犬ジステンパーウイルスは、古くから知られている犬の感染症です。しかしいまだに根絶されず、致死率の高い病気として恐れられています。
呼吸器系や消化器系のほか神経系への症状もあるジステンパーウイルスは、迅速な診断がされにくいために治療が遅れることも多くある病気です。
今回は、犬ジステンパーウイルスの症状や治療方法、感染経路などに関する疑問にお答えします。
犬ジステンパーウイルスの症状
- 犬ジステンパーウイルスとは何ですか?
- 犬ジステンパーウイルスとは強い伝染性のウイルスのことで、感染すると呼吸器・消化器・神経系・皮膚・目などにさまざまな症状が現れます。感染した犬は死亡する可能性が大変高くなるといわれています。
犬ジステンパーウイルスに関する研究は年々進んでいますが、まだ根絶されるには至っていません。そのため、多くの国において犬にとって恐ろしい病気の1つとされています。
- 犬ジステンパーウイルスの症状を教えてください。
- 主な症状は以下のとおりです。
- 二峰性発熱
- 下痢
- 嘔吐
- 目ヤニ
- 充血
- 咳
- 鼻水
- 食欲減退
- てんかん
- けいれん
二峰性発熱とは、熱した後に平熱に戻りしばらくして再び体温が上昇する傾向を持つ発熱のことで、犬ジステンパーウイルスの特徴的な症状です。
1回目の発熱はウイルスが体内に入ったことが要因となっており、ウイルスが血中より消えたことで熱が下がります。2回目の発熱は血液中より上皮細胞にウイルスが移動し、障害を受けた細胞がさらに細菌感染を受けることが要因だと考えられています。
潜伏期(4~7日程度)を経て、40度前後の発熱とともに見られるのは、軽い下痢や嘔吐、食欲減退などの消化器系の症状です。気管支系の症状として咳が出ることもありますが、そのあとにいったん体温が下がります。ここまでが急性期です。
それから1週間程度後に再び発熱が見られてくると、次の症状として現われるのが粘性で黄色っぽい鼻汁です。続いて気管支系・消化器系の症状のほかに目ヤニ・充血などの目の症状、発疹や肉球が異常に硬くなるなどの皮膚症状が現れます。ウイルスが脳内に侵入するとてんかんや麻痺などの神経系の症状が出ます。この時期が亜急性期です。
ジステンパーウイルス感染の注意すべき点は、二峰性の発熱や気管支系・消化器系のみの症状で治ったように見えていても、数週間から数ヵ月後、または老齢になってから再び発症する場合があることです。これを慢性期といいます。
気付かない間にジステンパーウイルスが脳のなかに入り込んでしまうため、対応が遅れることも多いです。神経系にウイルスが侵入した場合は死亡する率が大変高く、回復しても神経に障害が残る可能性も高くなります。
- 犬ジステンパーウイルスは完治しますか?
- 現在のところ、犬ジステンパーウイルスに感染した場合に完治する可能性は、大変低いとされています。特に神経系統がウイルスに侵された場合は、治癒は大変困難です。
またその他の器官への感染でも、対症療法に頼るしかないとされています。万一治癒しても何らかの後遺症が残る可能性が高く、犬にとっては大変怖い病気です。
犬ジステンパーウイルスの治療法
- 犬ジステンパーウイルスの治療法を教えてください。
- 犬ジステンパーウイルスに直接効果のある薬はまだありません。そのため、それぞれの症状に応じた処置を行うことで治癒を目指す方法が主な治療法です。
呼吸器系に症状があるときには痰を切る薬や咳を抑える薬を使用すると同時に、ペニシリンなどの抗生物質を投薬します。
消化器系に症状が出た場合の治療は、吐き気止めや下痢止めの使用です。腸内の解毒を目的とした浣腸剤や下剤の投薬を行うこともあります。
目に異常が見られたときに有効な対症療法は点眼と洗眼です。
ただ神経系に症状が現われると、けいれんを抑えるための薬や鎮静剤、催眠剤を与える程度の治療方法しかありません。軽症の場合はまれに治癒することもあります。
解毒目的と栄養を補給して全身状態を維持・回復する目的で注射薬による治療も考えられますが、これは犬の症状によって慎重に使用することが重要です。元気がない犬に無理にフードを食べさせるとかえって腸内の状態を悪化させることがありますので、注意してください。
- 犬ジステンパーウイルスに罹患したら後遺症は残りますか?
