犬の認知症はどのような症状が出る?治療法や対策は?

犬 認知症

犬が認知症になると、飼い主や友達の犬が分からなくなったり、夜中に吠えたり、トイレの失敗が増えたりするなど、さまざまな行動の変化が見られます。犬の認知症を治療する方法はあるのでしょうか。

本記事では犬の認知症犬について以下の点を中心にご紹介します。

  • 犬と認知症
  • 犬の認知症の症状について
  • 犬の認知症にはどのような治療があるの?

犬の認知症について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。

ぜひ最後までお読みください。

犬と認知症

認知症は人間だけでなく、犬もなる可能性があります。
ここでは、犬が認知症を発症する時期と、認知症になりやすい犬種や原因について解説していきます。

犬が認知症を発症する時期

犬の認知症は、10歳頃から徐々に始まり、13歳を過ぎると急速に増加する傾向にあります。大型犬は8歳頃、小型犬は10歳頃になると、症状が出始めるようです。そのため、7歳頃には認知症の予防と対策が必要と考えられています。
いつもと違う変わった様子はないか、日々観察してあげることが重要です。

認知症になりやすい犬種

犬種による認知症の発症率の差は明確でないものの、日本では認知症と診断される犬種は日本犬が多いといわれています。
日本系の雑種では51%、柴犬では29%、その他の日本犬系では83%とのデータがあり、これらの数値は日本犬種全体で見ると高い傾向にあります。

主な認知症になりやすい日本犬種には、柴犬、秋田犬、紀州犬、甲斐犬、北海道犬、および日本犬とのミックスが挙げられます。なかでも柴犬は、特に認知症になりやすいとされています。
日本犬が認知症になりやすい背景には、日本犬が長い間、魚を中心とした食生活をしてきたことが関係しているのではないかといわれています。魚に豊富なオメガ3脂肪酸、特にEPAやDHAの必要量が日本犬では他犬種と比べて高いため、肉中心のドッグフードではこれら栄養素が不足しやすく、認知症を引き起こしやすくなると考えられています。

日本犬以外の犬種でも認知症は見られ、シーズー、ヨークシャーテリア、トイプードルなどが該当しますが、日本犬ほどの高い発症率や症状の強さは見られません。
一方、パグやチワワ、ラブラドール・レトリーバーなどの外国犬種では認知症の発症が少ない傾向にあります。

ペットとして犬を飼う際には、種による健康リスクを理解し、適切なケアが大切です。

犬が認知症になる原因

犬の認知症発症には、いくつかの要因が関与しているとされています。
主な原因の一つとして、「アミロイドβ」というタンパク質の神経細胞への蓄積が挙げられます。これは人間のアルツハイマー病と同様の現象であり、犬における認知症の発症メカニズムとして重要視されています。
アミロイドβの沈着は神経細胞や血管に影響を及ぼし、ミエリンと呼ばれる神経繊維の一部が障害されることが症状の引き金になると考えられています。

さらに、酸化ストレスが引き起こす「活性酸素」や「フリーラジカル」による神経細胞へのダメージも、認知症の症状を悪化させる要因といわれています。しかし、犬の認知症の詳細な原因はまだ完全には解明されていません。
加えて、脳梗塞や脳出血、栄養障害、老化による神経細胞や自律神経の機能障害も、認知症の発症に影響を与えるとされています。
これらの複合的な要因により、特に高齢の犬に認知症の症状が現れることがあります。

犬の認知症の症状

犬 下痢

犬が認知症になると、行動にさまざまな変化が見られます。
具体的にどのような症状があるのか、以下で見ていきましょう。

見当識障害

犬の認知症では、「見当識障害」の症状が現れます。
見当識障害は、犬が時間や場所に対する感覚を失い、「今がいつなのか」や「自分がどこにいるのか」を把握できなくなる状態を指します。具体的には、馴染みのある人間や他の動物を認識できなくなる、狭い場所に入り込む、障害物を避けられない、こぼしたフードを見つけられないなどの行動が見られます。

