飼っている犬が突然咳き込んだり、血の混じった吐物を出したりすると、不安になりますよね。このような症状には“肺出血”が原因となっている可能性があり、放置すると命に関わる危険もあります。
本記事では犬の肺出血の原因について以下の点を中心にご紹介します。
- 犬の肺出血とは
- 犬の肺出血が疑われる場合の症状
- 犬の肺出血がある場合の治療法
犬の肺出血の原因について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。
犬の肺出血とは?

犬の肺出血は、肺の内部にある肺胞と呼ばれる小さな空間に血液が漏れ出している状態を指します。肺胞内に赤血球があふれることで、正常な呼吸が妨げられ、重度の場合は呼吸困難や急死につながることもあります。
肺出血は、症状の進行が速いケースが多いとされています。早期の対応が生死を分けることもある重大な状態です。
犬が肺出血を起こす原因

犬が肺出血を起こす原因には、さまざまな疾患や体内の異常が関係している可能性があります。ここでは、犬が肺出血を起こす主な原因について詳しく解説します。
感染症
犬の肺出血の原因のひとつとして、感染症が挙げられます。そのなかでも特に注意が必要なのがレプトスピラ症です。レプトスピラ症は、人獣共通感染症(ズーノーシス)というもので、ネズミなどの野生動物の尿に含まれる細菌(レプトスピラ属菌)が、水や土壌を介して感染が広がります。
感染した犬のすべてが発症するわけではありませんが、発症した場合は肝臓や腎臓の障害、黄疸、出血、腎炎などの重い症状を引き起こすことがあります。急性腎障害や肺出血を伴うケースもあり、重症化すると数時間から数日で命を落とす危険性もあります。
感染は夏から初秋の雨期に多く、河川や沼地、台風後の水たまりなど湿った環境で感染リスクが高まります。
散歩やドッグランなどで、たくさんの犬と接触する機会のある犬は、感染を防ぐために予防接種や環境への配慮が欠かせません。
肺腫瘍
犬の肺腫瘍は、主に中齢から高齢の犬にみられる疾患です。その多くは悪性腫瘍だとされています。そのほかにも、肉腫や扁平上皮がん(へんぺいじょうひがん)、カルチノイド腫瘍(神経内分泌腫瘍)などが発生することがあるとされ、残念ながら、肺にできる腫瘍の多くは良性ではなく、進行すると呼吸器に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
代表的な症状は咳で、進行に伴い呼吸困難や胸水の貯留、体重減少、喀血などが見られることがあります。ただし、明確な症状がない犬も見られ、健康診断や別の検査の際に偶然発見されることも少なくありません。
また、腫瘍の影響で四肢の腫れや歩行異常(肥大性骨症)が現れるケースもあります。
診断には胸部レントゲン検査が用いられ、肺にできた影を確認します。
複数の病変が認められる場合には、転移性腫瘍や感染症(寄生虫や真菌など)の可能性も考慮し、超音波検査やCT検査で全身を詳しく調べ、胸壁付近に病変がある場合には、細胞診や組織検査を行い、腫瘍の性質を特定します。
心不全
犬の心不全は、高齢になるほど発症しやすく、肺出血の原因としてもよく見られる疾患のひとつです。年齢を重ねると、心臓の内部にある弁(べん)がうまく機能しなくなり、血液の流れが逆流するようになります。その結果、心臓が十分に血液を送り出せなくなり、肺や血管に大きな負担がかかります。
なかでも代表的な病気が僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)です。僧帽弁閉鎖不全症は、心臓の弁が閉じ切らずに血液が逆流するため、心臓の働きが低下し、体内の循環が乱れます。進行すると肺の血管内圧が高まり、肺の毛細血管が破れて出血を起こすことがあります。その結果、お口の周りに血がついたり、咳や呼吸困難が見られたりすることもあります。
喀血(かっけつ)
喀血は、咳とともに血液を吐き出す症状のことを指します。血が混じった唾液や泡状の血液が見られることがあり、出血量によっては命に関わる可能性もあります。
喀血は、気管や気管支、肺などの呼吸器からの出血によって起こりますが、見た目だけでは吐血(消化器からの出血)や鼻出血との区別が難しく、咳を繰り返すうちに喉を傷つけて少量の血が出ることもあります。
肺損傷
肺損傷は、交通事故や転倒などによって胸部に強い衝撃が加わり、肺の組織が損なわれる状態を指します。なかでも代表的なのが肺挫傷(はいざしょう)で、肺の内部に出血や浮腫(むくみ)が生じ、呼吸機能が低下することがあります。
肺は身体の奥にあるため、外見からは異常が分かりづらく、外傷の痕跡がなくても内部で深刻な損傷が起きている場合があります。そのため、見た目に問題がなくても呼吸が荒い、咳が続く、ぐったりしているといった症状が見られるときは注意が必要です。
特に、肩甲骨や肋骨の骨折と肺損傷が同時に起こるケースは多いとされています。
胸部への強い打撲や圧迫によって、毛細血管が破れて肺胞内に出血(間質性肺出血)が生じることもあり、重症化すると呼吸困難や低酸素状態に陥るおそれがあります。
犬の肺出血が疑われる場合の症状

