猫の造血剤は副作用がある?効果や必要になるケース、注意点などを解説

猫の造血剤は副作用がある?効果や必要になるケース、注意点などを解説

猫の造血剤は、慢性腎臓病に伴う腎性貧血で赤血球をつくる力が落ちたときに、骨髄の働きを後押しする治療です。効果が出ると食欲や活動性が戻りますが、高血圧や血栓、鉄欠乏、赤芽球癆などの副作用が知られ、定期検査と血圧管理が欠かせません。薬の種類や投与間隔は病態や体格で変わります。長時間作用型のダルベポエチンαが使われることもあります。本記事では、必要になるケース、主な種類と流れ、副作用と観察ポイントをQ&Aで整理します。

猫に造血剤が必要になるケースとは

猫に造血剤が必要になるケースとは

まず、どのような病態や検査結果のときに造血剤を検討するのか、その考え方と判断の目安を一緒に確認します。

猫に造血剤を使用するのはどのような場合ですか?
猫に造血剤を使うのは、貧血が続き、元気がない・呼吸が荒いなどの症状が見られ、血液検査で赤血球をうまくつくれていない状態(非再生性貧血)と判断されたときの選択肢になります。背景に慢性腎臓病があることが多く、脱水や出血、感染症などほかの原因も調べてから判断します。ヘマトクリット値(血液の濃さ)が20%以下の場合が目安ですが、症状が強ければそれ以上でも検討されます。使用前には鉄分不足の有無や血圧の確認、必要に応じて輸血との比較も行われます。治療中は血液検査や血圧測定を定期的に行い、高血圧や血栓の既往がある場合は慎重に進めます。ダルベポエチンαなどの薬剤が使われ、状態に応じて投与間隔が調整されます。
貧血以外で猫に造血剤が処方されることはありますか?
造血剤は赤血球の産生を促す薬で、基本的には貧血がある場合にのみ使われます。元気がない、術後の回復を早めたいといった理由だけでは、血液検査で異常がなければ処方の対象にはなりません。脱水や出血、感染など原因がはっきりしていて治療できる場合は、まずそちらの対応が優先されます。ヘマトクリットが十分に保たれている猫や、高血圧・血栓の既往がある猫には、かえってリスクとなることもあります。鉄剤やビタミン剤についても、不足が確認されたときに限って補うのが基本です。過剰な投与は副作用や通院の負担にもつながるため、検査結果と症状の両面から慎重に判断されます。
慢性腎臓病の猫に造血剤が必要になる理由を教えてください
慢性腎臓病が進行すると、赤血球を作るために必要な、腎臓で作られるホルモン(エリスロポエチン:EPO)が減り、骨髄で赤血球を十分につくれなくなります。さらに尿毒素や慢性的な炎症の影響で、赤血球の寿命が短くなったり、胃腸からの出血や鉄分の不足が重なることもあります。造血剤は不足したEPOの働きを補い、鉄分の補給や血圧のコントロールとあわせて、こうした貧血の改善を目指します。根本治療ではないため、原因の評価や定期検査を続けながら、投与の量や間隔を調整します。造血剤の使用によって、活動性や食欲、呼吸のしやすさが改善することがあります。上がりすぎは合併症を招くため、段階的に調整します。

猫に使用される造血剤の種類と効果

つづいて、造血剤の種類と効果、投与の流れ、副作用の基礎と家庭での観察ポイント、通院時の共有事項を整理します。

猫に使用される造血剤にはどのような種類がありますか?
猫に使われる造血剤には、主に3つのタイプがあります。ひとつはエポエチンα/β(rHuEPO)というヒト型EPO製剤、もうひとつは遺伝子組み換えによって作られたダルべポエチンαという持続型のエリスロポエチン製剤、そして3つ目がエポベット(遺伝子組み換えネコ型エリスロポエチン製剤)です。

ダルべポエチンαは半減期が長く、週に1回の投与で効果を発揮できます。エポベットは猫専用に開発された製剤で、種特異的であるため、rHuEPO(ヒト型)でまれに起きる赤芽球癆(骨髄で赤血球が作れなくなる重い副作用)のリスクが低いとされています。

どの製剤でも、高血圧や血栓のリスクがあるため、使用中は血圧や血液検査(CBCなど)を定期的に確認します。選択や投与量は猫の状態によって異なり、獣医師が慎重に判断して治療計画を立てます。
造血剤の効果が現れるまでどのくらいの期間がかかりますか?
造血剤の効果はすぐに現れるわけではなく、一般的には2〜3週間程かけて、徐々に赤血球が増えていきます。投与から1週間程で血液の数値が改善傾向を示しはじめ、元気や食欲の回復が見られることもあります。ただし、急激に増えすぎると高血圧や血栓などのリスクがあるため、週1回程の血液検査や血圧測定を行いながら、慎重に投与量や間隔を調整していきます。鉄分不足や出血、炎症、高血圧などがあると効果が遅れることもあるため、あわせて状態の見直しが行われます。体格や持病によって反応には個体差があるため、無理に急がず、徐々に赤血球が増えていく流れを見守ることが大切です。
造血剤の投与方法や頻度を教えてください
造血剤は通常、皮下注射で投与されます。初めは週1回が基本で、赤血球の増え方などを見ながら、1〜2週ごとに調整していきます。具体的には、エポエチンα/β週2、3回、ダルべポエチンα週1回、エポベット2週間に1回程度です。投与の際は毎回同じ時間帯に行い、血液検査(赤血球やヘマトクリットの値)と血圧測定をあわせて行います。鉄分が不足している場合は、鉄剤を併用することもあります。自宅で注射を行う場合は、薬の冷蔵・遮光保存、針や注射器の使い回しを避けること、打つ場所を日ごとに変えることなどに注意が必要です。注射後は出血がないか確認し、変わった様子があればすぐに動物病院へ連絡を。赤血球の増加が急すぎると副作用が出ることがあるため、少しずつ改善するように量や間隔を調整します。