症状が進行すると、飼い主を認識できなくなったり、壁の前で立ちすくんだり、直角の角を曲がれなくなったりなどの行動に変化します。これらの症状は犬の行動パターンに深刻な影響を及ぼし、怪我をするリスクが増えることもあります。
また、犬自身も不安を感じ、活動量が減少し、同じ場所をぐるぐると歩き回る行動が見られることもあります。

飼い主にとっては、これまで当たり前だった行動ができなくなる犬の変化に戸惑いが生じることもあるかも知れません。
粗相が増え、失敗しているように見える行動も、実は認知症の症状の一環である可能性があるため、老齢の犬には特に注意が必要です。

性格の変化

犬が認知症になると、人間や他の動物に対する反応が変化することがあります。
例えば、飼い主の帰宅時に迎えなくなる、撫でられたり褒められたりしても無反応になる、共に暮らす子どもや他のペットに対して攻撃的に振る舞う、等が挙げられます。
これらの変化は初期には単なる反応の鈍さとして現れますが、進行すると飼い主に対しても無関心になることがあります。「以前はこんな態度をとらなかった」「最近怒りっぽくなった」と感じる飼い主は多いようです。

犬が認知症を患う一因は、無気力や無関心になり、周囲の変化に気付きにくくなることです。感情のコントロールが難しくなることや、自身の変化に対する不安から攻撃性を示すこともあります。
老犬にこれらの変化が見られた場合は、不安や恐怖を感じさせない接し方を心掛けることが大切です。

睡眠障害

犬の認知症は睡眠に影響を及ぼし、昼夜逆転の状態になることもあります。
犬の認知症による睡眠障害は、昼間の睡眠時間が増え、夜間に起きている時間が長くなる傾向にあります。
初期段階では「昼も夜も寝ていることが多いな」と感じる程度のようですが、症状が進行すると昼間は殆ど眠り、夜中から明け方にかけて覚醒し、騒動を起こすことがあります。
このような症状がある場合、日中に適度な遊びやトレーニングをしたり、散歩に連れて行くなどして、犬の心身に刺激を与えることが役立ちます。
日中に活動を促すことで、夜は疲労感から眠れるようサポートしてあげましょう。

不適切な排泄

犬の認知症に伴う症状の一つに、不適切な排泄行動が見られることがあります。これは、トイレの場所を忘れたり、排泄のコントロールが難しくなったりする現象を指します。
初期段階では粗相が増え、失禁の問題が出てくることがあります。進行すると、寝たきりによる垂れ流しの状態に至ることもあります。

老犬全般に起こる排泄の問題は、年齢とともに排泄をコントロールする括約筋の働きの低下が一因とされています。しかし、認知症の犬は排泄の感覚やトイレの場所を理解できなくなることが特徴的です。脳への信号が届かず、場所を見失ったりすることがあります。

飼い主は犬がトイレの失敗をしても怒らず、理解とサポートをしてあげることが大切です。犬も自身の状態に戸惑っていたり、粗相をしたことに気づかなかったりすることもあります。
おむつを活用するなど、認知症の進行度と生活環境に合わせた対策が必要です。愛情と理解をもって、犬の快適な生活をサポートしましょう。

犬の認知症にはどのような治療があるの?

犬 外耳炎

犬の認知症の治療は「行動治療」「食事療法」「薬物療法」の3つの手法があり、症状の軽減を目的として行われます。
以下で詳しい治療法について解説していきます。

行動治療

犬の認知症に対する行動治療は、カウンセリングや環境整備、飼い主自身による犬との関わり方の変革が中心です。
具体的には以下の点に注意しましょう。

【環境の調整】
認知症の犬は壁に頭をぶつけたり、狭い場所に閉じ込められたりすることがあります。リビングにサークルを設置したり、ビニールプールやウレタンマットを使用してケガを予防しましょう。

