猫が急に甘えてくるようになると、飼い主さんとしてはうれしい反面、「何か体調に問題でもあるのでは?」と心配になることもあります。普段よりも猫が膝の上に乗ってきたり、夜中にスリスリと体を擦りつけたりするような変化には、環境や気持ちの変化から健康上のサインまでさまざまな理由が考えられます。本記事では、猫が急に甘えん坊になる理由や、その背後に隠れた心理や病気の可能性、さらに動物病院に連れて行くべきケースと日常ケアのポイントを解説します。
猫が急に甘えるようになる理由

今まであまり甘えてこなかった猫が急に甘えてくる場合、さまざまな原因が考えられます。本章では、猫が急に甘える理由を3つに分けて、それぞれの理由を解説します。
性格や環境の変化による一時的な甘え
猫は繊細な動物で、環境の変化や日常の些細な出来事に影響を受けやすい生き物です。引っ越しや模様替え、新しい家族やペットが増えたなど生活環境の変化があった場合、猫は不安を感じて急に飼い主さんに甘えてくることがあります。これはストレスを和らげ安心感を得るために飼い主さんにくっついていたい心理状態といえます。また、飼い主さんと過ごす時間が急に増えたり、逆に減ったりした場合も、猫の要求や甘え方が変わることがあります。
こうした場合、基本的には猫の一時的な気分や要求による甘えなので、大きく心配する必要はありません。猫が退屈して甘えているなら遊びに誘ってあげたり、逆に環境変化で不安そうなら静かに撫でて落ち着かせてあげたりするとよいでしょう。ただし、甘える行動が続くようであれば、後述するストレスや病気のサインも念頭に置いて観察することが大切です。
飼い主への信頼や安心感が強まったケース
猫は信頼する相手に対しては愛情表現として甘える行動を見せます。元来マイペースな猫でも、飼い主との関係性が深まるにつれて、「この人は安全で大好きな存在だ」と感じると急に寄ってきたり、喉をゴロゴロ鳴らして甘えたりすることがあります。
例えば、今までは一定の距離感を保っていた猫が急に膝に乗ってくるようになったり、後をついて回るようになったりした場合、それは飼い主さんへの信頼の証かもしれません。飼い主さんのそばに常にいたがるような一緒に過ごす時間を求める仕草は、「もっと一緒にいたい」「構ってほしい」といった愛情表現とも考えられます。
こうした場合は、できる範囲で応えてあげて、撫でたり声をかけたりしてコミュニケーションを取ることで、さらに信頼関係が深まるでしょう。ただし、猫の甘えにも個体差があり、タイミングや程度は猫の気分次第です。無理に構いすぎず、猫が甘えてきたら受け止め、離れていったらそっとしておくといった具合に、猫のペースを尊重することが大切です。
加齢や体調の変化による行動の変化
猫も年齢を重ねるにつれ、行動パターンや性格に変化が現れることがあります。若い頃はクールだった猫が高齢になると甘えん坊になることもあります。また、高齢猫は変形性関節症などによって、関節の痛みや思うように体が動かなくなる不安から、以前よりも飼い主さんに頼りたがる気持ちが強くなる猫もいるでしょう。
また、加齢に伴う認知機能の低下の初期症状として、急に甘えん坊になる場合もあります。高齢になって認知機能が衰えると、不安感から飼い主さんへの依存が強まり、結果として急に甘えて離れなくなることがあります。
このように年齢や体調の変化によって猫が甘えてくる頻度や態度が変わることは十分あります。「年をとった愛猫が最近甘えてくる」と感じたら、体に痛みがないか、ストレスを感じていないかなど、注意深く観察してあげましょう。不安を和らげるため、今まで以上に優しく声をかけたり撫でてあげたりするとともに、必要に応じて痛みのケアなど獣医師に相談することも検討してください。
発情期による行動の変化
未避妊・未去勢の猫の場合、発情期のホルモン変化によって一時的に甘えん坊になることがあります。発情期の猫は落ち着きがなく、鳴き声が大きくなるだけでなく、飼い主さんに対しても寄ってくることがあります。
これはホルモンバランスによる一時的な行動変化で、発情期が過ぎればもとの落ち着いた状態に戻るケースがほとんどです。
発情期による甘えは生理現象とはいえ、飼い主さんにとっては戸惑うこともあります。発情期中の猫はスキンシップで落ち着かせたり、安全な室内環境で遊んで気を紛らわせてあげたりしましょう。また、今後の健康管理や問題行動の予防のために、適切な時期に避妊や去勢手術を検討することも大切です。避妊や去勢によってホルモン由来の気質が和らぎ、結果的に猫の性格が穏やかになることもあります。
猫が急に甘えるのは病気の可能性がある?

