犬はお散歩や興奮したときにハアハアと呼吸が早くなります。これは、人間も運動をしたり興奮状態になったりすると息づかいが荒くなるのと同じです。
しかし、人間にも動悸がするといった症状がみられるように、犬にもお散歩や興奮状態以外で呼吸が早くなることがあります。
言葉が通じないからこそ、大切な家族の一員である犬の健康状態にもいち早く気づいてあげたいものです。
今回は犬の動悸ともいえる症状をいち早く発見するために必要となる、犬の呼吸が早くなる原因・正常な呼吸回数・病院へ受診する際の目安について詳しく解説していきます。
犬の呼吸が早い
そもそも「犬の呼吸が早い」状態はいつ判断するのでしょうか。それは、犬が寝ているときやじっとしているときなどの安静な状態である時に判断します。
犬は人間と違い、全身に汗をかくことができません。そのため、唾液の気化熱を利用して体温を下げています。
さらに犬の呼吸は自律神経によっても調節されており、なんらかの原因で自律神経が乱れると呼吸数も変化するのです。
自律神経は交感神経と副交感神経からなる精神と肉体に大きな影響を及ぼす中枢神経です。自律神経がなんらかの原因で、交感神経が優位になると呼吸数が増えます。
逆に副交感神経が優位に働くと呼吸数が少なくなります。犬の呼吸数は健康状態を知るための重要なバロメーターの一つであるといえるでしょう。
犬の呼吸が早い場合には、なんらかの病気を発症しているサインである可能性が考えられます。
犬の呼吸が早くなる原因は?
犬の呼吸が早いかどうかを確認するタイミングをお伝えしました。次は犬の呼吸が早くなる原因について詳しくみていきましょう。
普段からみられる行動や病気が疑われるものまで、8つに分けてお伝えします。ぜひ参考にしてみてください。
運動
お散歩や遊びなどの運動後には呼吸が早くなりますが、これは人間と同じ生理的現象です。犬は唾液の気化熱によって体温調節する動物のため、呼吸の変化が人間よりも早くなります。
運動の際には必ず呼吸が早くなりますが、正常な状態であるため心配はありません。
ストレス
犬も人間と同じようにストレスによって、自律神経が乱れることがあります。生活環境が急激に変わることなどがよくみられるストレスの原因です。
- 飼い主と離れることによる不安(分離不安)
- 飼い主とのコミュニケーション不足
- 運動不足
- ドッグフードが合わない
上記以外にも犬は共感性が高いため、飼い主が感じているストレスが犬にも伝わることが近年の研究で明らかとなっています。
研究結果からは人間の乳児が泣き声をあげると、その声を聞いた犬のストレスホルモンであるコルチゾールが上昇し、行動に変化が現れることが報告されているのです。
犬もそれぞれ個性があるため、ストレスへの適応力は異なります。犬の行動をよく観察し、ストレスの元となるものをなるべく少なくしてあげたいものです。
どこかに痛みがある
犬も人間と同じように「痛み」を感じます。痛みは体のどこかに問題や病気があることを自分に知らせるための大切な信号です。
しかし犬は言葉が通じないだけではなく、本能的に痛みを感じていても隠そうとします。そのため、早く痛みに気付いてあげないと知らず知らずのうちに病気が悪化してしまうのです。
痛みを隠すことに不安を感じた人も多いのではないでしょうか。しかし、その痛みに気づけるサインがあるので安心してください。
- お散歩に行きたがらない
- 行動がゆっくりになる
- 階段など段差の上り下りを嫌がる
- 家でも外でも動かなくなる
- つらそうに立ち上がる
- 他の犬やおもちゃと遊ばない
- 元気がなくなる
- 尻尾が下がることが多い
- 足を引きずったり跳ねるように歩いたりする(跛行)
- 寝ている時間が短くなったり長くなったりする
上記のような症状が1つでも当てはまる場合には、病院への受診をおすすめします。
病院へ受診した際にはどのような症状がいつからなのか伝えられるよう、日頃から犬の様子をチェックするようにしてください。
誤飲
犬の誤飲による事故は、残念ですが多くみられています。飼い主の不注意によるものが多いため、誤飲の予防対策をしっかり見直すようにしましょう。
