犬がうつ伏せで寝る姿勢は、日常的によく見られる光景です。しかし、普段とは違う場所で寝ていたり元気がなかったりすると、不安になることもあるでしょう。
うつ伏せ寝は犬の基本的な寝姿勢ですが、痛みや体調不良が隠れているおそれもあるため、犬のうつ伏せ寝に関する知識を深めておくことが大切です。
この記事では、うつ伏せで寝ているときの心理状態や注意したい様子、疑われる疾患などを解説します。
犬の不調のサインを見逃さないためにも、普段の様子をチェックして、些細な変化に気付けるようにしておきましょう。
犬がうつ伏せで寝ているときの心理状態

犬がうつ伏せで寝ているのは、一緒に暮らしているとよく見られる光景です。とても可愛い寝姿ですが、そこにはさまざまな心理状態が隠されている可能性があります。
犬がうつ伏せで寝るのにはどのような理由があるのかを、3つの心理状態に分けて詳しく解説します。心理状態を理解できれば、状況に応じた対応ができるようになるでしょう。
浅く睡眠している
犬のうつ伏せ状態は、動き出しやすい姿勢で、飼い主の物音や気になる匂いがするとすぐに反応できます。そのため、うつ伏せで寝ているときは、浅い睡眠であることがほとんどです。
犬は、1日12時間以上の睡眠のなかで、人間と同じように浅い眠りのレム睡眠と深い眠りのノンレム睡眠を繰り返します。しかし、1回ごとの睡眠の長さは45分程度と、人間よりも短いのが特徴です。
この睡眠サイクルでは、うつ伏せで寝ることが多い傾向があります。普段からうつ伏せで寝ている、元気や食欲はあるなど、普段と変わらない様子なのであれば過度に心配する必要はないといえるでしょう。
体温調整

暑い時期に冷たい床の上でうつ伏せになっている、逆に寒い時期に暖かいカーペットの上でうつ伏せになっている場合は、体温調整をしている可能性があります。
犬は人間と比べると汗腺がほとんどなく、汗を出して体温をコントロールするのが苦手です。特に暑い季節は、パンティング(舌を出してハァハァする様子)をしたり冷たい床に体を密着させたりして、体温調整をすることがあります。
そのような状態が見られたときに注意したいのが、熱中症です。うつ伏せの状態に加えて、パンティングや大量のよだれ、ふらつきなどの症状が見られたら、なるべく早く動物病院に連れて行きましょう。
また、応急処置として涼しい場所に移動させて常温の水をかけ、体を冷やしてあげるのも効果的です。
リラックスしているが腹部は守りたい
犬は、鼻をお腹の下に隠して丸まるのが一般的な睡眠姿勢といわれています。このような姿勢で寝ることで、マズルやお腹などの急所を隠しながら、必要な睡眠時間を確保しているのでしょう。
深い眠りに入っているわけではありませんが、周囲の様子を把握しながら寝ている状態です。
普段の様子と比べて大きな変化がなければ、そのままゆっくりと休ませてあげるのがよいでしょう。ただし、呼吸の乱れや食欲の低下などの症状がある場合は、痛みや体調不良を隠している可能性があります。
気になる症状がある場合は、早めに獣医師に相談するのがおすすめです。
うつ伏せでも安心感を持てる状態

犬のうつ伏せは基本的な寝姿勢のため、すぐに動物病院に行かなければいけない場面は少ないでしょう。特に、以下のような状態のときは安心感を持てる状態と考えられます。
- 普段の寝姿勢と変わらないこと
- 呼吸の乱れがないこと
- 食欲や意欲が低下している様子はないこと
- 呼びかけにしっかりと反応すること
1日12時間以上と睡眠時間が長いからこそ、寝姿勢や寝る前後の行動などから、普段の様子との違いを見極めることが重要です。
隠れている疾患を見逃さないためにも、安心感を持てる状態とあわせて、注意したい犬の様子もチェックしておきましょう。
うつ伏せ時に注意したい犬の様子

犬が普段どおりにうつ伏せで寝ているだけなら、大きな問題はないと考えられます。しかし、うつ伏せで寝ているときに普段と違う様子が見られたら、何らかの病気が隠れているサインかもしれません。
早期診断と治療につなげるためにも、うつ伏せ時に注意したい4つの犬の様子を確認しておきましょう。
抱き上げを避けたり動きたがらない
普段は抱っこをしても嫌がらない犬が、急に抱っこを避けたり動くのを嫌がったりする場合は、体の痛みや体調不良が考えられます。
例えば、変形性脊椎症や椎間板ヘルニアなどの背骨の病気があると、抱っこで背骨に負担がかかり嫌がるようになります。歩行時のふらつきや首を動かすのを嫌がるなどの症状が一緒に見られたら、なるべく早く動物病院に連れて行きましょう。
また、首や背中、足などの特定の部位を触ると嫌がったり鳴いたりする場合も注意が必要です。無理に動かそうとせずにケージで安静にさせて、すぐに獣医師に相談しましょう。
呼吸が荒く胸やお腹の動きが大きい

