愛猫が突然、けいれんを起こしたら、びっくりして慌ててしまいますよね。突然のけいれんは、てんかんの発作かもしれません。てんかん発作は、脳になんらかの異常が起こって現れる症状のことです。本記事では、猫がてんかん発作を起こした場合、どのような対処をすればよいのかを解説します。また、てんかんの具体的な症状や治療法についても説明していますので、「うちの猫、もしかして、てんかんでは?」と不安な方は、ぜひ参考にしてみてください。
猫のてんかんの症状
てんかんとは、脳の中で強い異常な電気信号が発生し、これによってけいれんなどの発作症状を起こす疾病のことを指します。人間はもちろん、犬や猫にもみられる病気で、犬は100頭に1〜2頭の割合で罹患するといわれています。猫は犬に比べると割合が低く、200頭に1頭の割合で罹患するとされています。
てんかんの発作は、「全般発作」と「部分発作」の二種類に分けられます。
全般発作
てんかんの発作が全身に現れるものを「全般発作」といい、下記のような症状があります。
- 行動の異変
- 意識がなくなる、または朦朧とする
- 全身のけいれん
- 手足が硬直する
- パドリング(犬かきのような動作)やランニング運動をする
- 歯をカチカチとならす(咀嚼するような動作)
- 泡をふく
- 排便または排尿
これらの症状が、通常1〜3分ほど続きます。発作が起こっている間、猫は自分の意識をコントロールできない状態になります。
部分発作
「部分発作」とは、別名「焦点発作」ともいい、身体の一部のみに現れる発作のことを指します。主な症状は以下の通りです。
- よだれがダラダラと出る
- まぶたや顔のけいれん
- 頭や首、手足の異常な姿勢
- 異常行動
- 過度な発声、うなり声
これらの症状は、発作が続く時間や程度がさまざまであることから、てんかんであると認識することが難しい場合も多くあります。
猫のてんかんの原因
てんかんの原因は大きく二つに分類することができます。ひとつは、遺伝要因が関わるとされる「特発性てんかん」で、もうひとつは、脳になんらかの異常が起きたことで発症する「症候性てんかん」です。
先天性の要因
てんかんの原因はさまざまですが、脳炎や脳腫瘍などの明らかな病変が存在しないのにてんかん発作が起きる場合を「特発性てんかん」といいます(「特発性」とは、原因不明という意味です)。これは一説によると、病変が存在しないというよりも、脳の神経細胞の表面というとても小さい部分で異常が起こるために、現在の技術では原因が検出できないのではないか、ともいわれています。この「特発性てんかん」は遺伝的要素が大きいとされ、後述する後天性の要因で起こるてんかんとは区別されます。
症状はてんかん発作だけで、麻痺したり目が見えなくなったりするなどの神経症状はないとされています。
後天性の要因
先天性の「特発性てんかん」でないものは、なんらかの脳の障害が要因となっていることが多く、このようなものを「症候性てんかん」といいます。「症候性てんかん」の原因は、脳腫瘍や脳炎、外傷による脳の損傷、水頭症などの脳の病気、感染症による脳の障害などさまざまです。また、てんかん発作以外にも神経症状がある場合は、「症候性てんかん」であることが多いようです。猫の場合は、原因のはっきりしている「症候性てんかん」であるケースが多いといわれています。
猫のてんかん発作時の対処法
ここからは、猫のてんかん発作の対処法について解説していきます。てんかんの対応で大切なことは、飼い主が落ち着いて行動することです。大切なペットが突然てんかん発作を起こすと、気が動転してしまっても無理はありません。しかし、焦ってしまうとお互いに思わぬ怪我をすることもあります。対処をする前に2〜3回、自分が深呼吸をして、気持ちを落ち着けるようにしましょう。そのうえで、次に挙げる対応を取るようにしてください。
発作の兆候に気をつける
まずは、発作の兆候に気づくことが重要です。代表的なてんかん発作の症状は「白目を剥いて、手足をばたつかせ、失禁する」というものです。それ以外にも、意識はあるけれども身体に力の入らない「脱力」という症状もあります。発作は短ければ数十秒、長いと3〜4分ほど続くこともあります。発作が5分以上続くようであれば、「発作重積」と呼ばれる緊急症状の可能性がありますので、直ちに動物病院へ行くようにしてください。