- チョコレート
- ヒモ類
- ネギ類
- タバコ
- 果物や梅干しの種
- 石や砂
- 靴下やタオル
- 人の医薬品
- 観賞用のユリの花
上記の中でも特に観賞用のユリの花は、チョコレートやネギ類と同じ中毒性のある物として認識している人が非常に少ないものになります。
中毒性がある物以外でも、誤飲は最悪の場合で死に至るものです。食事を取る場所には犬が入れないようにするなど、対策が必要になります。
ほかにも、小さい物や犬が口にしてほしくないものをこまめに片づけたり、届かないところに保管したりしましょう。
体温調節
運動でも先述していますが、犬は体温調節を唾液の気化熱で行っています。そのため、暑い時期になると犬の呼吸が比較的早くなる傾向が高いといえるでしょう。
犬の種類によって多少異なりますが、一般的に犬が快適に過ごすことができる温度は21~25℃、湿度は50〜60%くらいだといわれています。
呼吸が早くなる回数が増えてきた場合には、エアコンや除湿器などを利用して室温や湿度を一定に保つよう心がけてみてください。
熱中症
人間より体温が高い犬は熱中症になりやすい動物であるといえます。犬の体温は平均38℃ですが、40℃を超えると熱中症の危険性があるため注意が必要です。
犬は体温が高くなると呼吸が早くなるだけでなく、口を大きく開けてハアハアと荒い息を出すようになります。これはパンティングといわれ、急いで体温調整を行っているような状況です。
熱中症になりやすい犬の特徴は以下になります。
- 気道が狭い短頭種(パグ・ブルドッグ・フレンチブルドッグなど)
- 毛が密集している北方犬種(日本犬・シベリアンハスキーなど)
- 小型犬や足が短い犬種(チワワ・ミニチュアダックスなど)
- 肥満
- 幼若・高齢
- 疾患を持っている
もしパンティングがみられた場合には、すぐに水を飲ませて涼しい場所で休ませるように心がけてください。
人間と同様に、首・脇・内股などの大きい血管を冷やすのも効果的です。パンティングが落ち着いてたり、目や口など粘膜の赤みが引いてくるまで続けましょう。
鼻や呼吸器などの病気
犬にも急性と慢性の呼吸器の病気があります。犬の呼吸が早くなるだけでなく、いびきや呼吸の音が変わった時は注意が必要です。
特に「ガーガー」とガチョウが鳴くような呼吸音や、「ヒューヒュー」というようなかすれ声のような音が呼吸に生じた場合にはすぐさま病院へ受診してください。
子犬によくみられる鼻や呼吸器などの病気としては、ケンネルコフが挙げられます。いわゆる犬の風邪といわれており、さまざまなウイルスや細菌が原因で起こります。
乾いた咳で、夜になると咳が出やすくなるのが特徴です。鼻水や食欲不振などの症状がみられることもありますが、重度の場合は肺炎を起こすこともあるので注意しましょう。
心臓や肺などの病気
犬の心臓や肺などの病気で有名なのが、フィラリアではないでしょうか。ほかにも、急性誤嚥性肺炎など人間と同じ病気が犬にも発症する場合があります。
肺炎の多くは感染性のもので、症状は気管支炎や鼻炎のときよりも重くなる傾向にあります。さらに重症化すると早期に死に至ることがあり、早期発見と早期治療が求められるため注意が必要です。
心臓によるものでは心不全によって心臓がうまく動くことができなくなった結果、肺の中に水が溜まってしまう肺水腫という病気もよくみられます。
犬の様子に違和感を覚えたら、まずは病院へ受診しましょう。
犬の呼吸が早くなった場合の対処法
環境を整えてあげることが第一優先となります。犬の過ごしやすい温度と湿度に保つだけでなく、犬のストレスが軽減される生活リズムを確保しましょう。
生活リズムがしっかり作られると、犬の不調も判断しやすくなります。たとえば、犬の過ごしやすい温度と湿度を保っているにも関わらず、呼吸が早くなれば病気の可能性がみえてきます。
このように考えられる選択肢を極力減らしておくと、病院の受診に迅速な対応ができるでしょう。
暑い時期のお散歩の際は、犬用のクールネックをつけたり冷たい水や保冷剤を準備しておいたりするのがおすすめです。急激な変化にも対処できる準備を心がけましょう。
獣医師に診せたほうがよい目安は?
