口内炎と聞くと、どのようなイメージを持たれるでしょうか。人間でも経験のある身近な症状なので、あまり重い病気という印象はないかもしれません。ところが猫にとっての口内炎は、想像以上に複雑で重く、治療に時間がかかることも少なくありません。一度発症すると慢性化・重症化しやすく、抜歯が必要になるケースもあります。本記事では、猫の口内炎の原因から、抜歯の判断基準、動物病院での治療法、予防や日常のケアまでを詳しく解説します。
猫の口内炎が発症する原因

ここではまず、猫がなぜ口内炎になるのかについて、主な原因をQ&A形式でわかりやすくお伝えします。
- 猫が口内炎になる主な原因を教えてください
- 猫の口内炎にはさまざまな原因があります。なかでも主として考えられるのは、歯周病・ウイルス感染・免疫異常など。これらが組み合わさって起こることも多いです。
歯垢や歯石によって引き起こされる歯周病が、特に多く関係している要因の一つです。なぜなら、そこに細菌が繁殖して口腔内の炎症を引き起こしやすくなるからです。
- 免疫力の低下やウイルス感染も口内炎の原因になりますか?
- はい、免疫力の低下や特定のウイルス感染は、口内炎の原因または悪化要因になり得ます。
特にカリシウイルス、ヘルペスウイルス、FIV(猫免疫不全ウイルス)、FeLV(猫白血病ウイルス)などが関係することが多いです。
- 歯石や歯周病は口内炎に影響しますか?
- はい、歯石や歯周病は口内炎を引き起こす大きな原因の一つです。口腔内の衛生状態が悪いと歯石の蓄積や歯周病が生じやすくなり、その結果炎症が起こって口内炎になりやすくなります。
猫の口内炎で抜歯が必要になる判断基準
ここでは、猫の口内炎において、どのようなときに抜歯が必要になるのか、その場合に考えられるリスクについて解説します。
- 猫が口内炎になると抜歯が必要になりますか?
- 口内炎の治療では内科的治療に反応しにくい場合には、全身麻酔下での歯石除去や全臼歯抜歯や全顎抜歯といった外科的な処置が必要になることがあります。
これは、口腔内の細菌が歯の表面だけでなく歯周ポケットの奥深くにも潜んでおり、歯石除去を行っても再び付着・繁殖してしまうケースが多いためです。
- 抜歯以外で改善が見込めない口内炎の特徴を教えてください
- 重症化または慢性化した口内炎で、内服薬による改善が見られない場合や、歯がぐらついているほど進行している場合は、抜歯が検討されます。
猫は歯を失っても舌を器用に使って食事を摂ることができます。むしろ、痛みが取り除かれることで食欲が劇的に改善し、生活の質が大きく向上するケースが多く見られます。
- 抜歯する場合、どのようなリスクが考えられますか?
- 全身麻酔や手術そのものによるリスクを伴います。全身麻酔は健康な猫であれば安全性が高いとされますが、高齢の猫や持病を抱えている猫では体への負担が大きくなることがあります。
また、術後にはお口の中を大きく処置されたことによるストレスで、元気がなくなる、食欲が落ちる、一時的に性格が変わったように怒りっぽくなることがあります。
さらに、下顎の奥歯や犬歯を抜歯した際には、顎をぶつけたり顔を床にこすりつけるなどの行動から、顎が骨折するリスクもあります。
動物病院で受けられる口内炎の治療方法
動物病院では、猫の口内炎に対してまず内科的な治療を行い、改善が見られない場合には外科的な処置が検討されます。ここでは、主な治療法と抜歯の流れについて解説します。
- 口内炎に対して、動物病院ではどのような治療を行いますか?