また、発作が起こる数時間〜数日前に異常行動が起こることもあり、これは前駆症状と呼ばれます。前駆症状には、性格が変わったように攻撃的になったり、うろついたりといった行動がよくみられます。こうした発作の前の兆候にも気をつけて観察するようにしましょう。
刺激を与えない
てんかん発作が起きると驚いて猫を落ち着かせようと触りたくなりますが、実際に身体をさすったりしても発作が短くなることはありません。それどころか、不意に手足を噛まれる危険性もありますので、基本的には発作の最中に接触をしないようにしましょう。
また、周りに障害物などがあると発作で猫が動き回るうちに怪我をしてしまうこともありますので、できるだけ取り除いてあげるようにします。その際も刺激を与えないように注意しましょう。
発作が継続する時間を計測する
発作が始まったら、時間を測るようにしてください。スマホなどで時刻を確認し、おさまったタイミングで再度時刻を確認して、発作がどれくらい続いたかを計測します。通常の発作であれば、数十秒〜1、2分でおさまります。5分以上発作が続くようであれば、早く発作を止める必要があるため、すぐに動物病院へ行くようにしましょう。こうした判断をするためにも時間を計測することが大切なのです。
また、できればスマホなどで発作が起こっている様子を動画で録っておくことをおすすめします。これは、あとで動物病院へ行った際に、てんかんかどうかの判断をする大切な資料となります。症状がおさまってもすぐに録画を切らずに、1〜2分程度長めに録っておくと、治療のヒントになることがありますので、覚えておくとよいでしょう。
動物病院を受診する
てんかん発作があった場合は、短い発作であっても、一度は動物病院で診てもらうようにしましょう。てんかん発作とよく間違えられる症状として、ナルコレプシーやカタプレキシーなどがあり、てんかんのほかにもいきなり倒れたり、身体に力が入らなくなったりする病気があります。発作の原因を特定することは治療の第一歩ですので、病院で診断をしてもらうようにしましょう。
猫のてんかんの診断
動物病院では、てんかんかどうかを判断するためにさまざまな検査を行い、ほかの病気の可能性を除外していきます。ここでは、てんかんが疑われる際の検査について見ていきましょう。
問診
まずは、問診で飼い主から下記のような項目について聞き取りをします。
- いつ発作を起こしたか
- どのような症状だったか
- どのくらいの時間、発作が続いたのか
- 発作がおさまった後の経過
- 発作は初めてか
- 前にも発作の経験があるならば、どのくらいのペースか
- 失禁はあるか
- 交通事故や高いところから落ちたことはあるか
病院の受診時には、発作がおさまっている場合がほとんどであるため、発作の様子を撮影した動画はとても役に立ちます。もし動画があれば、受診の際に見せるようにしましょう。
血液検査
血液検査はてんかんとそのほかの病気を区別するために必要な検査です。てんかんと似たような発作が現れる病気として、低血糖や低カルシウム血症などがあります。また、腎不全や肝機能の異常がないか、なども調べます。血液検査で特に異常がみられなければ、てんかんの可能性が高くなります。
画像検査
てんかんの可能性が高まった場合、さらに病変を見つけるためには画像検査が必要になります。画像検査には下記の二種類があります。
・MRI
MRIは、強力な磁石でできた筒状の装置の中で、磁気の力を利用して体内の臓器の状態を調べる検査です。少しでも動くと正確に検査ができないため、全身麻酔が必要です。
・CT
CTは、X線を用いたコンピューター断層撮影の検査です。ドーナツ型の機械の中に入り、X線装置が身体の周囲を360度ぐるりと回転しながら連続して撮影することで、断面の画像のデータを取得し、そこから立身体画像を作成することで体の中をより詳しく調べることができます。この検査でも全身麻酔が必要です。