急な甘えん坊ぶりがみられたとき、病気や体調不良のサインである可能性も無視できません。単なる発情期や気分の問題であれば心配はいりませんが、普段と違う執着ぶりであったり、鳴き方や行動に異常がみられたりする場合には何らかのサインが隠れている可能性があります。この章では、猫の急に甘える行動と関係が深い代表的な病気について解説します。
甲状腺機能亢進症の可能性
甲状腺機能亢進症は、高齢の猫に多い内分泌疾患で、甲状腺ホルモンの過剰分泌により代謝が異常に活発になる病気です。主な症状は食欲旺盛なのに体重減少、落ち着きがなくなる、嘔吐や下痢、多飲多尿、心拍数や呼吸数の増加など多岐にわたります。そのなかに甘えがひどくなるという行動変化も含まれることがあります。
甲状腺機能亢進症の猫は代謝が上がって常にそわそわと活動的になるため、飼い主さんから見ると落ち着きがなく、やたらまとわりついてくるように映る場合があります。これらは年齢的に甲状腺の病気を疑うサインかもしれません。
参照:『甲状腺機能亢進症』(一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム)
糖尿病の可能性
糖尿病は、インスリンの作用不足により血糖値が慢性的に高くなる疾患です。
症状として多飲多尿、食欲の変化、体重減少や元気消失などが見られることが多い一方で、体調不良から性格の変化が見られることもあります。
糖尿病に罹患した猫が甘えやすくなるとは限りませんが、いつもと違うご様子や多飲多尿、食欲の変化などの症状がないか観察してみるとよいでしょう。
認知症の可能性
猫の認知症も注目されるようになってきました。高齢猫で深夜に大声で鳴き続けたり、部屋の隅で排泄してしまったりする症状が出ることがありますが、こうしたなかに急に甘えん坊になるという行動変化も含まれることがあります。
認知症の猫は見当識障害や不安感から、飼い主さんの後をついて回ったり、少しでも姿が見えなくなると鳴いて呼んだりするようになります。夜間に徘徊して落ち着きがなくなる反面、昼間はやたら膝の上に乗って離れなくなるといったメリハリのない甘え方を示す場合、認知機能の低下が進んでいる可能性があります。
痛みや不調を訴えている可能性
猫は本来、痛みや体調不良を感じたとき静かに身を潜めてやり過ごそうとする動物です。しかし場合によっては、飼い主さんに助けを求めるように甘えてくることもあります。例えば、普段あまり膝に乗らない猫が急に膝の上で丸くなりたがる、擦り寄りながらいつもと違う声で鳴く、という場合は痛みや不調を訴えかけているのかもしれません。
動物病院に連れて行った方がよいケース

では、具体的にどのような場合に、甘えてくるから病院へ行くべきサインと判断すればよいのでしょうか。猫が急に甘えてくる状況下で、以下のような健康面での異変が同時にみられる場合は、念のため早めに動物病院に連れて行くことを検討しましょう。
体調不良を併発している
急な甘えに加えて明らかな体調不良の症状がみられる場合は、迷わず病院へ向かってください。例えば以下のような症状が当てはまります。
- 食欲不振・水を飲まない
- 嘔吐・下痢がある
- 排尿・排便の異常:トイレの回数や量が極端に多い/少ない、排泄時に痛がる、血尿が出ているなど
- 発熱や痛みの兆候:触ると嫌がる部分がある、呼吸が荒い、ぐったりしているなど
こうした症状は甘え行動と同時に見逃してはいけないサインです。猫が甘えてきて離れないからといって安心せず、体の調子をチェックしてください。
元気がない
猫の活動量や反応が明らかに低下している場合も気を配りましょう。普段は遊びに誘えばじゃれてくる子が、急に甘えてばかりで遊びにも乗ってこず、ぼんやりしているようなときは体調不良の可能性もあります。
たとえ体を擦り寄せてきても、目に生気がない、動作が緩慢、寝てばかりいるといった場合は要注意です。特に、高齢猫であれば、多少の元気の無さは年のせいと片付けず、痛みや不調の可能性を考えましょう。慢性腎臓病や心疾患などでもだるさや無気力が現れ、それを不安に思って甘えてくることがあります。
元気消失が見られる場合も、ほかの症状の有無を確認し、早めに獣医師に相談することが賢明です。電話で状況を伝えて受診した方がよいか指示を仰ぐのもよいでしょう。
食事や排泄の様子が普段と異なる
食欲や飲水量、排泄の様子は猫の健康状態を知るためには重要な指標です。甘え行動と併せて、これらに普段と違う点がないかチェックしましょう。
| 観察項目 | 注意すべき異変・サイン |
|---|---|
| 食欲 | ・急に甘えてくるのにご飯を食べない ・異常に食べたがる、食欲が増えすぎている |
| 飲水 | ・水入れに執着して何度も飲む ・まったく水を飲まなくなる。 |
| 排尿 | ・トイレの砂の濡れ方がいつもより多い/少ない ・トイレ以外の場所で排尿してしまう |
| 排便 | ・下痢や便秘が続く ・血便が出る ・排便時に鳴く、苦しそうにする。 |
| 嘔吐 | ・毛玉(ヘアボール)以外の嘔吐が増える ・頻繁に吐くようになった |
これらの変化がみられるときは、体調不良や病気のサインである可能性があります。特に複数の項目が当てはまる場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
日常でできるケアのポイント

