおそれがあり、使用する際は獣医へ相談するとよいでしょう。
食事療法
皮膚炎で正常な機能を失った皮膚を、もとの健康な皮膚に戻すためには食事療法が欠かせません。食事で大切なポイントは栄養バランス、タンパク質、そして脂質の3つであり、特に大切なのがタンパク質です。タンパク質は消化率の高いものを選ぶ必要があり、手作り食で肉や魚を与える場合は加熱処理をすると消化率があがります。また、市販のフードであれば消化によい材料が使用されているものを選ぶとよいでしょう。ただアレルギーの原因が食物にある場合は、食材を断定してから選ばなければいけません。
犬の皮膚炎が治りにくかったり再発したりする理由

皮膚炎はいったん治まったように見えても、再発するケースも珍しくはなく、治りにくい疾患であるのも事実です。
ここでは。皮膚炎が治りにくい原因や再発する理由を解説します。
根本原因が特定しづらい
皮膚炎を引き起こす原因が1つではない場合や、特定が困難な場合は治し方がわかりにくくなり、いったん治ったとしても再発する例も珍しくありません。原因が単独でない場合、1つ1つ原因を探っていき、それに合った治療をする必要があり、時間がかかるうえ症状が悪化するおそれもあります。
また遺伝的な素因による皮膚炎では、根本原因が特定できても完治は難しく、病気と付き合いながら暮らしていかなくてはいけません。
皮膚がデリケートで薄い
犬は体毛で身体が覆われている分、皮膚が薄くデリケートな動物です。その薄さは人間の皮膚の4分の1から2分の1程度しかなく、外部からの刺激には弱く、敏感に反応してしまうのです。また犬の皮膚のpH値は中性からややアルカリ性であり、細菌の繁殖もアルカリ性の環境下で起こりやすくなるため、治療の効果がでにくくなってしまいます。
ターンオーバーが乱れている
皮膚は常に古い細胞と新しい細胞との入れ替えがおこっており、これをターンオーバーと呼び、古くなった細胞はフケとなって剥がれ落ちていきます。そしてこのフケは、細菌のエサとなるため、フケが多いほど細菌が繁殖しやすい環境となるわけです。さらに皮膚炎の発症時はターンオーバーが乱れ、その周期が早まると、細菌の増殖がより進みやすい環境ができあがり、結果的に治りにくい可能性があります。
飼い主さんの自己判断で投薬を中断している
犬アトピー性皮膚炎や遺伝的な疾患の場合、完治が難しいため、治療は生涯にわたって続くと思わなければいけません。しかし、飼い主さんにとって愛犬への投薬は心を痛める部分もあり、なるべく行いたくないものでしょう。そのため、症状が改善すると投薬をやめてしまう飼い主さんがいるのも頷けますが、飼い主さんの自己判断で中止すると再発する可能性は高くなります。特に原因が複合的な場合、辛抱強く投薬などの治療を続けていかなければなりませんが、愛犬がストレスなく生活していけることにつながります。
自宅でできる犬の皮膚炎予防

皮膚炎は犬がかかりやすい疾患の1つとして飼い主さんは理解しておかなければいけません。犬の皮膚のケアは愛犬とのコミュニケーションにもなるため、積極的に行っていきましょう。
ここでは、自宅でできる皮膚炎の予防方法を解説します。
季節にあわせたスキンケア
まず皮膚炎を引き起こす原因は季節によって異なる傾向があります。春先では黄砂や花粉、夏は高温多湿の環境、秋はブタクサなどの花粉や乾燥、そして冬は暖房による皮膚の乾燥などがあります。そのため飼い主さんは季節に合ったスキンケアをする必要があり、湿度管理や適切なシャンプー、そして保湿ケアと栄養面での管理を行いましょう。
害虫・寄生虫の予防薬
害虫や寄生虫は、散歩時や屋外などで犬の身体に付着・侵入するだけでなく、一年をとおして快適な室内も感染エリアとなります。散歩時は草むらに注意して、散歩後は身体全体と足の裏を入念にふき取って予防に努めるほか、駆虫薬や予防薬の使用もおすすめです。また室内もこまめに掃除をして、常に清潔な状態を保つのが、害虫・寄生虫による感染の予防になります。
室温・湿度調整
現在は犬を室内で飼育するのが一般的であり、人間にとっては快適な環境でも犬にとっては過酷な環境となる可能性があります。犬は足の裏でしか汗を出せないため、体温調整が苦手であり、人間が快適に感じる温度よりも低い20〜25度が適正温度です。また湿度は人間と同じく40〜60%を快適と感じるため、室温・湿度調整は犬に合わせて行うと、皮膚炎予防につながります。
ストレスケア
犬はストレスを感じると、身体を舐める行為でストレスを紛らわせる習性があります。舐め続けると、そこだけ体毛が変色したり毛が薄くなったりします。また自分の唾液による炎症から皮膚炎を引き起こすケースも少なくありません。愛犬とのコミュニケーションの時間をとり、留守番のときも遊べるように知育玩具を用意するなどして、飼い主さんはストレスの軽減を心がけましょう。
適度な運動と栄養管理
人間と同様に、犬も健康を保つには栄養管理が重要です。皮膚の健康には特にオメガ3脂肪酸が大きな役割を担うため、この栄養素が豊富な食材を与えるとよいでしょう。ドッグフードを選ぶ際は、DHA・EPAと表記されているものであれば、オメガ3脂肪酸が豊富と考えられています。また食いつきをよくするためにも、適度な運動が必要であり、健康維持のためにも不可欠です。運動不足は肥満だけでなくストレスも引き起こすため、犬の年齢や体の大きさなどにあった運動量を確保してあげましょう。
まとめ

犬の皮膚炎は、おもに皮膚のバリア機能の低下をきっかけに発症するものです。つまりバリア機能が低下する原因を探るのが、皮膚炎の治し方にもつながり、また予防にもなります。
また皮膚炎は、1つの原因から発症するとは限らず、複数の要因があって引き起こるケースも少なくありません。その場合、治療法も原因にあったものを試していく必要があるため、時間もかかる可能性も考慮しておいてください。
自宅でできるケアもあるため、飼い主さんは愛犬にとってできるだけ快適な環境を確保し、栄養管理と適度な運動もあわせて行うとよいでしょう。