【昼夜リズムの調製】
昼夜逆転を避けるために、昼間に刺激を与えて活動させ、夜は十分な休息を確保しましょう。夜間の騒音が近所迷惑になる場合は、ご近所とコミュニケーションを取り、理解を得ることも大切です。

【不必要な叱責を避ける】
症状に対して叱ることは避け、犬にストレスをかけないようにしましょう。
認知症の犬は行動がコントロールできなくなっているため、理解と忍耐が必要です。

【家具やトイレの位置を変更しない】
犬の物の場所認識能力が低下しているため、家具やトイレの位置を変更せず、安定感のある環境を提供しましょう。

【適度な刺激を与える】
散歩や適度な遊びは認知症の犬にとって脳への刺激となり、症状の進行を遅らせるのに役立ちます。

【飼い主自身のケア】
認知症の犬の介護は飼い主にとっても負担がかかることがあります。家族や医師の支援を受け、ケアの負担を分散させましょう。

【獣医師との相談】
夜鳴きなどの問題行動が続く場合は、かかりつけの獣医師と相談し、適切な治療法や薬物療法の検討を行いましょう。

【刺激の提供】
犬の認知症は刺激を与えることが大切です。適度な運動や遊び、触れ合いの時間を増やすようにしましょう。

認知症の犬との生活には理解と忍耐が必要ですが、適切な治療と環境の調整により、症状の緩和につながります。

食事療法

犬の認知症において、食事療法は対策の一つとなります。以下は食事療法に関する重要なポイントです。

【DHA・EPAの強化】
DHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)は、認知症の犬に必要な栄養素です。これらの成分が含まれたドッグフードや、魚油などから取り入れましょう。
ただし、DHA・EPAは酸化しやすいため、新鮮な食材を選び、過度に加熱しないように注意が必要です。

【抗酸化物質の補給】
抗酸化物質は、認知症における酸化ダメージの軽減に役立ちます。
ビタミンC、ビタミンE、セレニウム、ポリフェノール(アントシアニン、アスタキサンチンなど)は抗酸化物質の代表例です。これらの成分は認知症予防に役立つとされています。

【ミトコンドリア補因子の配合】
ミトコンドリアは細胞内の小器官で、酸化障害の軽減に役立ちます。
L-カルニチンとα-リポ酸はミトコンドリアの機能をサポートし、認知症対策に役立つ成分とされています。

【その他の食事対策】
認知症の犬に合わせて食事を調整することも大切です。体重管理、塩分制限、消化の良い食材の選択など、シニア犬の特性に合わせた栄養バランスを考慮しましょう。
また、日本犬(特に柴犬)が認知症になりやすいというデータもありますが、これはまだ仮説の段階で確定的なものではありません。ただし、日本犬に合った食事を選択し、オメガ3脂肪酸を摂取することで、認知症の予防に寄与する可能性が考えられます。
総じて、犬の認知症における食事療法は、認知症の症状の進行を遅らせ、犬の健康と幸福度を向上させる効果が期待できます。
必要であれば、獣医師や動物栄養士と相談して適切な食事プランを立てましょう。

薬物療法

犬の認知症治療は、薬物療法に加え、環境の改善、食事療法、サプリメントの組み合わせによる総合的なアプローチが推奨されています。

犬の認知症における薬物療法は、完全な治療法というよりは、症状の緩和を目的としています。
現在のところ、犬の認知症・痴呆を根本から治す薬は存在しません。
アメリカでは、パーキンソン病の治療薬が犬の認知症治療に用いられることがありますが、覚せい剤の原料となるため、日本ではその使用が難しいとされています。
しかし、ヒトの認知症治療薬であるドネペジル塩酸塩が、犬の認知障害の改善に効果が見られたという報告もあります。

動物病院では、DHAやEPA、ARAなどの不飽和脂肪酸をサプリメントとして処方されることがあります。
また、抗うつ薬や精神安定薬、睡眠薬などを処方してもらうことで、夜鳴きや昼夜逆転などの症状の緩和が期待できます。

それでも、抗精神病薬、抗不安薬、鎮静剤、麻酔薬などの使用は、認知機能の低下や他の副作用を引き起こす可能性があるため、慎重に使用する必要があります。

犬の認知症に対するこれらの治療法は、愛犬の状態や特性に応じて、獣医師の指導のもと適切に行うことが重要です。

犬の認知症対策はある?

