愛犬の健康診断で肝臓の数値が高いと指摘され、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
肝臓は沈黙の臓器と呼ばれ、機能の大部分が失われるまで症状が出にくいため、気付いたときには進行しているケースも少なくありません。
しかし、肝臓は優れた再生能力も備えています。早期発見と適切なケアを行えば、愛犬の健やかな生活を守ることが可能です。
この記事では、犬の肝臓の役割や主な病気、日々の生活でチェックすべきサインについて詳しく解説します。
犬の肝臓の役割

肝臓は身体のなかで大きな臓器であり、生命維持に欠かせない500種類以上もの働きを担う重要な器官です。
その役割は、代謝(栄養をエネルギーに変える)や貯蔵(いざというときに備える)、有害物質の解毒など多岐にわたります。
いわば体内に化学工場を備えているようなもので、愛犬の健康維持のために休むことなく働き続けているといえるでしょう。
また特に高い再生能力を持つことでも知られており、一部に障害が生じても残された組織が機能を補う仕組みがあり、異変が表面化しづらいという特性も併せ持っています。
ここでは、生命維持に直結する具体的な働きについて解説します。
栄養の貯蔵と体の代謝
肝臓は、食事から摂取した栄養素を体が利用できるかたちに変換(代謝)し、必要になるまで蓄える役割を持っています。
例えば炭水化物をグリコーゲンとして貯蔵し、空腹時や運動時にエネルギー源として血液中に放出することで、血糖値を一定に保ちます。
また、脂肪の合成やコレステロールの代謝も担っており、体のエネルギーバランスをコントロールする重要な司令塔といえるでしょう。
さらに、鉄分や銅、ビタミン類を蓄える倉庫としての機能も重要です。
加えて、体内で不要になったホルモンを分解する働きもあり、この機能が衰えると脱毛などの皮膚トラブルにつながる場合もあります。
解毒作用

体にとって有害な物質を無毒化(解毒)し、体外へ排泄するのも肝臓の大きな役割です。体内では、タンパク質の代謝過程でアンモニアなどの毒素が発生します。
また、散歩中に舐めてしまった有害物質や、治療のための薬物なども肝臓で処理される仕組みになっています。
肝臓内の酵素がこれらの毒素を水に溶けやすいように変換し、尿や胆汁として排出することで、全身の健康を守っているといえるでしょう。
特にアンモニアは脳にとって猛毒であり、解毒が滞るとふらつきや痙攣といった神経症状を引き起こしかねません。
加えて、フィラリア予防薬などの医薬品も、肝臓が正常に働いて初めて安全に体外へ排出されます。
タンパク質合成と血液関連
血液中に含まれる重要なタンパク質の多くは、肝臓で作られています。
代表的なものに、血管内の水分量を保つアルブミンや、止血に必要な凝固因子が挙げられるでしょう。
そのため肝機能が低下すると、水分が血管外へ漏れ出したり、出血が止まりにくくなったりする恐れがあります。
凝固因子は怪我だけでなく、日々の微細な血管修復にも使われる重要な成分です。
機能不全に陥ると、鼻血が止まらない、皮下出血ができるといった症状が現れることも少なくありません。
手術や麻酔処置の前に肝機能検査が必須なのは、この止血能力を事前に確認するためといえるでしょう。
消化(胆汁酸)と免疫調節

肝臓は胆汁という消化液を作り、胆嚢(たんのう)に貯めています。胆汁に含まれる胆汁酸は、食事に含まれる脂肪を乳化して腸からの吸収を助ける働きを持つ成分です。
また、肝臓にはクッパー細胞と呼ばれる免疫細胞が多く存在します。
これらが血液中の細菌や異物を除去し、体の防御フィルターとして機能しているといえるでしょう。
胆汁の流れが滞ると、脂肪の吸収が悪くなるだけでなく、毒素であるビリルビンが全身に回り黄疸(おうだん)を引き起こします。
加えて、肝臓の免疫機能は腸内細菌が全身に広がるのを防ぐ防波堤でもあり、この機能低下は感染症のリスクを著しく高めます。
犬がかかりやすい肝臓の病気