- 主な後遺症としては、てんかんのような発作やチック症状のほか、同じところをぐるぐると回る症状などがあります。
チック症状とは、無意識に体が動くことです。人間なら頻繁に瞬きをする・首を動かす・鼻を鳴らすなどの症状ですが、犬の場合はけいれんのようにぴくぴくする・よだれが大量に出る(舌のけいれんによる)・手足がバタバタと動くなどの症状が見られます。
- 犬ジステンパーウイルスは合併症を引き起こしますか?
- 8歳以上の老犬が犬ジステンパーウイルスに感染した場合、老犬性脳炎を起こす場合があります。老犬性脳炎になると、目が見えなくなる・性格が変化する・飼い主がわからなくなるなどの症状が現れます。その他の合併症として考えられるのは、
- 気管支炎
- 肺炎
- 扁桃炎
- 結膜炎
- ハードパッド病(肉球が硬くなる症状)
などです。
犬ジステンパーウイルスの感染経路・予防法
- 犬ジステンパーウイルスの感染経路を教えてください。
- ジステンパーウイルスは空気感染する病気です。ジステンパーウイルスに感染した動物との接触や排泄物への接触、くしゃみなどによる飛沫を含んだ空気を犬が吸うことで感染します。
ウイルスが気道内に入り込むとそこで増殖し、潜伏期間をおいて症状が現れます。ジステンパーウイルスはリンパ組織や血液中で増殖するため、感染した犬の鼻水・目やに・便なども感染経路となるために注意が必要です。
- 犬ジステンパーウイルスの予防法はありますか?
- 完治が難しい犬ジステンパーウイルスは、予防が大変重要です。犬ジステンパーウイルスの予防としてはワクチン接種がおすすめです。
現在一般的に行われている数種類混合ワクチンのなかにジステンパーウイルスワクチンも含まれていますので、かかりつけの動物病院で接種してもらいましょう。接種回数は子犬の場合で、生後9週くらいまでに1回目を、12~15週で2回目の接種を、獣医師によっては数週間後に3回目を接種する場合もあります。
ワクチン接種による免疫は1年程度で減退するため、1年に一度の割合で接種することをおすすめします。ワクチン接種を行うとともに、もしも愛犬がウイルスに感染したとしても発症しないだけの免疫力と体力をつけてあげることも重要です。またジステンパーウイルスは、アルコール消毒で死滅するため、飼い主の手洗いやうがいも予防方法の1つとして実行してください。
- 感染しやすい年齢や時期はありますか?
- 生後1年以内の犬が感染しやすいといわれています。特に胎盤を通して受け継いだ抗体と初乳による抗体が消えてしまう生後2週以降の子犬を中心にかかりやすいです。
ただ、妊娠中の犬がジステンパーウイルスに感染した場合、生まれてきた子犬にはジステンパーウイルスへの免疫ができることもわかっています。
- 犬以外のペットに感染することはありますか?
- 犬以外のペットでも犬ジステンパーウイルスへの感染は見られます。特にイタチ科の小動物であるフェレットはかかりやすいといわれています。その他野生において感染が認められているのは、
- キツネ
- アライグマ
- イタチ
- ミンク
- スカンク
- タヌキ
- ハクビシン
- アナグマ
- イノシシ
- サル
などです。国内でも和歌山県・高知県・滋賀県・山口県などでジステンパーウイルス感染により死亡したと思われる動物が発見されています。また滋賀県では飼い主がハクビシンを保護し、飼い犬がハクビシンと濃厚接触したことで犬ジステンパーウイルスに感染した例もあります。
愛犬がジステンパーウイルスに感染しないためにも、野生動物にはむやみに近づかないようにしてください。
編集部まとめ
今回は、犬ジステンパーウイルスの症状・治療法・感染経路・予防法について解説しました。
犬ジステンパーウイルスは感染してしまうと、完治しても重大な後遺症が残るリスクの高い大変怖い病気であるうえに、下痢・嘔吐・鼻水・咳・結膜炎・衰弱など、風邪のような症状が多いため見逃す可能性もあります。
大きな特徴としては期間をおいた2度の発熱ですが、犬の発熱は見た目ではわかりにくいことが多いため、すぐ発見できるとは限りません。
ペットショップや保護施設から来たばかりの子や、感染リスクのある動物と接触した子は特に注意して観察し、少しでも異常があると感じたときにはできるだけ早く受診してください。
犬ジステンパーウイルスは伝染する病気ですので、受診する前には必ず獣医師に感染症の可能性を伝えるようにしてください。
大変怖い犬ジステンパーウイルスですが、ワクチン接種により予防ができることもわかっています。愛犬に辛い思いをさせないためにも、定期的なワクチン接種を受けて犬ジステンパーウイルス感染を予防してください。
参考文献