フィラリアは犬をはじめ、キツネやタヌキなどイヌ科の動物に寄生しますが、まれに猫にも寄生する場合があります。フィラリアの症状は、寄生している成虫の数や感染期間、寄生部位などによってさまざまです。
本記事では動物病院でのフィラリア対策について以下の点を中心にご紹介します。
- フィラリアの原因や症状
- 動物病院で受けられるフィラリア予防
- フィラリア症の治療
動物病院でのフィラリア対策について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
フィラリア症とは
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フィラリア症は、蚊が媒介する寄生虫・フィラリアによって引き起こされる病気です。心臓や肺の血管に寄生し、肺疾患や心不全をもたらし、治療が遅れると命に関わることもあります。
症状
フィラリア症の症状は、初期段階では目立たないことが多く、飼い主が気付きにくい病気です。症状が出る頃には感染から数年経っているというケースもあります。
初期の兆候としては、軽い乾いた咳、疲れやすさ、散歩中のスタミナ切れが見られることがあります。
また、食欲の低下や元気がなくなるなど、健康状態の変化が感じられる場合もあります。
フィラリア症が進行すると、症状はさらに深刻化します。
フィラリアの成虫が、動物の心臓や肺動脈に寄生し血流を妨げるため、肺炎や心不全を引き起こすことがあります。それにより、呼吸困難や体重減少、腹水の蓄積、赤い尿(血色素尿)が典型的な症状として挙げられます。悪化すると、運動中の失神や吐血など、命に関わる症状に至る場合もあります。
原因
フィラリア症の原因は、糸状線虫(フィラリア)という寄生虫です。フィラリアは動物の心臓や肺動脈に住みつき、体内にダメージを与えます。
感染した犬の体内に入ったフィラリアは、血管を通じて心臓や肺動脈に移動します。
フィラリアの成虫は20~30cm程の長さに成長し、心臓や血管を塞ぎます。これにより血液の流れが妨げられ、肺や肝臓などの臓器が損傷を受けることがあります。
感染経路
フィラリアは蚊を媒介して感染します。
蚊がフィラリアに感染した動物の血液を吸うと、動物の血液中に存在するフィラリアの幼虫(ミクロフィラリア)が蚊の体内に移ります。その後、蚊の体内で数週間かけて幼虫が成長し、次に刺した動物の体内に幼虫がうつる仕組みです。このプロセスを繰り返すことで、フィラリア症は広がっていきます。
注意する季節
フィラリア症の予防が特に必要なのは、蚊が活発に活動する季節です。地域ごとに注意すべき時期が異なります。
温暖な気候や湿度の高い環境では蚊の活動が活発になるため、蚊が発生する季節に合わせた対策が求められます。
例えば北海道では6月~11月頃、本州や関西地方では4月~11月頃、沖縄では通年での予防が推奨されています。
また、その年の気候条件によって蚊の発生時期が前後することもあります。
例えば、暖冬で気温が高い場合、蚊の活動期間が長引くことがあります。
犬から犬へうつることはある!
フィラリア症は犬同士の直接接触で感染することはありませんが、間接的に感染リスクが高まる可能性はあります。
フィラリアは感染動物の血液を吸った蚊が媒介するため、周囲に感染動物が多い環境では感染リスクが上昇します。
また、野生や地域の動物にも感染が広がっている場合、蚊を介して感染が広がる可能性がさらに高まります。
フィラリアの感染を防ぐためには、蚊が多い地域や季節では特に注意が必要であり、予防薬の使用や定期的な検査、蚊の発生を抑える環境整備が不可欠です。
フィラリア症に特に注意が必要なケース
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フィラリア症は蚊を媒介して感染するため、以下のような環境下にある動物は特に注意が必要です。
屋外暮らし
屋外で暮らす動物は蚊に刺されやすい環境にいるため、屋内飼育の犬と比較するとフィラリア感染のリスクが特に高いとされています。
蚊は動物の被毛を通り抜けて刺すことが可能なため、刺された跡やかゆみが見られなくても感染の可能性があります。
また、高層マンションに住む室内犬でも、蚊が人間にくっついて移動したり、風に乗って高層階まで到達するケースがあります。
このように、室内での感染リスクは低いものの、完全に防げるわけではありません。そのため、屋外・屋内問わず、予防薬を定期的に投与することが重要です。
特に、屋外生活をしている大型犬種や保護犬などは、定期的な検査と予防が不可欠です。
妊娠中
妊娠中の動物は特に、フィラリア症への注意が必要です。
