猫の可愛らしい肉球が腫れて大きくなってきたら、病気のサインかもしれません。形質細胞性足皮膚炎は肉球の病気です。
初期段階では痛みがなく、自然治癒することもあり気づかないケースも少なくありません。足を引きずっていたり、以前より頻繁に足をなめるようになっていたら注意が必要です。
言葉を発せない猫だからこそ、異変にはすぐに気づいてあげたいものです。適切に治療すれば改善する病気ですので、ぜひ参考にしてみてください。
猫の肉球の病気『形質細胞性足皮膚炎』とは
猫の足裏の肉球に稀にみられる病気で、形質細胞という白血球の一部が増える病気です。プラズマ細胞性足底皮膚炎とも呼ばれ、肉球がパンパンに腫れ、出血し痛みから足を引きずるような歩行異常がみられます。
アレルギーや免疫反応により引き起こされる皮膚炎といわれており、まだその原因について解明されていない部分も多いのですが、白血病ウイルスやエイズウイルスが発症に関わっていることもあります。
形質細胞性足皮膚炎の症状
主な症状は肉球の軟化・膨張・出血・潰瘍化で、初期症状はほぼありませんが進行すると痛みが現れやすくなります。
歩きにくい様子だったりしきりに足をなめたりと、いつもと違う様子のときは何らかの症状が出始めていますので、猫の肉球をチェックしてみてください。
肉球のむくみ
肉球にある形質細胞が異常に増えることで、むくみ・膨張が起きます。形質細胞は免疫に関わる細胞で、歩き回る際にあらゆる刺激物質により形質細胞が刺激され増殖した可能性が考えられます。
肉球が柔らかくスポンジのように腫れ、しばらくするとしぼんだ風船の様に縮み自然と治癒する場合もありますが、潰瘍ができるなど進行することで痛みを伴うようになるのです。
肉球表面の潰瘍や膿
形質細胞性足皮膚炎は悪化すると潰瘍ができ、感染・出血・歩行異常などがみられます。初期は表面がカサカサして痛みもない場合が多いですが、初めから潰瘍を形成するケースもあると報告されています。
気になって患部を頻繁になめるようになると、潰瘍部分が破けて傷が治りにくくなりますのでエリザべスカラーを付ける対策も良いでしょう。
潰瘍や膿が確認できた際は、皮膚炎が悪化しているサインです。
進行させないためにも、歩き回って患部を刺激しないよう保護する物を付けるなどの対策が必要です。
足を引きずるように歩く
肉球が腫れたり痛みを伴ったりと、何らかの異常を感じている場合には歩きにくくなるため、足を引きずるようになります。
長期間放置すると、やがて歩行困難で一歩も歩けなくなることもありますので注意が必要です。
形質細胞性足皮膚炎の原因
形質細胞性足皮膚炎は、原因不明なことが多い病気で感染症からくるものも多く報告されています。
中でも感染していることが多い猫免疫不全ウイルス・猫白血病ウイルスについて詳しく解説していきます。
原因は不明である
何らかの免疫が関与していると考えられている一方で、まだ具体的な原因が明らかにされていない病気です。
犬より猫に多く発症が確認されている病気で、年齢・種類・性別による傾向はありません。
見た目は肉球の一部・または複数箇所が腫れて大きくなることがあり、腫瘍かもしれないと心配になりますが、まずは動物病院へ連れていきましょう。
猫免疫不全ウイルスに感染していると発症しやすい
猫免疫不全ウイルスとは、人間のエイズとは異なるウイルスです。感染原因は唾液がほとんどで、外で歩き回る野良猫による噛み傷から感染するケースが多いようです。
猫免疫不全ウイルスに感染し発症した猫に一番多くみられる症状は口内炎で、瘦せ細る・下痢が続くことが特徴としてあげられます。
見た目ではほとんど普通の猫と変わりません。特に免疫力が低い子猫の時期に感染すると致死率が高く平均寿命が短いですが、発症しないまま長生きする場合もあります。
アメリカの研究データによると、形質細胞性足皮膚炎に罹患した猫の50%が猫免疫不全ウイルス(FIV)に感染していたことがわかっています。
そのメカニズムについてはまだ解明されていませんが、猫免疫不全ウイルスの関連性が高いと考えて良いでしょう。そのため、免疫抑制剤が有効な治療薬として使用されています。
猫白血病ウイルスに感染していると発症しやすい
猫白血病ウイルスとは免疫力の低下からあらゆる病気にかかりやすく、症状が治りにくいのが特徴です。