うつ伏せで寝ているときに普段より呼吸が荒い、お腹の動きが大きいなどの症状が見られる場合は気道の異常や肺の病気、心臓疾患などが起きている可能性があります。
気道の異常で考えられるのは、短頭種気道症候群です。短頭種気道症候群は、ペキニーズやフレンチブルドッグなどの短頭種の犬によく見られます。安静にしているときのゼーゼー、ヒューヒューといった呼吸音や睡眠時呼吸障害などの症状が特徴です。
呼吸が荒くお腹の動きが大きい場合、深刻な病気が隠れていることも少なくありません。少しでも異変を感じたら、すぐに動物病院に連れて行くことをおすすめします。
姿勢をよく変えたり寝姿勢が変わる
頻繁に寝姿勢を変える様子が見られたら、何らかの病気が隠れている可能性があります。痛みや呼吸苦などが生じていて、同じ姿勢を保つのが難しい、というサインかもしれません。
特に、呼吸が苦しい場合はうつ伏せの姿勢を保つのが難しく、頻繁に姿勢を変えることがよくあります。また、横になったり起き上がったりを繰り返して落ち着きがないときは、どこかに痛みを感じていることが考えられます。
寝姿勢がよく変わるからこの病気、と断定することはできませんが、普段の様子と違うのであれば獣医師に相談するのがおすすめです。適切な治療を行ってもらうためにも、そのほかの症状や変化をよく観察し、的確に症状を伝えましょう。
祈りのポーズを取っている
犬の祈りのポーズとは、頭を下げてお尻を高く上げている姿勢を指します。これは、お腹に痛みを感じているときによく見られる姿勢です。
敵意がないことをアピールするプレイバウの姿勢と似ている、と感じるかもしれませんが、目線や尻尾の動き、表情などを見るとすぐに見分けられます。犬の様子をしっかりと観察するようにしましょう。
犬が祈りのポーズをする代表的な病気として挙げられるのが、急性膵炎です。急性膵炎は、肥満や過食に加えて糖尿病や高脂血症など、さまざまな原因によって発症します。
祈りのポーズに加えて激しい嘔吐や食欲不振、下痢などの症状が見られたら、早めに動物病院に行くようにしましょう。
犬のうつ伏せ寝で疑われる疾患

犬がうつ伏せ寝をしているからといって、何らかの疾患があると断定することはできません。しかし、症状によっては疑われる疾患があるのも事実です。
早期の治療介入で症状の悪化を防げることもあるため、まずはどのような疾患が疑われるのかを理解しておきましょう。ここでは、気をつけたい症状とそれにつながる疾患を解説します。
関節や筋骨格系疾患
うつ伏せ寝で疑われる疾患として、関節や筋骨格系疾患が挙げられます。代表的な疾患は、以下のとおりです。
- 椎間板ヘルニア
- 変形性関節症や関節炎
- 膝蓋骨脱臼
- 頚椎の疾患
うつ伏せだけで判断するのは難しいため、そのほかに気になる症状がないかを確認することが大切です。例えば膝蓋骨脱臼の場合は、うつ伏せとあわせて、足を引きずったりかばったりする症状が現れます。
疾患によっては、膝蓋骨脱臼のように繰り返すことで悪化するものもあるため、気になる症状があればなるべく早く獣医師に相談するようにしましょう。
消化器疾患

うつ伏せ状態から動きたがらない、祈りのポーズをしているなどの様子が見られる場合は、消化器疾患が疑われます。代表的な疾患は、以下のとおりです。
- 急性膵炎
- 胃炎
- 腸炎
- 異物閉塞
特に、うつ伏せ寝とあわせて食欲不振や嘔吐、下痢などの症状も一緒に現れている場合は緊急性が高い疾患の可能性もあります。自己判断で様子をみると深刻化するおそれもあるため、早期の診断と治療が重要です。
疼痛による疾患
犬は疼痛を感じているとき、鳴いたり動き回ったりするのではなく、痛みの悪化を防ぐために動きたがらないことがあります。特徴的な姿勢は、後ろ足を真っ直ぐに伸ばした状態のうつ伏せや祈りのポーズです。
膀胱や腎臓などの内科的疾患から脊髄疾患など、幅広い疾患が疑われるため、飼い主が特定するのは難しいでしょう。そのため、自己判断で薬を与えたり、様子を見たりするのは危険です。
早期に疼痛の原因を特定できれば、痛みに伴う疾患の進行を抑えられる可能性があります。気になる症状がある場合は早めに獣医師に相談し、適切な治療を始めることが重要です。
動物病院に相談する前に整理しておきたい情報