画像検査を行うかどうかは状況次第です。ペットの画像検査は施設が限られており、また麻酔も必要であることから、画像検査をせずに様子を見たり、てんかんの治療を始める場合もあります。
脳波検査
てんかんは脳の異常な活動が原因のため、脳波検査を行うこともあります。てんかんの原因となる異常な活動が脳内で起こっていると、波形が異常な形で出現します。ただし、異常波形はてんかん発作が起こってから時間が経つと確認できなくなることがあります。また、この検査にも全身麻酔が必要です。
猫のてんかんの治療
猫のてんかんの治療には、抗てんかん薬を用いた薬物療法が一般的です。ほかにも原因疾患の治療、定期検査とモニタリング、発作に備えた環境づくりなどが推奨されます。
抗てんかん薬の使用
てんかんの治療で一般的なのが、抗てんかん薬による薬物治療です。抗てんかん薬は、発作を制御するために有効とされています。抗てんかん薬にはいくつかの種類があり、発作の程度や薬の効き目、副作用などを総合的に見ながら、獣医師が薬の種類や投与量を判断します。投与方法は、注射、内服、坐薬などがあります。発作が持続する場合は、入院で点滴や麻酔をかけるなどの方法を行う場合もあります。特発性のてんかん発作の場合、MRIなどを使用して検査しても異常が見つからないことが多いです。その際は仮診断に沿って薬を投与し、症状が軽減されるかを確認する診断的治療を行います。
てんかんという病気そのものは、治すことができません。したがって、治療の目的は「発作を抑制し、コントロールすること」になります。治療は、2~3か月に1回以下の発作に安定させることを目標に行われます。発作を完全になくすことは非常に難しく、季節の変わり目や台風の時期などは症状が出やすいため、特に注意する必要があります。そのため、てんかんの投薬治療は、一生涯継続する必要があります。
原因疾患の治療
血液検査や画像診断、脳波検査などを経て「症候性てんかん」と診断された場合は、原因となっている疾患の治療が基本です。「症候性てんかん」の原因は、脳腫瘍や脳炎、水頭症、脳いっ血、脳血管障害などが挙げられます。例えば、脳腫瘍であれば開頭術による摘出や減圧目的の手術が必要になる場合もあります。
定期的な検査とモニタリング
前述の通り、てんかんは根本的に直せる病気ではありません。しかし、投薬などでてんかんの治療を継続すれば、発作の回数が減り、発作の時間も短くすることができます。このように、適切な治療は、生活の質の向上につながります。こうした状態を維持するためには、定期的に検査をし、動物病院でモニタリングをすることが大切です。普段から受診していれば、発作などの緊急事態でもこれまでの経緯から適切な治療につなげることが可能となります。
発作に備えた環境作り
飼い主としては、できれば発作を少しでも緩和したい、と思う方も多いでしょう。猫のてんかん発作は、多くの場合、以下のような前兆が見られます。
- やけに落ち着きがない
- 普段おとなしいのにハイテンションになる
- 意味もなく歩き回る
- ぼーっとしている
- 何も飛んでいないのに、飛んでいる虫を追いかけるような素振りを見せる
- やたらと食べる
こうした行動は、猫にてんかん発作が起きる前兆である可能性が高いため注意して観察するようにしましょう。また、てんかんは起こるサイクルがおおよそ決まっていることも多いので、てんかん発作の起こった日付を日記につけておくこともおすすめです。発作に備えた環境作りをしておくことで、飼い主の安心にもつながります。
編集部まとめ
てんかんは残念ながら治る病気ではありません。しかし、適切な治療を受ければ、てんかん発作を緩和し、生活の質を向上させることが可能です。また、飼い主自身が対処法を知ることで、いざというときにも慌てずに正しい処置をとることができます。愛猫がてんかんと診断されても悲観せずに、発作への備えや定期的な検査を心がけましょう。また、心配なことがあれば動物病院で相談をするのがおすすめです。備えあれば憂いなしといいます。飼い主として、てんかん発作の正しい知識を身につけるところから始めてみましょう。