犬の肝臓病を引き起こす要因は多岐にわたります。
先天的な血管の異常や特定の犬種に見られる遺伝的素因だけでなく、ウイルス感染や中毒物質の摂取も発症のきっかけとなるでしょう。
また、不適切な食事や肥満、加齢による慢性的な炎症が進行し、肝細胞が破壊されるケースも少なくありません。
肝臓の病態は複雑であり、複数の要因が重なって深刻なダメージを与える場合もあります。
ここでは愛犬の命に関わる恐れがある肝細胞がんや慢性肝炎、肝硬変などの代表的な疾患について解説します。
それぞれの病態が身体に及ぼす影響を正しく理解していきましょう。
肝臓腫瘍
肝臓にできる腫瘍には、肝臓そのものから発生する原発性と、ほかの臓器から転移してくる転移性があります。
原発性のなかで特に多いのが肝細胞がんです。巨大な塊を作るタイプであれば、外科手術で切除することで良好な経過が期待できる場合もあります。
一方、血管肉腫や胆管がんなどは悪性度が高く、慎重な対応が必要です。
初期は無症状なことが多いため、定期的な画像診断が早期発見に欠かせません。
慢性肝炎や急性肝炎
肝炎は、ウイルスや細菌、毒物(薬物や中毒物質)、あるいは免疫の異常によって肝臓に炎症が起きる病気です。
急性肝炎は、キシリトールなどの誤食や感染症により急激に発症し、嘔吐や黄疸などの激しい症状が現れます。
一方、慢性肝炎は数ヶ月以上にわたって炎症が続く状態です。
特定の犬種(ベドリントン・テリアやウェスト・ハイランド・ホワイト・テリアなど)では、遺伝的に銅が肝臓に蓄積しやすいことによる銅蓄積性肝障害も見られます。
慢性肝炎初期は症状に乏しく、徐々に進行していくため注意が必要です。
肝硬変

慢性的な炎症の繰り返しにより肝細胞が破壊されると、肝臓は硬く線維化します。この最終的な病態が肝硬変です。
一度肝硬変に陥ると本来の構造が失われ、機能の回復は極めて困難といえるでしょう。病状が進むと腹水や肝性脳症といった重篤な合併症を招く恐れがあります。
そのため、肝硬変に至る前に進行を食い止めること、および残された肝機能を維持することが治療の大きな目標です。
門脈シャント
門脈体循環シャント(PSS)とも呼ばれる血管の奇形です。
本来、腸で吸収された栄養や毒素を含む血液は、門脈を通って肝臓で処理されてから全身へ巡る仕組みになっています。
しかし、シャントという抜け道が存在すると、血液が肝臓を経由せずに全身を回ってしまいます。
その結果、肝臓の成長が妨げられて小さくなるほか、毒素が脳に達して神経症状を招く恐れがあるでしょう。
この病気には、生まれつきの先天性と、肝硬変などに伴う後天性が存在します。
犬の肝臓の病気が進行した場合に起こる症状

肝臓は予備能力が高く、全体の70〜80%が損なわれるまで顕著な症状を示さない特性を持っています。
このため初期段階で異変を察知することは容易ではなく、飼い主様が症状に気づいた頃には病態が深刻化しているケースも珍しくありません。
機能維持が限界を超えると、身体に蓄積した毒素や代謝の乱れにより、以下のような全身症状が顕著に現れ始めます。
肝細胞の破壊が進むと身体の維持機能が一気に低下し、生命の危機に直結する恐れがあるでしょう。
そのため、わずかな違和感であっても自己判断で経過を観察せず、速やかに精密検査を受ける対応が求められます。
これらは緊急性が高いサインである可能性もあるため、迅速な判断が必要といえるでしょう。
食欲不振や嘔吐
肝臓の病気が初期から中期へ進むと、食欲の低下や嘔吐、下痢などの消化器症状が目立ち始めます。
これらは一見するとありふれた体調不良に思えるため、見逃されることも少なくありません。
しかし、その背景には代謝機能の低下による不快感や、胃腸のうっ滞が潜んでいる可能性もあります。
特に高齢犬では加齢による衰えと判断されがちですが、安易な自己判断は禁物といえるでしょう。
些細な異変が継続する場合は、病気のサインととらえ、速やかに動物病院への受診をおすすめします。
黄疸
肝臓や胆管のトラブルによりビリルビンが排泄されず体に溜まると、黄疸が現れます。
白目の部分や口腔粘膜、耳の内側の皮膚などが黄色っぽく変色するでしょう。
また、尿の色が濃いオレンジ色や茶色に変化するケースも多く見られます。
黄疸は肝機能の著しい低下や胆管の閉塞を示唆しており、命に関わる危険な状態といえるでしょう。
腹水や腹部のふくらみ
肝硬変の進行により血液中のアルブミンが減少すると、血管内の水分を保持できなくなります。
また、肝臓を通過する血管の圧力が上昇することで、腹腔内に液体が漏れ出して腹水が溜まります。
食事量が減っているにも関わらず体重が増加したり、体は痩せているのにお腹だけが膨らんだりする症状は、典型的な徴候といえるでしょう。
腹水が大量に蓄積すると横隔膜が圧迫され、激しい呼吸困難を招く恐れも少なくありません。
愛犬の体にこうした異変を感じた際は、速やかな動物病院への受診が求められます。
犬の肝臓病への予防方法

