犬の子宮水腫|症状・治療法・子宮内膜症との違いも解説

犬の子宮水腫|症状・治療法・子宮内膜症との違いも解説

犬の子宮水腫(しきゅうすいしゅ)という病気をご存知でしょうか。子宮水腫は子宮内に何らかの原因によって粘り気のある体液が溜まって膨れ上がる病気です。

愛犬もメスだからもしかして子宮水腫を発症してしまうかもと感じたり、すでに子宮水腫の疑いがあるけどどのような病気なの?と感じる飼い主さんも少なくないでしょう。

本記事では、犬の子宮水腫の症状・治療法・子宮内膜症との違いについて解説していきます。誤解されがちな子宮水腫・子宮蓄膿症・子宮内膜症も本記事でご理解いただけるはずです。

愛犬が発症していないか不安を感じている方は、ぜひ参考にしてみてください。

犬の子宮水腫の原因・症状

医師と犬

子宮水腫とはどのような病気ですか?
子宮水腫とは、子宮の分泌液がどんどん子宮内に溜まってしまい、大きく膨れ上がる病気です。
子宮粘液症(しきゅうねんえきしょう)と呼ばれることもあります。避妊手術を行なっていない6歳以上の犬から発症率が高くなるため注意が必要です。
よく子宮水腫と子宮蓄膿症(しきゅうちくのうしょう)の違いが、いまいちピンときていない方がいらっしゃいます。
子宮蓄膿症は子宮水腫を発症した状態で、細菌感染を伴った際に発展する病気です。そのため、子宮腔に溜まった粘液に細菌が加わり、粘液が膿へと変化することで子宮内細菌感染症になります。
子宮蓄膿症を発症するほとんどの原因は、大腸菌であることが判明していますが、未知数なところも否定できない病気です。
子宮水腫は子宮蓄膿症に発展する前段階であるため、子宮蓄膿症と比べて症状が現れにくい傾向にあります。子宮水腫はお腹に水が溜まっている状態で、子宮蓄膿症はお腹に溜まった水に細菌感染を起こしている状態です。
どちらもお腹が張っている場合には、発症の疑いがあるため注意しましょう。
子宮水腫の原因は何ですか?
子宮水腫が発症する原因は、ホルモンの変化や発情期と関係しているといわれています。しかし、子宮水腫とホルモンや発情期の詳しい関係性はいまだ謎に包まれたままです。
また、子宮内に溜まる液体成分もまだはっきりしていないのが現状といえます。発症原因は不明な点も多々ありますが、予防対策は明確にわかっているので後述していきましょう。
子宮水腫の症状を教えてください。
子宮水腫の症状は子宮蓄膿症と類似しています。具体的には以下のとおりです。
  • 発熱
  • 嘔吐
  • 外陰部からの分泌物
  • 外陰部からの悪臭
  • 月経後の出血
  • 過剰なおりものの排泄
  • 多飲多尿
  • 元気消失
  • 食欲不振
  • 腹囲膨満

これまで子宮水腫を発症して受診した飼い主さんのなかでも、「元気がなくなってご飯を食べなくなった」「チョロチョロとお股から液体状のおりものが出ていて、水ばかり飲むようになった」と話す人は少なくないといわれています。
つまり、1つの症状が現れるというよりも複数の症状が同時期にみられる傾向にあるのです。
実際に飼い主さんの情報から犬を触診してみると、腹囲膨満になっていたため、子宮水腫が発覚するといった流れが大半でしょう。上記の症状がいくつかみられる場合には、獣医師に相談することをおすすめします。

子宮水腫にかかりやすい犬種や年齢はありますか?
先述しているとおり、避妊手術をしていない6歳以上の中高齢の犬から子宮水腫の発症リスクが高まります。なお、かかりやすい犬種については公表されていません。しかし、小型犬・中型犬・大型犬に関わらず、6歳以降に子宮水腫を発症した犬のデータは公開されています。
そのことからも犬種問わず、年齢と避妊の有無が重要だとわかります。特に出産経験がない未避妊のシニア犬で発情期後1〜3ヵ月後に子宮水腫を発症しているようです。
6歳以上で発情期後のメス犬は、なるべく様子をみるようにしましょう。

犬の子宮水腫における検査方法・治療法

診察 犬

犬の子宮水腫を判断する検査方法は何でしょうか?
どの病気であってもそうですが、まずは問診と触診です。
子宮水腫の場合は顕著に腹囲膨満の症状がみられます。子宮水腫の疑いがある場合には、以下の検査方法が用いられるでしょう。
  • 血液検査
  • レントゲン検査
  • 超音波検査
  • CT検査