フィラリアは蚊を媒介とするため母子感染することはありませんが、妊娠中の体調変化が、感染に対する抵抗力を弱める可能性があります。
また、フィラリア症の進行により胎児への影響が懸念される場合もあるため、出産を計画する前から予防薬を使用して感染を防ぐことが推奨されます。
そして、生まれてくる子どもも蚊の媒介による感染リスクがあるため、生後間もない段階からの予防体制が必要です。
フィラリアは妊娠中でも使用できる予防薬がある一方で、薬の選択には慎重さが求められます。かかりつけの獣医師に相談し、適切なタイミングと薬剤を選ぶことが大切です。
動物病院でできるフィラリア予防
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動物病院ではどのようなフィラリア予防ができるのでしょうか。
ここでは動物病院での検査方法や予防方法について解説します。
まずは検査が必要
フィラリア予防薬の投与前には、必ず感染の有無を確認する検査が必要です。
すでにフィラリアが寄生している場合、予防薬の投与によってミクロフィラリアが一度に死滅し、血管が詰まることによるショック症状(血圧低下、意識障害)を引き起こす可能性があります。最悪の場合命に関わることもあります。そのため、フィラリア予防薬は必ず、血液検査を経て処方されます。
血液検査は、幼虫を確認するミクロフィラリア検査と、成虫を確認する抗原検査に分けられます。
【ミクロフィラリア検査】
ミクロフィラリア検査は、動物の血液中にフィラリアの幼虫(ミクロフィラリア)が存在するかを顕微鏡で確認する方法です。主に以下の手法があります。
- 直接法
採血した血液をスライドガラスにのせ、ミクロフィラリアがいるかを顕微鏡で観察します。簡便で即時性がある方法ですが、検出率がやや低い場合があります。
- ヘマトクリット法
採血した血液をガラス管(ヘマトクリット管)に入れ、遠心分離を行いミクロフィラリアを確認する方法です。直接法よりも血液量が多く必要ですが、検出率が高いとされています。
- フィルター集虫法
血液を希釈し、専用フィルターでミクロフィラリアを捕捉し顕微鏡で確認します。正確性は高いとされるものの、コストや手間がかかるため、現在ではあまり使われていないようです。
- アセトン集虫法
血液を専用試薬で染色した後に遠心分離を行い、沈殿物にミクロフィラリアがいるかを確認する方法です。複雑な工程が必要なため、使用頻度は少ないようです。
【抗原検査】
抗原検査は、特に雌の成虫が存在しているかを確認する検査です。フィラリアの成虫が血液中で分泌する抗原を検出します。そのため、フィラリアが成虫になる前の段階(幼虫)の感染や、雄のみの寄生では陰性になることがあります。
検査結果は約5分で判明するため、迅速に診断できます。
ただし、これらの検査結果が陰性だからといって感染していないと判断はできません。少数の寄生では検出できない場合もあります。
そのため、状況に応じて、レントゲンや超音波検査などのほか他の検査も併用され、総合的にフィラリア症であるかが判断されます。
フィラリア予防を行う時期
フィラリア予防は、蚊の活動時期に合わせて行うことが基本です。蚊が出始めてから一ヵ月以内に予防薬を投与し、蚊がいなくなった1ヵ月後頃まで続けます。
例えば、4月~12月を予防期間としている地域が多いようですが、温暖な地域では蚊の活動期間が長いことや、温暖化の影響を考慮して、通年での予防が理想とされています。
通年予防は、蚊の発生時期を気にする必要がなく、飼い主が薬を与え忘れるリスクも減らせるメリットがあります。
蚊の体内のフィラリアは、15度以上になると動き出します。
フィラリア予防は、地域の気温や蚊の発生状況を考慮して、獣医師と相談のうえ適切に行うことが大切です。
フィラリア予防の方法と特徴
フィラリア予防には、注射、経口薬、滴下薬の3つの方法があります。それぞれ特徴が異なり、動物の体質や生活環境に応じて適切な選択が必要です。以下で詳しく解説します。
注射
フィラリア予防注射は、1年に1回接種します。注射には薬剤がカプセル状で体内に留まり、徐々に放出される溶解する仕組みが採用されています。
メリットとして、投薬忘れを防げるので、継続的な予防につながります。
また、毎月の投薬が負担になる飼い主やペットにとっても利便性が高い方法ではないでしょうか。
一方で、6ヵ月齢未満の子やシニア、妊娠中の動物など、体調や状況によっては接種が適さない場合もあります。
また、フィラリア予防注射はフィラリア症のみを予防するため、ノミやダニの駆除は別途対策が必要です。
経口薬
経口薬は、月に1回の投薬でフィラリア症を予防する方法です。錠剤タイプやチュアブルタイプがあり、犬の嗜好や与えやすさに応じて選べます。
