猫の胆管炎(胆管肝炎) | 症状・治療法・早期発見のポイントを解説

猫 胆管炎

猫の胆管炎(胆管肝炎)は、胆管や肝臓に炎症が起こる病気です。

症状が急速に進行するタイプと、慢性的に徐々に進行するタイプの胆管炎があります。どちらのタイプの胆管炎であっても、無治療のまま放置すると命に関わる場合があるため、早期発見・早期治療がとても重要です。

そこで今回は、猫の胆管炎の症状・治療法・早期発見のポイントなどを解説します。

猫の胆管炎の発見・治療に役立てていただければ幸いです。

猫の胆管炎(胆管肝炎)の分類・症状

ゴロゴロする猫

胆管炎(胆管肝炎)とはどのような病気ですか?
胆管炎とは、胆汁の通り道である胆管に炎症が起こる病気です。脂肪分の消化を助ける働きのある胆汁は肝臓で作られ、胆管を通り胆嚢へと蓄えられます。そして、食事を摂ると胆嚢に蓄えられた胆汁が排出され、総胆管を通り十二指腸に送り出されるのです。
この胆汁の通り道である胆管が何らかの原因で炎症を起こした状態が胆管炎です。さらに、炎症が肝臓まで広がった状態を胆管肝炎といいます。胆管肝炎は肝臓の細胞にまで炎症がおよんだ状態であり、胆管炎よりも重篤な状態だといえるでしょう。胆管炎は猫の肝臓・胆管・胆嚢に発生する疾患のなかで、特に発生率が高い病気とされています。
胆管炎の分類を教えてください。
猫の胆管炎は主に次の3つに分類されます。

  • 好中球性胆管炎
  • リンパ球性胆管炎
  • 肝吸虫感染による慢性胆管炎

好中球性胆管炎は化膿性の胆管炎で、胆管や肝臓に細菌が感染することで発症します。猫の総胆管は十二指腸の手前で膵管と合流して十二指腸開口部へとつながります。つまり、総胆管の出口は十二指腸の壁にあるのです。この総胆管の出口から腸内の細菌が総胆管内へと侵入することで、好中球性胆管炎を発症するとされています。
好中球性胆管炎では急に症状が現れる場合が多く、症状の進行も早い傾向にあります。2つ目の分類のリンパ球性胆管炎は非化膿性の胆管炎です。胆管内に細菌が感染していないにも関わらず、胆管や周りの肝臓に炎症が起こります。この炎症部分に免疫細胞のリンパ球が見られるため、リンパ球性胆管炎と呼ばれています。
症状は慢性的にゆっくりと進行するのが特徴で、高齢の猫に多く見られる胆管炎です。3つ目の分類は寄生虫である肝吸虫感染が原因で発症する胆管炎です。肝吸虫感染による胆管炎は慢性的な炎症を引き起こしますが、症状が現れないケースが多くあります。

猫が胆管炎を発症する原因は何ですか?
猫が胆管炎を発症する原因として以下が挙げられます。

  • 細菌感染
  • 免疫の異常
  • 寄生虫感染
  • 胆石や胆管がんなどによる胆管閉塞
  • 膵炎
  • 肝リピドーシス

細菌感染が原因の胆管炎は、腸管内の細菌が胆管や肝臓に感染することで発症します。免疫の異常で発症する胆管炎はリンパ球によって炎症が引き起こされますが、原因は不明です。寄生虫感染による胆管炎は、肝吸虫が原因で発症します。肝吸虫は淡水魚などを介して感染するため、猫に生の淡水魚を与えないように注意しましょう。
胆管内に胆石やがんが発生すると、胆管が詰まり胆汁が流れなくなるケースがあります。これにより胆管に炎症が発生する場合があるのです。また、膵炎が原因で胆管炎を併発するケースがあります。猫の総胆管は十二指腸の外で膵管と合流しています。このような構造上、膵炎を発症するとその影響が胆管にまでおよび、胆管炎を併発してしまうのです。
なお、膵炎・胆管炎に加え腸炎も併発しやすく、これら3つの臓器で併発して炎症が起こった状態を三臓器炎といいます。これらの疾患のほかに、肝臓の脂質代謝障害によって発症する肝リピドーシスによっても胆管炎が引き起こされる場合があります。

胆管炎ではどのような症状が見られますか?
猫の胆管炎では以下のような症状が見られます。

  • 食欲がなくなる
  • 元気がなくなる
  • 体重が減る
  • 吐き気
  • 嘔吐
  • 下痢
  • 腹部の痛み
  • 発熱

これらの症状が慢性的に見られる傾向にあります。症状の進行も緩やかなケースが少なくないでしょう。ただし、好中球性胆管炎の場合は症状が急激に現れ、進行も早い傾向にあるため注意が必要です。
また上記の症状のほかに、病状が進行すると現れる黄疸と呼ばれる症状があります。黄疸とは、皮膚・粘膜・白目部分が黄色くなる症状です。これは、胆管炎によって胆汁の流れが滞り、胆汁成分であるビリルビンが血液中に増加するためです。
なお、黄疸は胆管炎以外の胆道や肝臓の疾患によっても発生します。もし黄疸の症状が見られたら、すぐに動物病院を受診するようにしてください。