言葉が通じない・犬は症状を隠す傾向にあるからこそ、迅速な対応が求められます。いくつか先述しているものもありますが、病院に受診する目安をもう少し詳しくみていきましょう。
運動していないのに呼吸が荒い場合
まず運動していないのに呼吸が荒い場合には、4つの可能性が考えられます。
- 熱中症
- 痛みがある
- 急性の病気
- 慢性の病気
熱中症の場合には体温・温度・湿度をチェックしましょう。痛みがある場合には、犬の行動の変化に注視してください。
熱中症でも痛みがあるような感じでもない場合には、急性の病気の可能性が高いため病院へ受診しましょう。
判断基準を知っておくことで、行動を起こしやすくなります。
呼吸音がおかしい場合
呼吸が早いだけでなく、呼吸音に「ガーガー」「ヒューヒュー」という音が混ざっている場合には鼻や呼吸器などの病気を発症していることが考えられます。
急性誤嚥性肺炎を引き起こしている可能性もあるため、すぐさま病院へ受診しましょう。いつごろから呼吸音が変わったのか、それまでの行動を記録しておいてください。
舌の色が紫になっている場合
体の中の酸素量が極端に少なくなってしまうと、舌の色が青紫色になるチアノーゼを引き起こしている可能性があります。チアノーゼは、正常時はピンク色である歯茎や舌などが青紫色に変色する現象です。
チアノーゼは命に関わる状態に発展してしまう可能性が高いため、早急に治療を開始する必要があります。犬の呼吸が早いなと感じたら、まずは口の中の粘膜や舌の色をチェックしましょう。
上を向いて苦しそうに呼吸をしている場合
犬は呼吸が苦しくなると、おすわりをして首を伸ばした状態(犬座姿勢)をとります。自ら伏せることができない場合は、呼吸がしにくくなっている緊急性の病気の可能性が高いです。
苦しそうにしていると横向きに寝かせてあげる人が多くいます。しかし、その行動はさらに犬を苦しめてしまうため注意しましょう。
横向きに寝かせてしまうと肺が圧迫されて、呼吸が苦しくなってしまいます。おすわりをして首を伸ばした状態が呼吸のしやすい楽な体勢です。
もし犬座姿勢を取っていた場合は、倒れないよう体の横やあごの下にクッションやタオルを丸めて、体を支えてあげるように置いてあげましょう。
体を支えた状態で、すぐさま病院へ受診するようにしてください。
普段より明らかに呼吸数が多い場合
呼吸音や見た目に問題がなくとも、普段よりも呼吸が早いなと感じた場合にも病院へ受診しましょう。ここで大切になるのは、普段の呼吸数を把握しておくことです。
いち早く異常事態に対応するためにも、犬の普段の呼吸数を把握しておくことは非常に重要になります。
犬の正常な呼吸回数はどのくらい?
犬の正常な1分間の呼吸数は、小型・中型犬で20〜30回ほどです。大型犬では、15回ほどであるといわれています。夏の時期は呼吸数が多少上がる傾向にあるため、覚えておきましょう。
個体差があるため、まずは寝ている時や落ち着いているときの呼吸数を把握しておきましょう。ほかにも、普段から犬の様子をよく観察して異変に気づけるようにしておくことが大切です。
犬の呼吸数の測り方
まずは犬が寝ているときやじっとしているときなどの安静な状態の時に呼吸数を測定してみましょう。呼吸数を測るときは、1分間で胸が上下する回数を測ります。
胸の上下運動で1回の呼吸とカウントします。15秒間カウントしてその間にお腹が何回膨らむかを数えてください。
15秒で胸の上下運動した数を4倍にしたものが1分間の呼吸数になります。呼吸数には個体差があり、暑い時期などは呼吸数が異なるため季節ごとに呼吸数を把握しておくのがおすすめです。
簡単に呼吸数を測ることができるので、ぜひ試してみてください。
まとめ
今回は犬の呼吸が早くなる原因・正常な呼吸数・病院へ受診する際の目安について、詳しくお伝えしていきました。
犬は唾液の気化熱で体温調整しているため、呼吸が早くなるといった姿は日常的にみられる姿であるといえます。しかし、その呼吸にはさまざまなサインが含まれていると認識しておいてください。
言葉が通じないからこそ、私たち人間が犬の健康状態にいち早く気づいて対処してあげたいものです。
簡単に呼吸数を測れるので、ぜひ試してみてください。普段のコミュニケーションに犬の健康管理も兼ねてみてはいかがでしょうか。
ちょっとした気づかいで助けられる命があるということを認識して、対処方法や注意点などを踏まえて本記事がお役に立ってもらえれば幸いです。
参考文献