例えばリンパ腫・貧血・口内炎・下痢が治りにくいなど、その症状は様さまざまです。感染経路については唾液・尿・血液などが多く、空気感染することはあまりありません。
日本では約3~5%の猫が感染しているとされ、ワクチンで予防が可能です。猫免疫不全ウイルスと同様に致死率が高く、感染した猫の50~70%が5年以内に死亡するケースが多い病気です。
ただし、免疫力が高い場合など健康状態によってはウイルスを排除でき、全ての猫が発症するわけではありません。
免疫力が低いため排除できないウイルスが増殖すると、3年以内に形質細胞性足皮膚炎などの猫白血病ウイルス関連疾患を発症しやすい傾向があります。
形質細胞性足皮膚炎の治療法
治療法には投薬と外科手術があります。初期段階での治療として、抗生物質で80%は改善可能と報告されています。
また無症状であれば治療はせず経過観察で良い場合もあり、これは患部への免疫刺激がなければ退縮することも考えられるため、自然治癒する可能性があるからです。
いくつかある治療法について、期待できる効果と外科手術が必要となる場合の病気の進行度など詳しく説明していきます。
抗生剤や合成副腎皮質ホルモン剤の投与
猫の形質細胞性足皮膚炎の治療に有効な薬は、免疫調整作用のあるドキシサイクリンという抗生剤の経口投与です。
これは1~2ヶ月ほどで改善が認められたケースもあれば、長期にわたり投与が必要になる場合もあります。痛み・潰瘍がある際には、プレドニゾロンの投与が推奨されており改善がみられています。
プレドニゾロンは合成副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)の一種で、非常に高い効果を発揮し副作用が少なく、形質細胞性足皮膚炎以外にも多くの疾患で使用されている薬剤です。
ステロイド剤の中でも持続時間が中程度、免疫抑制・アレルギーや炎症を緩和する効果があり、フードに混ぜて投与させます。
外科手術
出血や潰瘍が進んだ重症の場合は、外科手術が有効です。
プレドニゾロンなどの投薬治療を試みても効果がみられないときは、最終手段として露出した組織を取り除くことで一時的に改善し、再発を4~6ヶ月遅らせることが可能になります。
再発の可能性もあるため、内科療法を行いながら経過観察が必要です。もし再発しても治癒に向けて再手術を行います。
猫の他の皮膚病
形質細胞性足皮膚炎以外にも猫の皮膚病には種類が多くあり、代表的な皮膚炎にノミによる症状が知られています。
大量のノミに血を吸われると貧血になることや、毛づくろいの際にノミと一緒にサナダムシの幼虫が経口摂取されることがあります。
普段毛に覆われていて異変に気付きにくいため、少しでも違和感を覚えたら確認してみましょう。
皮膚糸状菌症
皮膚糸状菌というカビで、毛や皮膚に感染し動物病院ではよく診断される症例です。人にも感染するため、飼い主とその家族が感染することもあります。
その症状は以下の通りです。
- 脱毛
- 赤み
- かさぶた
- フケ
顔周りや耳・足にフケを伴う脱毛がみられることが多く、特に免疫力の低い子猫・毛足の長いペルシャ猫なども症状が現れやすいとされています。
まとまった毛の塊が浮いて脱毛し、複数個所に円形の脱毛が発生することもあります。
また猫免疫不全ウイルス・猫白血病ウイルスに感染しているなど、免疫力が低下していると感染・重症化しやすいです。
皮膚を掻きすぎてバリア機能が低下しているときも注意が必要です。
ノミアレルギー
ノミアレルギー性皮膚炎という病気があります。これは主に背中から腰にかけてかゆみが出るのが特徴です。
ノミの唾液に含まれる成分に対してアレルギー反応が起き、湿疹・かゆみ・脱毛・炎症の症状が現れます。
仮に首を咬まれても腰がかゆくなるなど、咬まれた部分以外もかゆみ・炎症が起きやすく、掻いた部分に細菌が入りまた更に炎症が悪化し悪循環となります。
ノミ駆除薬とかゆみ止めなどを使用した治療法がありますので、発見した際には早めに治療をしていきましょう。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎はアレルギーの一種で、その原因にはダニやノミ・動物のフケ・植物があげられます。かゆみと炎症が起きるのが特徴です。