- 病院によって多少の違いはありますが、基本的には内科治療から始めるのが一般的です。内科治療では、感染を抑えるための抗生剤やインターフェロン、炎症や痛みを和らげるためのステロイド剤や消炎鎮痛剤、免疫抑制剤などを投与します。口内炎の原因が歯周病である場合には、歯石を除去して口腔環境を清潔に保ち、炎症の原因を取り除きます。
しかし、歯周病が進行して歯がぐらついている場合や、内科治療だけでは改善が見られない場合には、抜歯が必要になることもあります。
外科治療には全臼歯抜歯と全顎抜歯があり、全臼歯抜歯は奥歯をすべて抜く方法です。ある報告によると、全臼歯抜歯を行った猫では60%が完治、20%が大きく改善し、有効率は93%にのぼるとされています。さらに犬歯や前歯も含めて抜歯する全顎抜歯では、90~95%の猫に臨床的な改善が認められたという報告があります。
- 抜歯する際の流れを教えてください
- 抜歯は全身麻酔下で行われます。まず、麻酔前に必要な検査を行ったうえで、歯肉のポケットの深さを測定し、歯科用レントゲンですべての歯を確認します。その後、状態に応じて問題のある歯を抜歯し、処置後は吸収糸で縫合します。
術後は、痛み止めや抗生物質のほか、必要に応じてステロイドや免疫抑制剤が投与されます。
抜歯後のケアと口内炎の予防

ここでは、抜歯後に必要なケアや再発の可能性、さらに日常的にできる口腔ケアについて解説します。
- 抜歯後はどのようなケアが必要ですか?
- 抜歯後はしばらく痛みや違和感が残るため、やわらかい食事を与えて安静に過ごさせることが大切です。缶詰やふやかしたフードなど食べやすいものを選び、処方された痛み止めや抗生物質は必ず指示通りに投与してください。
通院頻度は症状の経過によって変わります。慢性口内炎の場合は抜歯をしても長期的な管理が必要になることもあり、定期的な通院が続く可能性があります。
- 抜歯後も口内炎が再発することはありますか?
- はい、再発の可能性はあります。
口内炎は慢性的に繰り返しやすい病気のため、治療後も継続的な予防が欠かせません。特に効果的なのは定期的な歯科検診で、一般的には年2回、高齢猫や再発リスクの高い猫では3〜4ヵ月に1回のチェックが推奨されています。歯磨きで口腔内を清潔に保つことや、歯石がある場合には歯石除去も再発防止に有効です。家庭で歯石を除去するのは難しいため、すでに歯石になっている場合には動物病院に相談しましょう。また、ワクチン接種も効果的です。猫カリシウイルスによる口内炎はワクチンで予防できます。
- 日頃から行うべき口腔ケアの方法を教えてください
- 家庭での口腔ケアは、日常的に続けることが予防につながります。歯磨きや専用マウスウォッシュを少しずつ慣れさせて取り入れると効果的です。最初は難しいかもしれませんが、習慣化できれば口腔内の環境を清潔に保ちやすくなります。あわせて、猫の免疫力を保つ生活習慣も大切です。ストレスを減らし、適度な運動、栄養バランスの取れた食事、十分な休養を心がけることで、体全体の健康が口内炎の再発予防につながります。
療法食や抗炎症成分を含むフードを活用するのも有効です。逆に硬すぎるおやつや異物になりやすい食べ物は避け、口腔内を傷つけないように注意しましょう。
また、腎臓病や糖尿病などの全身疾患が口内炎のリスクを高めることがあるため、定期的な健康診断や血液検査を受けて早期発見・早期治療に努めることも重要です。
編集部まとめ
猫の口内炎は複雑で、内科治療だけでは改善せず抜歯が必要になることも少なくありません。ただし家庭で飼われている猫は、歯がなくても食事に困ることはほとんどなく、抜歯によって生活の質が大きく改善するケースも多く見られます。
とはいえ、飼い主としては、できる限り歯を残せるようにしてあげたいもの。定期的な歯科検診やワクチン接種、家庭での口腔ケアは予防や再発防止に欠かせません。よだれや食欲不振、口元を気にする仕草などが見られたら、早めに動物病院を受診しましょう。