犬 鼻 乾燥

犬の認知症を予防するのは難しいものの、認知症の発症を遅らせたり、症状の進行を抑えたりできます。
以下で、犬の認知症対策について解説していきます。

【豊かな刺激を与える】
日常生活に刺激を取り入れましょう。知育玩具やパズルを提供して、犬の頭を使わせる遊びを行うことで、脳の活性化に寄与します。
また、定期的な短い散歩や新しい場所へのお出かけも刺激となります。

【質の良い栄養】
DHAやEPA、ビタミンEなどが認知症予防に寄与する可能性があります。
ただし、獣医師のアドバイスを受けながら摂取することが大切です。

【愛情とコミュニケーション】
愛犬とのコミュニケーションを大切にしましょう。
声をかけ、愛情を示すことでストレスを軽減させ、心地よい刺激を与えてあげましょう。

【生活の質を保つ】
定期的な獣医の診察や健康チェックを受けることが重要です。
病気や不調の早期発見は、適切な治療やケアにつながります。

【認知症の早期発見】
認知症の兆候に気付いたら、早めに獣医師に相談しましょう。
犬の認知症を判断するための指標として「DISHAA認知症チェック項目」というものがあります。この項目は、見当識の問題、社会性の変化、睡眠パターンの乱れ、失敗行動や記憶力の衰え、活動レベルの変動、不安の増大の六つのカテゴリーに分けられており、認知症を評価します。
簡単にセルフチェックを行えるウェブサイトなどもありますので、8歳を越えた頃に一度試してみるとよいでしょう。早期の介入や治療が症状の進行を遅らせる助けになります。

何よりも大切なのは、愛犬との愛情深い関係を築き、認知症の症状が現れた場合には適切なサポートを提供することです。
認知症は治すことは難しい疾患ですが、愛情と獣医師によって、症状の軽減や管理ができます。愛犬との幸せな老後を一緒に過ごすために、日々のケアと愛情を大切にしましょう。

認知症の疑いがある時は病院へ

犬 痩せた

「年を取って認知症になるのは当然だ、仕方がない」という考えでは、認知症だけでなく、その他の健康問題も見逃す可能性があります。以下のような症状がある場合は注意を払い、病院へ連れて行くことが大切です。

  • トイレの失敗:
    認知症以外の疾患によってもトイレの失敗が起こることがあります。膀胱炎、糖尿病、クッシング症候群、前立腺肥大、ホルモン疾患などが原因となります。
    足腰の問題も考慮に入れましょう。
  • 夜鳴きや徘徊:
    脳腫瘍や神経疾患によって不安感やせん妄症状が現れ、夜鳴きや徘徊が起こることがあります。これらの症状も認知症と混同されることがあります。
  • 老化に伴う感覚の変化:
    加齢によって耳が遠くなり、視覚や聴覚が鈍ることがあります。これにより、反応が鈍くなったり、不安感が増したりすることがあります。

愛犬が認知症疑いの症状を示す場合、最初に全身の検査を受けて特定の病気の症状かどうかを確認し、必要ならば他の疾患を除外するための検査を行います。
愛犬の健康を守るために、病院への診察は躊躇せずに連れて行きましょう。

まとめ

ここまで犬の認知症についてお伝えしてきました。犬の認知症の要点をまとめると以下の通りです。

  • 犬の認知症は10歳頃から徐々に始まり、特に13歳を過ぎると急速に増加する傾向にある
  • 犬の認知症は、時間や場所に対する感覚を失ったり、飼い主に無関心になったり、不適切な排泄行動に出たりする
  • 犬の認知症に対する治療は、症状の緩和を目的とし、「行動治療」「食事療法」「薬物療法」を組み合わせて行われる

これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考文献