猫の胆管炎(胆管肝炎)の治療法

獣医師の診察

胆管炎が疑われる場合はどのような検査を行いますか?
猫に胆管炎が疑われる場合には、以下の検査を行い診断します。

  • 問診・状態確認
  • 血液検査
  • 超音波検査
  • 生検・病理組織検査

まず初めに飼い主さんへの問診と猫の状態の確認が行われるでしょう。いつ頃からどのような症状が現れたのかを聞き取ったり、現在の状態を観察したりして異常の有無を調べます。次に行われるのが血液検査です。血液検査では炎症の数値や肝臓・胆管の数値を確認します。
好中球性胆管炎では好中球の数値を中心に、白血球数の上昇が見られます。また、炎症によって肝臓や胆管が傷害されるため、肝酵素の上昇も見られるでしょう。リンパ球性胆管炎の場合には、リンパ球数の増加や肝酵素の上昇が見られます。
血液検査のほかに、超音波検査で胆管の形状や閉塞の有無などを調べる場合があるでしょう。これらの検査で原因が特定できない場合には、診断を確定させるために生検・病理組織検査が必要となる場合もあります。

有効な治療法を教えてください。
猫の胆管炎の主な治療方法は内科的な治療法です。細菌感染が原因の好中球性胆管炎では、抗生物質の投与を中心に治療を行います。胆管の閉塞を伴わない胆管炎の場合には、胆汁の流れを促す利胆剤を使用することもあります。このほか、急性の胆管炎で脱水症状が見られる場合には、入院して数日間点滴を行うケースもあるでしょう。
リンパ球性胆管炎ではステロイドを中心に治療を行います。ステロイドは炎症を抑えたり免疫力を調節する目的で使用されます。また、細菌感染を管理するために抗生物質を合わせて使用するケースもあるでしょう。このほか、症状に合わせて鎮痛剤や吐き気を抑える薬などが使用されます。なお、胆管閉塞を伴う場合には、手術などの外科的な処置が必要となる場合もあります。
代表的な治療薬を教えてください。
猫の胆管炎の代表的な治療薬には抗生物質とステロイドがあります。抗生物質はペニシリン系のアンピシリン・アミノグリコシド系のゲンタマイシン・メトロニダゾールなどが使用されます。ステロイドではプレドニゾロンなどの薬剤が使用されるでしょう。このほか、胆管閉塞を伴わない場合には、胆汁を流れやすくするウルソデオキシコール酸という利胆剤などを使用して治療を行います。
胆管炎を治療しないとどうなりますか?
細菌感染が原因で発生する好中球性胆管炎の場合、症状の進行が早い傾向にあるため、食欲低下や脱水症状を引き起こし、全身状態が急速に悪化する場合があります。胆管閉塞を伴う場合、早急に対処をしないと敗血症などを引き起こし命に関わるケースもあるため注意が必要です。
リンパ球性胆管炎のように慢性的な胆管炎であっても、治療しないまま放置すると徐々に症状が進行し、肝臓の機能が低下して黄疸・下痢・嘔吐といった症状が現れます。そのほか、胆管炎によって膵炎や腸炎を併発する可能性もありますので、放置せずに必ず治療を受けましょう。

猫の胆管炎(胆管肝炎)を早期発見するポイント

猫と飼い主

胆管炎の予防法はありますか?
猫の胆管炎の効果的な予防法はありません。しかし、定期的に血液検査を受けて全身状態を確認しておくことは、胆管炎を始めとした疾患の早期発見につながるでしょう。また、普段から猫の様子をよく観察し、異変に早めに気付くことが重要です。普段と様子が違うと感じたら、すぐに動物病院を受診して検査を受けましょう。
病院を受診する目安を教えてください。
猫の胆管炎に特徴的な症状はありませんが、次のような症状が見られる場合には胆管炎などの病気が疑われます。

  • 食欲がない
  • 元気がない
  • 気持ち悪そうに口をクチャクチャしている
  • 嘔吐を繰り返す

このような症状が見られる場合には、すぐに動物病院を受診して検査を受けましょう。

編集部まとめ

獣医師

猫の胆管炎(胆管肝炎)は、胆管やその周りの肝臓に炎症が起こる病気です。

猫の肝臓・胆嚢・胆管に発生する疾患のなかで特に発生率が高い病気とされています。

無治療のまま放置すると命に関わるケースもあるため、早期発見・早期治療がとても重要です。

普段から猫の様子をよく観察し、少しでも様子がおかしいと感じたら、すぐに動物病院を受診するようにしてください。

参考文献