猫がかかるパルボウイルス感染症を知っていますか?とても強い感染力を持ち、命に関わることもある危険な病気です。感染を防ぎ、愛猫の命を助けるためには、正しい知識と対策が不可欠です。
本記事では、パルボウイルス感染症の特徴や症状、診断方法、治療法、そして効果的な予防策について詳しく解説します。
猫のパルボウイルス感染症について
猫のパルボウイルス感染症は、感染すると重い症状を引き起こす病気です。重症化すると命を落とす危険性もあり、とても怖い病気です。
パルボウイルス感染症とは
猫のパルボウイルス感染症はウイルスによる病気で、汎白血球減少症(はんはっけっきゅうげんしょうしょう)とも呼ばれます。この病気は、白血球が大幅に減少してしまうのが特徴です。猫の免疫力が下がり、ほかの感染症にもかかりやすくなります。
パルボウイルス感染症は、猫の体に大きな負担をかける腸炎などの症状が現れることもあることから、猫ウイルス性腸炎とも呼ばれます。
パルボウイルスの特徴
猫がパルボウイルスに感染すると、嘔吐や下痢といった症状が突然現れます。感染が進むと、数日以内に命を落とすこともあります。
感染しても症状がほとんど出ない不顕性感染(ふけんせいかんせん)というケースもありますが、子猫が感染した場合は致死率が高く特に注意が必要です。
パルボウイルスの感染経路
パルボウイルスは、主に経口感染によって広がります。感染した猫の便や嘔吐物に含まれるウイルスが、ほかの猫の口に入ることで感染します。このウイルスはとても感染力が強く、自然環境で約1ヵ月感染力を保つことができるといわれています。
感染は直接的な接触だけでなく、感染猫が触れた物(おもちゃや毛布、食器など)を通じて起こることもあります。例えば、ウイルスがついた毛布や床に触れ、その後に体を舐めることでも感染してしまいます。潜伏期間は数日から1~2週間程度で、この間に感染が広がる恐れもあります。
猫から人やほかの動物への感染
犬にもパルボウイルスはありますが、猫とは型が異なるため、猫以外の動物や人には直接感染しません。ただし、ヒトがウイルスを媒介してしまうというリスクがあります。
例えば、感染した猫がいる場所を歩いた靴底にウイルスが付着し、ほかの場所に運んでしまうことがあります。感染猫に触れた後に手を洗わずにほかの猫をなでることで、間接的に感染させてしまう可能性もあるでしょう。多頭飼育の家庭や保護施設、繁殖施設などでは特に注意が必要です。
猫のパルボウイルス感染症の症状
猫のパルボウイルス感染症では、初期の症状から重症化した場合まで、さまざまな症状が現れます。ここでは、初期段階の症状と病気が進行した際に見られる重い症状を詳しく解説します。
初期症状や主な症状
パルボウイルス感染症の初期症状は、ほかの病気と似た症状があり見逃されがちです。一般的に、感染の初期には以下のような症状が現れます。
・高熱:突然の発熱が見られることがあります
・元気がなくなる:元気がなくなり、活動量が減って暗い様子が目立つようになります
・食欲不振:ごはんを食べなくなります
・嘔吐や下痢:嘔吐は頻繁に見られますが、下痢が必ずしも現れるとは限りません
・脱水症状:嘔吐や下痢により、体内の水分が失われます
・体重減少:食欲不振や脱水が続くことで体重が減っていきます
これらの症状は、急速に悪化する場合がほとんどです。気になる症状があれば、一刻も早く動物病院に受診しましょう。
重症化した場合の症状
感染が進むと症状はさらに深刻になります。ウイルスが体内で増殖することで、以下のような症状が見られます。
・白血球の減少と貧血
パルボウイルスが骨髄で増殖すると白血球が減少します。免疫力が低下し、感染症に対する抵抗力が弱くなります。赤血球が減ることで貧血を引き起こすことがあるでしょう。
・消化器系の障害
腸でウイルスが増殖すると、腸の粘膜が破壊され嘔吐や下痢が悪化します。さらに進行すると、腸内で出血が起こり、黒い便(消化された血液を含む下痢)や下血(血がそのまま便に混じる)などの症状が見られるようになります。