猫が急に甘えてくる理由や対処法を理解したところで、最後に日常生活で飼い主さんができるケアのポイントを押さえておきましょう。普段からの心がけ次第で、猫の異変を早期に発見できたり、病気やストレスの予防につなげたりすることができます。
スキンシップで異変を早期発見する
日頃から猫と適度なスキンシップを取ることは、健康チェックの機会にもなります。撫でたりブラッシングしたりしながら、猫の体にしこりや傷がないか、痩せすぎていないか太りすぎていないか、触れて嫌がる箇所はないかなどをさりげなく確認しましょう。こうした触れ合いによって、被毛や皮膚の状態の変化、体重の増減、痛がる部位などちょっとした異変を早期に察知できることがあります。
特に、一見元気そうでも実は病気が進行しているケースもある猫において、飼い主さんの触診で早めに気付ければ大事に至らずに済むこともあります。猫もスキンシップ自体は基本的にうれしいものですので、コミュニケーションも兼ねて毎日数分間のスキンシップを習慣にするのもよいでしょう。
生活リズムや食事、温度など環境を整える
猫が安心して過ごせる生活環境づくりも、甘えん坊な行動の安定化や健康維持に役立ちます。具体的には、以下のポイントに気を配りましょう。
| 項目 | 内容・ポイント |
|---|---|
| 生活リズム | ・ご飯、遊び、睡眠の時間が極端に不規則だとストレスになるため規則正しい生活リズムを保つ ・留守が多い場合は給餌タイマーや自動遊具を活用してルーティンを維持する |
| 食事管理 | ・栄養バランスの取れた良質なフードを適量与える ・肥満や栄養不足に注意し、食事が体調や甘え方に影響することもある ・多頭飼育では一匹ずつ落ち着いて食べられる環境を確保し、奪い合いによるストレスを防ぐ |
| 温度・快適さ | ・冷暖房の効かせすぎに注意し、猫が自分で快適な場所を選べる環境を整える ・猫ベッドやブランケットを用意し、精神的安定と夜鳴き・過剰な甘えの緩和を図る |
| 安全な居場所 | ・高所のキャットタワーや静かにこもれる寝床を設置 ・不安なときに隠れて落ち着ける場所があることで安心感を得られる |
このように猫にとってストレスの少ない環境を整えることは、甘え行動が健全な範囲に収まり、病気のリスクも下げることにつながります。環境の変化が避けられない場合は、事前になるべく慣らす工夫をし、猫の様子に注意を払いましょう。
定期健診で病気の早期発見と早期治療を心がける
どれだけ注意して観察していても、飼い主さんだけでは気付けない病気の兆候があります。そのため、少なくとも1年に一度は動物病院で健康診断を受け、血液検査や尿検査、画像検査などで隠れた異常がないか確認することが大切です。
特にシニア期に入った猫は病気のリスクが高まるため、検査頻度を増やすのも有効です。定期健診で早期発見・早期治療ができれば、「体調が悪くて甘えてくる」といった状態を未然に防ぐことができます。
若い猫でも油断は禁物で、元気にみえても定期的なチェックを習慣化しましょう。獣医師から日常ケアのアドバイスを受けられる機会にもなります。
まとめ

猫が急に甘えてくる理由について、性格的・環境的な要因から病気のサインまで幅広くみてきました。単なる甘えん坊であれば、思う存分可愛がってあげればよいですが、明らかに普段と違う様子やほかの体調変化を伴う場合は注意が必要です。
飼い主さんとして大切なのは、愛猫の普段の行動パターンや健康状態を把握し、「いつもと違う」と感じたときに適切に対処することです。猫は言葉を話せませんが、その仕草や態度には何らかのメッセージが込められています。急に甘えてきたとき、それが愛情表現なのか、不安や不調のサインなのかを見極めるには日頃の信頼関係と観察が重要です。
普段からスキンシップや定期健診を通じて健康チェックを怠らず、異変を感じたら早めに動物病院で相談しましょう。必要なケアと対応を心がけて、猫との健やかな毎日を送ってください。
参考文献