犬の肺出血が疑われる場合の症状には、初期の段階では見逃されやすいものもありますが、進行すると急激に状態が悪化する可能性があるものもあります。
代表的な症状として、呼吸が浅く速くなる(頻呼吸)、お口を開けて苦しそうに呼吸する(開口呼吸)、舌や歯茎の色が紫がかって見える(チアノーゼ)などが挙げられます。これらの症状は、肺の内部で出血が起こり、酸素を十分に取り込めなくなっているサインです。また、咳や吐くようなしぐさを見せる、動こうとしない、ぐったりしているなどの様子が見られる場合もあります。
胸部に強い衝撃を受けた後や、転倒後にこれらの症状が見られた場合は、肩や肋骨の骨折のほかに肺損傷が起きている可能性もあります。
さらに、ピンク色や赤い液体を吐く、血が混じった泡状の唾液が出るといった場合は、呼吸器からの出血が疑われる危険な状態です。
これらの症状は、肺出血だけでなく、心不全や肺水腫、犬糸状虫症など重度の病気でも見られることがあります。
いずれにしても、呼吸が苦しそうな場合や血が混じった分泌物が確認された場合は、一刻も早く動物病院を受診しましょう。
犬の肺出血がある場合の検査法

犬の肺出血がある場合は、出血の原因や重症度を判断するために、いくつかの検査を組み合わせて行います。
まずは身体検査が実施され、獣医師が呼吸の速さや深さ、胸の動き、粘膜の色(チアノーゼの有無)などを観察し、呼吸機能の状態を把握します。
次に、レントゲン検査で肺や胸の内部を確認し、肺のなかに出血や水がたまっていないか、気胸(肺の虚脱)がないかなどの確認が行われます。
さらに、超音波(エコー)検査で、胸腔内に血液や液体が溜まっていないかを確認します。
必要に応じて、CT検査によって小さな出血や損傷の有無をより詳細に調べたり、血液検査で炎症反応や貧血の程度を確認したりすることもあります。
犬の肺出血がある場合の治療法

肺からの出血は命に関わることもあるため、まずは呼吸を安定させる処置や出血の抑制が重要です。
ここでは、犬の肺出血が疑われる場合の治療法について詳しく解説します。
酸素吸入
酸素吸入は、肺出血によって十分な酸素を取り込めなくなった犬の呼吸をサポートするために行われる治療です。呼吸器の疾患を抱えていたり、高齢で自力での呼吸が難しかったりする場合は、特に有効とされています。
酸素を体内に補うことで、血液中の酸素濃度を高め、全身の細胞へ酸素を行き渡らせることができます。これにより、体力の回復を促し、長期間の酸素不足によって起こる高血圧や心不全などの合併症を防ぐ効果も期待できます。
また、酸素吸入は血流を改善して代謝を活発にする作用もあり、疲労の回復や体の再生力を高めるのにも役立ちます。特に、呼吸が浅くなりやすいシニア犬や体力が落ちている犬では、酸素室(酸素カプセル)を使用することで呼吸が楽になり、心身の負担を軽減することができます。定期的な酸素吸入は、犬の免疫力や生活の質の向上にもつながります。
止血と輸血
止血と輸血は、犬の肺出血に対して行われる治療のひとつです。
出血の程度や原因によって処置の内容は異なりますが、まずは出血を抑え、失われた血液量を補うことが目的になります。
軽度の出血であれば、安静の維持や圧迫処置(包帯などによる圧迫)によって自然に止血が期待できる場合もあります。しかし、出血量が多かったり、止血が困難であったりする場合は、輸血による循環の安定化が必要です。
輸血には、血液全体を補う全血輸血と、血液の一部成分を補う成分輸血があります。いずれも、失われた血液を補給し、酸素運搬能力を維持することで、臓器の機能低下やショック状態を防ぐことができます。
また、手術前や出血リスクが高いケースでは、止血を促す薬剤が使われることもありますが、効果には個体差があり、止血が求められる場合には輸血がより有効とされています。
胸腔穿刺(きょうくうせんし)
胸腔穿刺は、肺のまわりにある胸腔(きょうくう)と呼ばれる空間に溜まった空気や血液、体液を抜き取る処置のことです。肺出血や外傷、気胸(ききょう)などによって胸腔内に異常な空気が溜まると、肺が十分に膨らまず、呼吸が苦しくなってしまいます。
このような場合に胸腔穿刺を行い、針やカテーテルを用いて胸腔内の空気を排出することで、肺が再び広がりやすくなり、呼吸状態の改善が期待できます。重度の気胸や出血を伴うケースでは、ドレーン(排出チューブ)を設置して継続的に空気や液体を排出する処置が必要になることもあります。
胸腔穿刺は命に関わる呼吸障害を改善するための緊急性の高い治療であり、肺損傷などが疑われる場合は、骨折の治療よりも優先して行われます。
処置後は呼吸の安定を確認し、必要に応じて画像検査を行い、再発や合併症の有無を慎重に経過観察していきます。
犬の肺出血が疑われるときの飼い主の対処法