・敗血症とエンドトキシンショック
腸のバリア機能が失われると、腸内の細菌が血液中に侵入してしまいます。細菌やその毒素が全身に広がることで、複数の臓器が働かなくなる敗血症やエンドトキシンショックを引き起こし、命に関わる状態に至ることがあります。
・妊娠中の猫への影響
妊娠初期に感染した場合は流産することがあります。妊娠中期以降や生まれた直後に感染した場合、小脳(運動の調節や姿勢の維持を司る部分)が障害を受けることがあります。この影響で、子猫がうまく動けなくなる運動失調といった神経症状が現れることがあります。
猫のパルボウイルス感染症の検査
猫がパルボウイルス感染症にかかっているかを確認するためには、以下のような検査が行われます。
飼い主への問診
飼い主から猫の日常生活や体調の変化について詳しく話を聞きます。いつから症状が出ているのか、どのような症状があるのか、普段食べているものや飲んでいる薬についても尋ねられます。
混合ワクチンの接種歴は重要な情報で、最終接種日や接種回数の確認が行われます。猫が外に出ることがあるのか、多頭飼育の環境にいるのかなど、感染リスクに関連する生活環境の問診を行います。
便検査
便検査では、パルボウイルス感染症以外の病気の可能性を除外するために、便の状態を詳しく調べます。便には寄生虫やその卵が含まれていないか、腸内細菌の異常がないかを確認します。
パルボウイルスが疑われる場合は、専用の検査キットを使って便に含まれるウイルス抗原を調べることもあります。
血液検査
血液検査では、白血球の数を確認します。パルボウイルスに感染すると白血球が減少するためです。嘔吐や下痢が続いている場合は、脱水症状が進行しているかどうかも血液から判断できます。
パルボウイルスそのものを検出するための抗原検査や、猫の体がウイルスに対抗して作る抗体の有無を調べる抗体検査が行われることもあります。これらの検査結果を組み合わせることで、より正確に感染の有無が判断できます。
猫のパルボウイルス感染症の治療
猫のパルボウイルス感染症は、適切な治療を受けなければ命を落とす危険性の高い病気です。現在、このウイルスに直接効果のある治療法はなく、猫の体をサポートしながら回復を目指す支持療法が中心となります。ここでは主な治療法について説明します。
輸液療法
パルボウイルス感染症では、嘔吐や下痢が頻繁に起こり、体内の水分や電解質が大きく失われます。放置しておくと体が脱水状態となり、命の危険に直結します。そのため、輸液療法が治療の基本となります。
脱水が軽度の場合には、皮膚の下に点滴液を注入する皮下点滴を行います。重度の脱水や電解質の異常が認められる場合には、血管に直接点滴を入れる静脈点滴が必要です。
嘔吐や下痢による血便が続いて貧血が進んだり、白血球の減少が深刻な場合には、輸血が行われることもあります。猫の体内環境を安定させ回復を促します。
吐き気止めの投与
頻繁な嘔吐は脱水や電解質の異常を引き起こすだけでなく、体力を消耗させてしまいます。そのため、吐き気を抑える注射が行われます。少しでも水分や食事を摂取できる状態にすることができます。
抗菌剤の投与
パルボウイルスは腸の粘膜に大きなダメージを与え免疫力を低下させるため、細菌感染のリスクが高くなります。このような二次感染を防ぐために、抗菌剤(抗生物質)が投与されます。
可能な限りの栄養補給
嘔吐や下痢が続くと、食事を摂れなくなるため体力が急速に低下します。また、食べない状態が長く続くと腸の粘膜細胞が萎縮し腸の回復が遅れてしまいます。可能な範囲での栄養補給が重要です。
吐き気止めを使用して嘔吐を抑えながら、高栄養タイプの猫用缶詰を少量ずつ与えるようにします。初めはほんの一口でも構いませんが、猫が少しずつ食べられるようになれば、量を増やしていきます。この方法で、消化器官への負担を減らしながら必要な栄養を補うことができます。
猫のパルボウイルス感染症の予防方法