一部のチュアブルタイプでは、内部寄生虫やノミ・ダニの予防も同時に行えるものがあり、多機能性が特徴です。
注意点として、食べ物の好き嫌いやアレルギーによって適さない場合があります。
また、嘔吐や下痢をした場合には薬の効果が十分に発揮されないことがあるため、投薬後の様子を観察することが重要です。
滴下薬
滴下薬は、動物の皮膚に薬液を滴下するものです。月に1回の使用でフィラリア予防とノミの駆除が同時に可能とされ、経口薬を嫌がる動物におすすめです。
ただし、薬液が乾燥するまでスキンシップが制限されることや、皮膚が弱い動物では刺激や脱毛などの副作用が出る可能性があります。
また、滴下薬を動物が舐め取らないよう、注意が必要です。
フィラリア予防の方法は、それぞれ特徴や適応が異なるため、愛犬の体質や生活環境に応じた選択が大切です。獣医師に相談のうえ、適切な方法を選び、定期的な予防で大切な命を守りましょう。
フィラリア症の治療方法
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フィラリア症は、犬や猫にとって命に関わる深刻な病気です。治療方法は寄生の状況、動物の体力、併発症の有無などに応じて慎重に選択されます。
ここでは、治療の主な方法について詳しく説明します。
【犬の治療方法】
- 駆虫薬の投与
フィラリア症の基本治療は、フィラリア成虫や幼虫を駆除する薬剤の使用です。
成虫駆除薬を用いる場合、死滅したフィラリアが肺の血管を詰まらせるリスクがあるため、事前に抗生物質や抗炎症薬を投与し、副作用を軽減させます。
- 抗生物質の投与
フィラリアが保有するボルバキア菌を抑えるため、抗生物質を使用します。この処置により、全身の炎症反応を抑え、ミクロフィラリアの数を減少させます。
- 対症療法
症状の進行度に応じて、心不全や肺炎、腹水貯留に対する治療が行われます。
利尿薬や抗炎症薬、酸素吸入などが用いられることが多く、症状の緩和を目的とします。
- 外科的治療
急性悪化の場合、心臓内のフィラリア成虫を手術で除去することがあります。
首の静脈から特殊な鉗子を挿入し、フィラリアを引き出す方法が一般的ですが、体力のない犬では実施が難しい場合もあります。
- 経過観察
手術や薬剤治療が難しい場合、寄生虫の自然減少を待つこともあります。しかし、この場合の予後はあまり良くありません。
【猫の治療方法】
- 支持療法
猫のフィラリア症では、成虫を駆除する治療がリスクを伴うため、症状を管理する支持療法が主になります。
酸素吸入やステロイド薬、抗炎症薬が投与され、咳や呼吸困難などの症状を緩和させます。
- 予防的治療
幼虫を駆除する予防薬を使用し、感染の進行を抑える方法が取られる場合もあります。
- 外科的治療
猫における成虫除去手術は非常にリスクが高いとされ、現在ではほとんど行われていないようです。
- 経過観察と定期検査
フィラリア症に感染した猫では、定期的な血液検査やレントゲン、心臓超音波検査を行い、状態を確認することが重要です。生存期間が短くなる傾向があるため、症状を注意深く観察しながら適切に対応します。
フィラリア症の治療は、動物の体調や感染の進行状況に応じた柔軟な対応が求められます。治療にはリスクが伴う場合があるため、早期発見と予防が重要です。
定期的な検査と予防薬の使用を徹底することで、大切な家族をフィラリア症から守りましょう。
こんな症状があったら病院に相談しよう
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以下のような状態が見られたら、すぐに動物病院へ相談しましょう。
- 食欲がない
- お腹が膨らんできた
- 咳が出る
- 呼吸が苦しそう
- 元気がない
- 赤い尿が出る(真っ赤~コーヒーのような色)
まとめ
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ここまで動物病院でのフィラリア対策についてお伝えしてきました。
動物病院でのフィラリア対策について、要点をまとめると以下のとおりです。
- フィラリア症は、蚊が媒介する寄生虫・フィラリアによって引き起こされる。心臓や肺の血管に寄生して肺疾患や心不全をもたらし、治療が遅れると命に関わることもある
- 動物病院で受けられるフィラリア予防は、フィラリア予防注射の接種や、経口薬・滴下薬の処方
- フィラリア治療は薬での駆除、手術、対処療法があるが、いずれも動物の身体に負担が伴う
フィラリアの治療は動物に負担がかかるため、まず感染しないようにするのが大切です。定期的な検査と予防を行い、対策しましょう。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。