犬が突然血を吐いたり、血が混じった咳があったりする場合、肺出血に関わる疾患のサインである可能性もあるため、落ち着いて行動することが大切です。
ここでは、犬の肺出血が疑われるときに飼い主が自宅でできる応急的な対処法について紹介します。
すぐに病院へ連れて行く
犬が血を吐いたり、咳とともに血が混じったりする場合は、できるだけ早く動物病院を受診することが大切です。 肺や気管支、胃など、どこから出血しているかを見た目だけで判断するのは難しく、放置すると症状が急速に悪化するおそれがあります。
病院では、嘔吐物や血の色、量、吐いたタイミングなどを手がかりに、出血の原因や緊急度を見極める検査が行われます。
受診の際には、吐いた血や嘔吐物をティッシュなどに包んで持参するか、写真を撮って獣医師に見せるとよいでしょう。
お口のなかの異物を取り除く
犬のお口のなかに異物が見える場合は、まず落ち着いて、できるだけ早く取り除いてあげることが大切です。喉や口腔内に異物が詰まっていると、呼吸が妨げられたり、出血や窒息を引き起こしたりする危険があります。
取り除く際は、犬が暴れないようにしっかりと身体を保定し、ピンセットや指などで慎重に異物をつまみ出します。
もし異物が喉の奥に引っかかっていて見えにくい場合や、無理に取ろうとしても動かない場合は、すぐに動物病院へ連れて行ってください。無理に引っ張ると、お口や喉を傷つけて出血が悪化するおそれがあります。
喀血を我慢させない
犬が喀血しているときは、無理に我慢させず、自然に血を吐き出させることが大切です。 血液を飲み込ませたり、咳を止めようとしたりするのは、気道内に血が溜まって固まると呼吸困難や窒息のリスクが高まります。
喀血の際は、犬の頭を少し下げた体勢にして、気道に血液が流れ込みにくいようにするのがよいでしょう。床やタオルが汚れても問題ないように、犬が安心して血を吐き出せる環境を整えましょう。
絶食させる
出血の程度が軽く、犬の呼吸に大きな異常が見られない場合は、口腔内や消化管の粘膜が一時的に傷ついているだけのこともあります。そのようなケースでは、数時間から半日〜1日程度の絶食を行うことで、出血が自然に落ち着く場合があります。
食事を控えることで、消化器官を休ませ、傷ついた粘膜の回復を促すことができます。
ただし、絶食の判断はあくまで出血が軽度である場合に限られます。 出血量が多い、吐血を繰り返す、ぐったりしているなどの症状があるときは、すぐに動物病院で診察を受けることが必要です。
また、絶食を行う際は獣医師の指示に従うことが大切です。自己判断で長期間食事を抜いてしまうと、体力を奪い回復を遅らせる可能性もあるため注意しましょう。
犬が吐いた後は水を飲ませない
犬が吐いた後は、すぐに水を与えないようにすることが大切です。 飼い主としては脱水を心配して水を飲ませたくなるかもしれませんが、嘔吐直後は胃が刺激に敏感なため、水分を摂ることで再び吐いてしまうことがあります。結果的に、かえって脱水や体力低下を招くおそれがあります。
吐いた後はまず、胃を休ませる時間を作ることが重要です。少なくとも数時間は水やフードを与えず、静かに安静にさせてあげましょう。もし元気がある場合でも、12〜24時間ほど絶食や絶水を目安に様子を見てください。
ただし、ぐったりしていたり、何度も吐いたりする場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
まとめ

ここまで犬の肺出血の原因とは?についてお伝えしてきました。犬の肺出血の原因とは?についての要点をまとめると以下のとおりです。
- 犬の肺出血は、肺の内部にある肺胞と呼ばれる小さな空間に血液が漏れ出している状態を指す
- 犬の肺出血が疑われる場合の症状には、呼吸が浅く速くなる(頻呼吸)、お口を開けて苦しそうに呼吸する(開口呼吸)、舌や歯茎の色が紫がかって見える(チアノーゼ)などが挙げられる
- 犬の肺出血がある場合の治療法には、酸素吸入や止血と輸血、胸腔穿刺がある
犬の肺出血は、原因や症状の現れ方によって重症度が大きく異なります。そのため、早期発見と治療が何よりも重要です。日常のなかで少しでも異変を感じたら、早めに動物病院で診てもらうようにしましょう。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