猫のパルボウイルス感染症は感染力が強い病気ですが、予防によって感染リスクを減らすことが可能です。ここでは、効果的な予防方法を詳しく説明します。
ワクチン接種をする
猫のパルボウイルス感染症の予防は、ワクチンを接種することです。猫用のコアワクチンである3種混合ワクチンには、パルボウイルス感染症を防ぐための成分が含まれています。
接種可能な月齢に達したら、できるだけ早くワクチンを受けさせるようにしましょう。定期的に追加接種を行うことで、体内の免疫力が維持できます。ただし、ワクチンが完全に感染を防ぐわけではないため、ほかの予防策も併せて実施することが大切です。
感染リスクの高い場所を避ける
自由に外を歩き回っているとパルボウイルスに接触する機会が増えます。パルボウイルスは環境に強く、汚染された土や物に触れることで感染が広がる可能性があるためです。
野良猫がウイルスを運んでいることもあり、どこで感染するか予測がつきません。室内で飼うことを徹底し外出の機会を減らすことで感染リスクを抑えることができます。
動物病院に行くときやペットホテルを利用する際には、感染予防のために必ずケージを使用し、待合室では猫を外に出さないようにしましょう。ワクチン接種がまだ済んでいない猫や接種から時間が経過している猫は感染リスクが高まるため、ほかの猫が多く集まる場所には連れて行かないようにするのが賢明です。
・新しく猫を迎えるときの注意
すでに猫を飼っている家庭で新しい猫を迎える場合も慎重に準備しましょう。ペットショップで飼われている猫でも、パルボウイルスなどの感染症を持っている可能性は否定できません。新しい猫とすぐに一緒にさせるのではなく、最初の2週間程度は別々の部屋で過ごさせることが推奨されます。
健康診断を受けて消化器症状(嘔吐や下痢)が見られないことを確認してから、徐々に同じ空間で生活させるようにします。
パルボウイルスの消毒方法
猫のパルボウイルスは強い耐性を持つため、消毒が難しいウイルスです。一般的な消毒薬では効果がなく、適切な方法で行わないと、かえって感染を広げる恐れもあります。ここでは、猫パルボウイルスに効果的な消毒薬と、消毒作業を行う際の注意点を説明します。
効果が期待できる消毒薬
猫のパルボウイルスは、アルコール消毒やアンモニア消毒、煮沸消毒ではウイルスを完全に除去することができません。そのため、以下の消毒薬を使用することが推奨されています。
・過酢酸
・二酸化塩素
・水酸化ナトリウム
・次亜塩素酸ナトリウム(6%)
・ホルムアルデヒド(4%)
・グルタルアルデヒド(1%)
・ペルオキシ一硫酸カリウム
次亜塩素酸ナトリウムは入手しやすく、家庭用漂白剤(ハイターやキッチンハイターなど)に含まれているためおすすめです。使用する際は水で希釈して適切な濃度に調整し、ウイルスにしっかりと作用するようにします。
消毒するときの注意点
消毒作業はウイルスの拡散を防ぎながら丁寧に行うことが重要です。
作業時にはビニール製の手袋や雨ガッパ、足カバー、キャップを着用して肌が露出しないように完全防備を心がけます。使用した雑巾や雨ガッパなどは使い回さず、1回の使用ごとに捨てて新しいものを用意しましょう。
感染をした猫が使っていた部屋のカーテンやカーペットなど、洗浄が難しいものは処分しましょう。処分が難しい床や壁、家具などの表面は、次亜塩素酸ナトリウムを用いて丁寧に拭き取ります。
作業後には着用していた服を消毒液に浸けてから洗濯をして、シャワーを浴びて体に付着したウイルスをしっかりと洗い流します。
手間がかかりますが、猫パルボウイルスは徹底的な感染対策が必要なウイルスです。感染を防ぐためには、この工程をしっかり行うことが大切です。
まとめ
猫のパルボウイルス感染症は、とても感染力が強く、早期に適切な治療を受けなければ命を落とす危険性が高い病気です。しかし、適切な予防策を講じることで感染リスクを大きく減らすことが可能です。
猫の健康を守るためには、日頃からの注意が何よりも重要です。愛猫との愛しい日々を維持するため、ぜひできることから始めてみましょう。