猫の多発性囊胞腎症ってどんな病気?症状や診断方法などを解説!

猫の多発性囊胞腎症は、発症しやすい猫がいることを知っていますか?
本記事では猫の多発性囊胞腎症について以下の点を中心にご紹介します。

  • 猫の多発性囊胞腎症とは?
  • 猫の多発性嚢胞腎症の症状とは?
  • 猫の多発性囊胞腎症の予防や治療とは?

猫の多発性囊胞腎症について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。

猫の多発性囊胞腎症について

猫の多発性嚢胞腎症とはどんな病気ですか?
多発性嚢胞腎症(PKD)は、遺伝的要因によって腎臓に多数の嚢胞が形成される疾患です。猫が成長するにつれて、嚢胞は腎臓の正常な組織を圧迫し、腎機能の低下を招きます。多くの場合、猫は7歳頃に腎不全の症状を示し始めますが、病気の進行は個体によって異なり、中には症状を示さない猫もいます。また、嚢胞は腎臓に限らず、肝臓や子宮など他の臓器にも形成されることもあります。多発性嚢胞腎症は、ペルシャ猫やその血縁種に多く見られますが、他の品種や雑種にも発生することが知られています。また、多発性嚢胞腎症は特定の遺伝子の変異によって引き起こされ、その変異を持つ親から子に50%の確率で遺伝するとされています。
猫の多発性嚢胞腎症の原因は何ですか?
猫の多発性嚢胞腎症は、遺伝子の変異が原因で発生する遺伝性の疾患です。この病気は、常染色体優性遺伝のパターンに従って遺伝します。常染色体優性遺伝とは、性染色体以外の染色体(常染色体)に存在する遺伝子が、片方の親から子に遺伝する際に、その特性が優先的に発現する遺伝の形式のことです。具体的には、PKD1という遺伝子の変異が関与しており、この変異を持つ片親から子に遺伝する確率は50%です。これは、変異型の遺伝子が優性であるため、正常型の遺伝子を抑制し、特性が発現するためです。この遺伝形式により、多発性嚢胞腎症の特性は、片親からのみ変異型遺伝子を受け継いだ場合でも発症する可能性があります。
猫の多発性嚢胞腎症の症状を教えてください。
多発性嚢胞腎症は、初期段階では症状が顕著に現れないことが多いですが、猫が成熟するにつれて、以下のような慢性腎不全に似た症状が現れ始めることがあります。
・多飲多尿
・食欲減退
・活力の低下
・嘔吐
・脱水
これらの症状は、猫が2歳から10歳の間に見られるといわれていますが、病気の進行は猫によって異なり、一部の猫では腎機能の低下が非常にゆっくり進行するため、明らかな症状が出るまで時間がかかることがあります。また、肝臓や膵臓など他の臓器にも影響を及ぼすこともあり、定期的な健康診断や超音波検査により、症状が現れる前に病気が発見されることもあります。

猫の多発性囊胞腎症の診断について

猫の多発性囊胞腎症の診断方法や検査はどういったものがありますか?
猫の多発性嚢胞腎症の診断には、いくつかの方法があります。初期段階では症状が見られないため、特定の検査を通じて病気の有無を確認する必要があります。以下は、多発性囊胞腎症を診断するために用いられる主な検査方法です。


触診:
腹部全体を含めた全身状態を評価します。

血液検査:
腎機能の指標となる血中の物質のレベルを測定します。

尿検査:
腎機能の低下や他の疾患の兆候を調べます。

超音波検査(エコー検査):
非侵襲的な方法で腎臓の嚢胞を検出します。小さな嚢胞も早期に発見できることが多く、10ヶ月齢以降は診断精度が高まります。

CT検査:
X線を使用して体の断面画像を撮影し、腎臓の詳細な構造を観察します。ただし、猫には全身麻酔が必要なため、一般的にはあまり行われません。

遺伝子検査:
PKD1遺伝子の変異を検出することで、多発性嚢胞腎症を確定診断します。この検査は、猫の年齢に関わらず行えます。また、猫が多発性嚢胞腎症を発症するリスクを評価するのに役立ち、繁殖を控えるべきかどうかの判断材料となり、繁殖計画においても重要な情報を提供します。