主にレントゲン検査では膨れ上がった子宮のシルエットを確認し、腹部超音波検査では子宮内に溜まった液体を確認できます。

犬の子宮水腫の治療法を教えてください。
子宮水腫も子宮蓄膿症の場合も、卵巣と子宮の摘出手術が一般的です。犬の状況によっては内科療法を適用する場合もあります。ですが、子宮水腫から子宮蓄膿症へ変化した場合、治療が遅れてしまうとほとんどの場合は死に至る病気です。
そういった取り返しのつかない状態を避けるためにも、卵巣と子宮の摘出手術は第一選択肢となる可能性が高いといえるでしょう。
子宮水腫は自然に治ることはありますか?
現状では自然治癒の報告はありません。むしろ、子宮水腫を放置してしまえば高確率で死に至る病との認識が高まっている状況です。
愛犬の健康状態に悪影響を及ぼす前に、治療することをおすすめします。治療方法としては摘出手術となる可能性が高いため、その後の繁殖を望むことはできません。
子宮水腫や子宮蓄膿症の疑いが出た時点で、飼い主さんもある程度の覚悟が必要になるといえるでしょう。
術後はどのくらいで抜糸できますか?
摘出手術による抜糸は、一般的に約2週間後になります。ただし、愛犬の傷口の状況に応じて抜糸までの期間は前後することに留意しましょう。
予後が良好で抜糸までスムーズだったとしても経過観察は必要です。術後から抜糸までの2週間と、抜糸から獣医師に予後が良好だと判断してもらうまでは安静にさせてあげることが重要です。

犬の子宮水腫における子宮内膜症との違い・予防

医師2人

子宮内膜症との違いについて教えてください。
犬の子宮内膜炎(しきゅうないまくしょう)は、子宮の内部を覆っている子宮内膜に炎症が発生した状態です。子宮内膜症が発症しやすいのは発情期になります。
通常、発情が止まっている時期の子宮は、子宮口がぴったりくっついた状態で子宮頸管を閉ざしています。しかし、発情前期から発情期にかけては、オスを受け入れやすくするために子宮頸管を部分的に開放するのです。
子宮頸管を開くことで、精子が通りやすくなります。この子宮頸管を開いた際に膣内にいた病原菌が子宮内膜で繁殖し、炎症を引き起こした状態が子宮内膜症です。
子宮水腫は子宮内に液体が溜まり、子宮内膜症は内膜に炎症が起こるものなので、まったくの別ものであると認識しておきましょう。
犬の子宮水腫は予防が可能ですか?
子宮水腫を予防する唯一の方法は避妊手術です。症状が悪化すると死に至ってしまうような将来の病気を防げる手段のため、できる限りは積極的に避妊手術を受けましょう。
手術は可哀想だと感じてしまう飼い主さんも少なくありません。ですが、愛犬の将来の苦しみを避けることも愛情だととらえてみてはいかがでしょうか。避妊手術については獣医師に相談することをおすすめします。
治療費用の相場を教えてください。
子宮水腫による卵巣と子宮の摘出手術は約3万〜6万円が相場になります。診察料金や経過観察などの治療料金を見積るならば、ざっと10万円程かかるとみておくとよいでしょう。
もちろん治療費用は、犬の大きさや病気の進行具合によって異なります。動物病院によっても多少金額に差があるため、飼い主さんが通いやすい動物病院を探してみたり、獣医師に相談することをおすすめします。
飼い主さんにも愛犬にとっても、無理のない範囲で早期発見・早期治療・病気の予防対策に努めることが大切です。

編集部まとめ

散歩 

今回は、犬の子宮水腫の症状・治療法・子宮内膜症との違いについて解説していきました。

子宮水腫はまだまだ研究段階の病気であるといえます。発症原因や摘出手術以外の治療方法は確立されていませんが、症状を放置すると子宮蓄膿症から死に至る程危険性のある病気です。

6歳以上の中高齢で発情期前後のメス犬は、子宮水腫や子宮蓄膿症の発症リスクが高まるため注意しましょう。

もし、子宮水腫の症状がいくつかみられる場合には、すみやかに動物病院で受診してください。早期発見・早期治療に努めることが何よりも大切です。

唯一の予防方法は避妊手術なので、妊娠を望んでいないのであれば積極的に検討してみてください。

何か1つでも参考になれれば幸いです。

参考文献