主に以下の症状があげられます。
- 脱毛
- 栗粒性皮膚炎
- 掻把痕
- 好酸球性肉芽腫群
特に体幹部にみられやすい脱毛症状で、なめ続けることで起きます。他にもヒスタミンというかゆみ成分が分泌される耳介裏・下顎、頭部・頸部を掻き壊してしまうアレルギー症状があります。
また人や犬にはみられない栗粒性皮膚炎は、主に顔面・頭部、ときに全身に発現する丘疹です。
次に、好酸球という炎症を引き起こす細胞が多くなる好酸球性肉芽腫群について解説します。
唇に発生し、唇がそげたようになる無痛潰瘍・顎や腹部が脱毛して湿る好酸球性局面・後ろ足や舌の上に盛り上がった病変として見つかる線状肉芽腫です。
これらを総称し好酸球性の皮膚病とよばれています。
アトピーはほかの病気と症状が似ているため、皮膚病の検査を行います。アトピーの可能性が高い場合は血液検査や皮内検査で、アレルゲンの特定が可能です。
皮膚腫瘍
皮膚腫瘍にも種類があり、それぞれ進行度も異なるため早めの摘出が必要な場合があります。主な腫瘍について解説していきます。
- 基底細胞腫
- 線維肉腫
- 肥満細胞腫
- 扁平上皮癌
- 皮脂腺腫
基底細胞腫は猫に多くみられる良性の腫瘍で、全身あらゆる箇所に発生する隆起性腫瘤です。外科手術で切除治療をします。術後の転移などの報告はありません。
線維肉腫は時々みられる病気で、皮膚内の線維芽細胞ががん化して体中のあらゆる箇所に腫瘍が大きくなってできていきます。
免疫力の低下・ストレスが関与していると考えられており、こちらも転移はしにくいといわれています。肥満細胞腫は猫における発生率が高い悪性の腫瘍です。
皮膚・内臓・消化器の3箇所にできるがんで、決して肥満気味だからがんになるという訳ではありません。
特に皮膚にできる皮膚型肥満細胞腫は、発症する割合が高く虫刺されに似たできものが特徴の腫瘍です。外科手術による切除で治療可能です。
内臓と消化器にできる腫瘍は見た目には現れないため、元気がなくなってきたり痩せてきたりと普段と異なる状態であれば受診しましょう。
扁平上皮癌も悪性腫瘍でカリフラワー状の見た目が特徴で、紫外線・たばこの煙・ノミ除け首輪など外的環境が原因になることがわかっています。
皮脂腺腫は皮脂を分泌する皮脂腺が異常に増殖するがんです。まぶたや肛門にもできる腫瘍で、1cm未満のカリフラワー状の見た目で、こすれて出血することがあります。
こちらは猫よりも犬の発症例が多く報告されており、外科手術で切除治療が可能です。
もし猫の肉球に異変を感じたら
猫の病気は種類が多いので、まずは原因が何かを調べます。大切な家族である猫の異変に気付いてあげられるのは、飼い主の皆さんです。
普段から抱っこしたり、ブラッシングしたりと体に触れることで気付く病気も多いので、日頃から確認してあげましょう。
猫の腫瘍は、悪性の場合も早めに発見しすぐに治療を行えば助かる病気が多いのです。
外科手術で切除が可能な腫瘍が多くありますので、そのうち治るかもと放置せず、まずは動物病院で診てもらいましょう。
皮膚病には種類があり予防が難しいとされていますが、ダニやノミが住みつかないような環境をつくってあげることが大切です。
室温など温度管理に気を遣うこと・ダニの繁殖を防ぐためにも湿度をチェックしてみるのもおすすめです。
人の靴に付着したダニやノミが室内の猫にうつってしまう可能性もあります。
心配な場合は、キャットフードに寄生虫の予防薬を混ぜて与えてあげるなど工夫をしてみましょう。
ダニやノミの予防で確実なのは、病院で販売している予防薬を使うことです。予防薬は市販されていますが、効果が確証されておりません。そのため、病院で販売されている予防薬を使用することを推奨します。
まとめ
人間だけでなく猫も免疫力の低下から病気になることがわかりました。形質細胞性足皮膚炎に関わらず早期発見・早期治療を心がけることが大切です。
基本はシャンプーで皮膚を綺麗にすることで、ノミをはじめダニ・寄生虫の被害はだいぶ減らせます。常に清潔に保ってあげましょう。
猫の肉球の病気について解説しました。形質細胞性足皮膚炎というあまり聞き慣れない病名ですが、この記事がいざという時のお役に立てましたら嬉しいです。
参考文献