すべての肝臓病を完全に防ぐことは難しいですが、日常生活のなかでリスクを減らすことは可能です。
まず、定期的なワクチン接種です。
犬伝染性肝炎(アデノウイルス1型感染症)やレプトスピラ症といった感染症は、重篤な肝障害を引き起こします。これらは混合ワクチンで予防が可能な病気です。
また、生活環境の管理も重要です。人間用のキシリトール入りガム、特定の植物(サゴヤシなど)、カビが生えた食品などは犬の肝臓に強い毒性を示します。
これらを愛犬が誤飲しないよう、届かない場所に保管するなどの対策を徹底しましょう。
肝臓に負担をかけないよう、年齢や体質に合わせた良質な食事を与えることも、長期的な健康維持につながります。
肝臓を悪くする前に早期発見する場合のポイント

沈黙の臓器の異変にいち早く気付くためには、客観的なデータと日々の観察の両方が不可欠といえるでしょう。
肝臓は機能が大きく低下するまで目立った症状が現れないため、外見のみによる健康状態の判断は極めて困難です。
そのため定期的な血液検査でALTやALPなどの数値を把握し、微細な異変を数値として捉える必要があります。
ひとたび症状が現れた際は病状が深刻化している場合も多いため、あらかじめ異常の芽を摘む姿勢が求められるでしょう。
あわせて活動量の低下や飲水量の変化など、家庭で見られる些細なサインも見逃さないことが重要です。
これら専門的な検査と日常の観察を組み合わせることで、手遅れになる前の発見が期待できます。
定期的に検診を受ける
動物病院での定期的な健康診断は、病気の早期発見において重要です。
血液検査では肝細胞へのダメージを示すALTや、胆汁の流れに関連するALPなどの数値を調べます。
しかし血液検査の結果が正常であっても、肝疾患が隠れている可能性は否定できません。
そのため超音波検査を組み合わせ、臓器の形や内部構造の変化を詳細に確認することが大切です。
画像診断を併用することで、腫瘍や線維化の兆候を体に症状が出る前にとらえやすくなります。
特に中高齢期を迎えた愛犬には、年に1〜2回の頻度で検診を受けることを推奨します。
日常で小さな変化を見逃さない
血液検査の数値に異常が現れる前の微細な変化を察知できるのは、日頃から愛犬と接している飼い主様だけでしょう。
活動量が低下し疲れやすくなった様子や食後に元気がなくなる、あるいは落ち着きがなくなるといった行動の変化は、肝臓病の初期症状の可能性が高いです。
特に「お水を飲む量が増えた」「おしっこの回数や量が増えた」といった多飲多尿は、肝機能低下により尿を濃縮する力が弱まることで生じる代表的な兆候といえます。
日常生活で見られる些細な変化を獣医師に詳しく伝えることが、スムーズな病気の特定と治療につながります。
肝臓の病気が疑われる場合の自宅での見守り方

肝臓疾患が疑われる際は獣医師の指示に従って治療を継続しましょう。投薬や食事療法による管理が日々の基本です。処方された療法食以外の食べ物を与えない徹底が重要といえます。
身体の再生には多くのエネルギーを要するため安静が不可欠です。激しい運動を避けて静かな環境で休ませる工夫が求められます。食後のふらつきといった些細な変化にも注意を払いましょう。
これらは肝性脳症という緊急事態を示唆する恐れがあります。
排泄物の変化については便が白っぽくなる場合や、尿の色が濃くなることが多いため注視しましょう。
具体的には、日々の体調や食事量を記録に残すと、診察時の正確な情報共有に役立つでしょう。室内温度を適切に管理して身体の負担を抑える配慮も大切です。
まとめ

犬の肝臓は代謝や解毒など生命維持に欠かせない役割を担う臓器といえるでしょう。
予備能力の高さゆえに異変の発見が遅れがちですが、定期的な健康診断と日々の観察により早期治療への移行が望めます。
食欲の低下や多飲多尿、黄疸といったサインに気づいた際は、様子を見すぎず動物病院を受診しましょう。
早期に対応を図ることで、治療の選択肢が広がり愛犬の生活の質を維持しやすくなります。
高い再生能力を持つ臓器であるため、適切なケア次第で健やかな日々を取り戻せる可能性は十分にあります。
言葉を話せない愛犬の沈黙の声に気付けるのは、一番近くで見守る飼い主様だけです。
獣医師と密に連携を図りながら、愛犬の身体の健康を生涯にわたって守り続けましょう。
参考文献