猫の造血剤による副作用とその対処法

猫の造血剤による副作用とその対処法

副作用が不安な飼い主さんのために、副作用の見分け方と対処、家庭での観察記録、次の受診や相談の目安を具体例も交えてまとめます。

猫の造血剤にはどのような副作用がありますか?
造血剤の使用中は、副作用が起きる可能性もあるため、様子をよく観察することが大切です。特に注意が必要なのは、血圧の上昇や血栓(血のかたまり)ができることで、ふらつきや視線が合わない、脚を痛がる、呼吸が荒いなどの変化が見られた場合は早めの受診が勧められます。また、ごくまれに赤芽球癆(骨髄で赤血球がつくれなくなる状態)という重い副作用が起きることもあり、その際は治療の見直しが必要になります。注射部位の腫れや痛み、軽い発熱、食欲低下、吐き気・下痢といった体調変化が見られることもあります。使用中は血圧や血液検査のチェックを定期的に行い、普段と違う様子があれば、早めに動物病院に相談しましょう。
造血剤の副作用が出やすい猫の特徴を教えてください
造血剤の副作用が出やすい猫には、いくつかの共通した特徴があります。まず、高血圧がうまく管理されていなかったり、過去に血栓や心臓病(心筋症など)を経験している猫では、血圧の急上昇や血栓のリスクが高くなります。また、鉄分が足りないまま造血剤を使うと、効果が出ないばかりか、鉄欠乏性貧血が悪化したり薬剤に対する耐性などの副作用につながります。ヒト型の造血剤を過去に使ったことがある猫や、長期・高用量で使用している場合は、まれに赤芽球癆(骨髄で赤血球が作れなくなる状態)のリスクが高まります。使用前には血圧や鉄の状態をよく確認し、少ない量からゆっくり使い始めることが大切です。ほかの病気がある猫では、より慎重な管理が求められます。
重篤な副作用が現れた場合はどのように対処すべきですか?
造血剤の使用中に、ぐったりして動かない、呼吸が荒い、脚を痛がる・麻痺する、ふらつく、けいれんがある、歯茎が白い、注射部位が大きく腫れて強い痛みが続く、といった症状が見られた場合は、すぐに動物病院に連絡しましょう。できれば、最近の投与量や日時、血圧や血液検査の数値、飲んでいる薬やサプリ、症状が出た時間や動画などを一緒に伝えると診断の助けになります。赤芽球癆(骨髄で赤血球がつくられなくなる副作用)が疑われる場合は、治療方針の見直しが必要になります。病院へ行くまでは静かに安静を保ち、寒さ・暑さを避けて移動してください。嘔吐があるときは誤嚥にも注意しましょう。

造血剤を使用する際の注意点

最後に、家庭での観察と記録の付け方、受診や投与の見直しの目安、日常でできるケアのコツをまとめます。

造血剤を使用している猫の日常生活で注意すべきことを教えてください
造血剤を使っている間は、猫の体調をこまめに観察し、気になる変化を記録しておくことが大切です。食欲や飲水量、尿の回数と色、便の状態、呼吸の様子、歩き方、遊びへの関心などを毎日同じ時間帯に見直しましょう。ふらつきや急な元気の低下、片脚の痛み、鼻出血、瞳孔が開いたままなどは、すぐに連絡した方がよいサインです。脱水を防ぐために水皿を複数置き、腎臓病の食事や鉄剤などは指示があったときだけ使います。注射当日は安静を優先し、打った場所を猫が気にしていないか確認します。段差の昇り降りやジャンプは控え、人用の薬は与えず、サプリなども追加前に獣医師へ相談を。体重は週1回、できれば同じ条件で測っておくとよいでしょう。
どのような症状がでたら造血剤の使用を中止すべきですか?
造血剤を使っている猫に、いつもと違う強い体調変化が見られたときは、次回の投与を中止し、すぐに動物病院へ相談しましょう。
例えば、急にぐったりして動かない、呼吸が苦しそう、歯茎や舌の色が白っぽい・紫がかっている、片脚を痛がる・冷たい・麻痺している、けいれんやふらつきがある、視線が合わず瞳孔が開いたまま、鼻血が出る、などは要注意です。
注射直後に顔の腫れやじんましん、よだれが出るといった反応や、打った部位が大きく腫れて熱を持っている場合も同様です。
もし貧血がかえって進んでいるように見えるときは、赤芽球癆(骨髄で赤血球が作れなくなる副作用)の可能性もあるため、自己判断で再開せず、獣医師の指示を待ちましょう。

編集部まとめ

造血剤の使用にはリスクも伴いますが、飼い主さんの見守りと主治医との連携が副作用の早期発見と対処につながります。食欲や元気、排泄や注射部位など日々の小さな変化を記録し、気になることは遠慮せず相談してください。造血剤は猫の身体に合わせて用量や間隔を調整する治療です。無理なく続けるために、心配なときは立ち止まり、主治医と話すことが何よりの備えになります。大切な時間を支える一歩として、冷静に向き合っていきましょう。

【参考文献】