定期的な健康診断とこれらの検査を組み合わせることで、猫の多発性嚢胞腎症を早期に発見し、早期の治療へつながります。
超音波検査で猫の多発性囊胞腎症を確定診断できますか?
超音波検査は、猫の多発性嚢胞腎症の診断において重要な役割を果たしますが、単独での確定診断には限界があります。超音波検査は、ほとんどの動物病院で行える検査で、非侵襲的に猫へ苦痛を与えることなく腎臓の嚢胞を検出できます。生後6〜8週齢の若い段階で小さな嚢胞を見つけられ、10ヶ月齢を過ぎると診断精度は約95%に達します。
しかし、超音波検査では、特定の時点で嚢胞が見つからない場合でも、将来的に嚢胞が形成される可能性を排除できません。したがって、多発性嚢胞腎症の確定診断のためには、超音波検査と遺伝子検査を組み合わせて行うことが推奨されます。特に繁殖を検討している猫の場合、遺伝子検査を含む包括的な診断をし、多発性嚢胞腎症のリスクを持つ猫の繁殖を避けることで、この疾患の拡散を防ぎます。また、親猫やその子猫に対しても同様の検査をすることで、多発性嚢胞腎症の影響を受ける猫の数を減らすことにつながります。

猫の多発性囊胞腎症の予防と治療

猫の多発性囊胞腎症は治りますか?
現在のところ、猫の多発性嚢胞腎症を根治する治療法は存在しません。この病気は進行性であり、最終的には腎不全に似た症状が現れるため、治療は主に症状の管理と腎機能のサポートに焦点を当てます。これらの治療は、猫の生活の質を向上させ、腎機能のさらなる低下を遅らせることを目的としています。
猫の多発性囊胞腎症の治療方法はどんなものがありますか?
猫の多発性嚢胞腎症に対する治療は、現在、根本から治す方法は確立されていませんが、症状の管理と腎機能のサポートに重点を置いた以下のような治療がされています。

食餌療法:
食餌療法は、リンやタンパク質の摂取量を制限することで、腎臓への負担を軽減し、腎不全の進行を遅らせることを目的としています。

皮下輸液:
脱水状態を改善し、腎臓に蓄積される毒素の排出を促進するために行われます。重度の脱水状態では、より積極的な静脈内輸液が必要になることがあります。

リン吸着剤:
高リン血症を管理し、腎不全の進行を抑制するために使用されます。これにより、食欲不振や嘔吐などの症状も改善されることが期待されます。

カルシトリオール:
ビタミンDの不足を補い、体内のカルシウム代謝を正常化するために投与されますが、過剰投与による副作用を避けるために定期的な検査が必要です。

エリスロポエチン製剤:
腎性貧血の治療に用いられ、赤血球の数を増やすことで貧血を改善します。ただし、抗体の形成を避けるために、投与は制限されています。

制酸剤と制吐剤:
胃腸の不快感や嘔吐を緩和するために使用されます。

血圧降下剤:
高血圧を管理し、腎臓へのさらなるダメージを防ぐために処方されます。
猫の多発性囊胞腎症は予防できますか?
猫の多発性嚢胞腎症は遺伝的な疾患で、常染色体優性遺伝の特性を持つ猫は病気を発症する可能性が高くなります。そのため、多発性嚢胞腎症を持つ猫が繁殖しないように対策することが予防策となります。猫のブリーダーや飼い主は、猫の繁殖をする前に、猫の超音波検査や遺伝子検査を通じて多発性嚢胞腎症の有無を確認する責任があります。これにより、多発性嚢胞腎症の遺伝子を持つ猫が子孫に病気を伝えるリスクを減らします。また、多発性嚢胞腎症が確認された猫は、避妊や去勢手術をしましょう。そして、親猫や兄弟姉妹、子猫など、同じ血統の猫も検査を受けることで、家系全体での多発性嚢胞腎症の拡散を防げます。早期発見と適切な管理により、多発性嚢胞腎症の影響を受ける猫の数を減らしましょう。

編集部まとめ

ここまで猫の多発性囊胞腎症についてお伝えしてきました。
猫の多発性囊胞腎症の要点をまとめると以下の通りです。

  • 多発性嚢胞腎症は、遺伝的要因によって腎臓に多数の嚢胞が形成される疾患で、猫が成長するにつれて、嚢胞は腎臓の正常な組織を圧迫し、腎機能の低下を招く
  • 多発性嚢胞腎症の初期段階では、症状が現れにくいが、猫が成熟するにつれて、多飲多尿、食欲減退、活力の低下、嘔吐、脱水のような慢性腎不全に似た症状が現れ始める
  • 猫の多発性嚢胞腎症に対する根本的な治療は確立されておらず、症状の管理と腎機能のサポートに重点を置いた治療となり、多発性嚢胞腎症の予防策としてはこの病気を持った猫が繁殖しないように対策すること


これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考文献