急な体調不良であればすぐに動物病院に行きますが、普段と何かが違うなという程度なら様子をみる方もいるでしょう。様子をみる場合は、特に注意して観察しておきたいポイントがあります。
診断の際に的確な情報を伝えるためにも、ここで解説する3つの変化に関する情報を整理しておきましょう。飼い主のちょっとした情報が、診断や治療の手がかりになることもあります。
普段との違いや変化
些細なことでも、普段との違いや変化に気付くことができれば、早期の原因特定と治療の介入に役立ちます。特に、慢性的な痛みがある場合、普段一緒にいる飼い主でも気付かないケースは少なくありません。
以下のような行動は、痛みや不調のサインの可能性があります。
- 体の一部を舐めたり引っ掻いたりすることが増えた
- 立ったり動いたりするのを嫌がる
- 飼い主に対する態度が変わった
普段との違いや変化に気付いたら、メモや動画に記録を残しておき、動物病院に行く際に持っていくのがおすすめです。
寝ている前後の様子や動きの変化
獣医師に相談する際は、寝る前後の様子や動きの変化も重要なポイントです。以下のチェックポイントを押さえておきましょう。
- 寝る前に落ち着かずに動き回っている
- 睡眠中の呼吸が荒い
- いつもと異なる姿勢で寝ている
- 痙攣している
- 呼びかけに応じない
- 起きているが動きたがらない
姿勢が変わったり同じ方向にぐるぐると回ったりしている場合、脳の疾患が疑われます。脳神経内科の分野では、飼い主が気付くちょっとしたことが診断の手がかりになることもあるため、気になる症状を記録に残しておくとよいでしょう。
日常行動に見られる体調の変化
食欲や元気、排泄などの日常行動に見られる体調の変化は、飼い主が気付きやすい変化の一つです。
- 食欲の低下
- 便の色や形が普段と違う
- 排泄の仕方が違う
- 目やにの量が増えた
このような変化が見られたら、気付いた日から記録をつけて診断の際に伝えるようにしましょう。
同じ犬であっても個体による差が大きいため、診断や治療の際は、普段一緒に過ごしている飼い主の情報が欠かせません。普段の犬の様子を把握し、変化に早く気付くことが早期の診断と治療に役立ちます。
うつ伏せ寝が見られるときにやってはいけない対応

犬は1日12時間以上眠りますが、常に深く眠っているわけではありません。特に、うつ伏せはすぐに動ける状態で、少しの物音で起きてしまうことがよくあります。
十分な睡眠時間を確保できていないと、睡眠不足となり、嘔吐や下痢などを伴う体調不良につながることも少なくありません。犬の睡眠時間を妨げないためにも、以下の行動は避けるようにしましょう。
- 頭や体を触る
- 大きな音や声を出す
- 無理に遊びに誘う
犬が寝ている姿を見ると撫でたくなるかもしれませんが、安眠してもらうためにも我慢しましょう。
また、長時間かまいすぎるとストレスや疲労の原因となる可能性があります。遊びや散歩の際は時間を決めて行い、1日のなかでそっとしておいてあげる時間を作ることも大切です。
痛みや体調不良の様子が見られる場合は、無理に動かすのは避けましょう。無理に動かしてしまうと、症状が悪化するおそれがあります。対処法がわからなければ、かかりつけの動物病院に問い合わせて指示を仰ぐのも一つの方法です。
まとめ

犬がうつ伏せで寝ているときは、すぐに動ける状態で浅い睡眠をしていることがほとんどです。また、暑い時期や寒い時期に場所を選んで寝ているのであれば、体温調整をしている可能性もあります。
うつ伏せは犬の基本的な寝姿勢のため、過度に心配する必要はないといえるでしょう。しかし、その姿勢の裏に痛みや体調不良が隠れている可能性があるのも事実です。
特に、後ろ足を伸ばした姿勢や祈りのポーズ、うつ伏せ寝以外の症状があるような場合は、何らかの疾患のサインかもしれません。
食事や排泄、普段の行動などに変化が見られたら、なるべく早く動物病院に相談しましょう。些細なことでも不安を感じたら、その様子をメモや動画に残しておくと、診断の際に役立ちます。
犬がいつもと違う、というのは、一緒に過ごしている飼い主だからこそ早期に気付くことができる変化です。普段の様子を把握し、些細な変化を見逃さないことが、犬と長く一緒に過ごすための第一歩となるでしょう。
参考文献
