動物病院で遺伝子検査を勧められたものの、どのような病気や体質がわかるのか、受ける必要性に迷う飼い主さんもいるのではないでしょうか。
本記事では、遺伝子検査の特徴や受けるタイミング、わかること・わからないこと、メリットや注意点を解説します。
検査結果を正しく理解し、愛犬や愛猫の健康管理や今後の治療に役立てるための参考にしてみてはいかがでしょうか。
動物病院で行う遺伝子検査の特徴

動物病院で行う遺伝子検査はペットから採取した検体に含まれるDNAを解析する検査です。特定の遺伝子変異の有無を確認し、遺伝性疾患との関連や体質を調べます。
検査で用いられるのは血液や口腔粘膜などの検体です。目的に応じた方法で解析され、検査対象や結果の意味は、検査項目によって異なります。ここでは、検査の基本的な仕組みと検体の採取方法を解説します。
DNAを調べて病気のリスクや体質を確認する
遺伝子検査では、DNAのうち、病気や体質に関係する特定の部分を調べます。DNAは体をつくり、働かせるための情報を持ち、その一部が遺伝子です。検査ではPCR法などを用いて対象部分を増やし、基準となる配列と比べて遺伝子変異の有無を確認します。
検査結果は、発症リスクや保因状況を考える材料です。例えば、犬では特定のAPC遺伝子変異を調べ、遺伝性消化管ポリポーシスの診断に用いる検査があります。ただし、検査の目的や対象となる遺伝子は疾患ごとに異なるでしょう。結果は症状や犬種・猫種、画像検査、病理検査などと合わせて、獣医師が総合的に判断します。
血液や口腔粘膜などの検体を用いる
遺伝子検査には、DNAを含む細胞を採取できる検体を使います。代表的なのは血液と口腔粘膜です。血液は採血して全血を検体とし、口腔粘膜は綿棒や専用ブラシで頬の内側や歯茎をこすり、細胞を採取します。研究では、全血や唾液をカードに塗布し、PCR法で遺伝子型を調べる方法も用いられています。
採取方法は検査機関や検査項目によって異なり、組織を使う場合もあるでしょう。口腔粘膜は採血をせずに採取できますが、食べ物やほかの動物の細胞が混じると、検査に適さない可能性があります。検査前の飲食制限や採取手順は、動物病院の案内にしたがってください。
ペットに遺伝子検査を受けさせるタイミング

遺伝子検査は、症状や家族歴から遺伝性疾患が疑われる場合や、繁殖を検討しているときに行う検査です。特定の犬種・猫種にみられる症状がある場合や、近親に同じ病気の個体がいる場合に、診断を補う検査として提案されます。実施時期は年齢だけで決めず、診察やほかの検査結果も踏まえて検討することが大切でしょう。
繁殖を予定している場合は、交配前に原因となる遺伝子変異の有無を調べます。病気を発症していない個体でも変異を持っている可能性があり、検査結果は次の世代へ受け継がれる可能性を考える材料になります。そのため、繁殖前の確認も検査を検討するタイミングの1つです。検査対象となる病気は犬種や猫種によって異なるため、適切な実施時期や検査項目については獣医師に相談してください。
動物病院の遺伝子検査でわかること

動物病院の遺伝子検査では、対象となる遺伝子を調べ、ペットが持つ遺伝的な特徴や特定の病気との関係を確認します。
検査によって、遺伝子変異の有無や保因状況、遺伝性疾患の発症に関わる型などを確認することが可能です。ただし、確認できる内容は検査項目や犬種・猫種によって異なります。結果は診察やほかの検査と組み合わせて、獣医師が判断します。
体質や遺伝的な特徴
遺伝子検査では、検査対象となる遺伝子について、ペットがどのような型を持っているかを確認できます。遺伝子は両親から受け継ぐため、検査によっては変異を持たない個体、変異を1つ持つ保因個体、発症に関わる型を持つ個体を区別できます。
保因個体とは、病気を発症していなくても、原因となる遺伝子変異を次の世代へ伝える可能性がある個体です。ただし、遺伝の仕方には顕性遺伝や潜性遺伝などがあり、変異を1つ持つ場合の影響は病気ごとに異なります。検査結果から性格や日常の体調までわかるわけではなく、検査対象となる遺伝的特徴に限られた情報だと理解しておきましょう。
遺伝性疾患のリスク

原因となる遺伝子変異が特定されている疾患では、検査によって遺伝性疾患との関連を調べられます。症状が現れる前に変異が見つかる場合もあり、今後の診察や健康管理を検討する材料になります。
例えば、ジャックラッセルテリアの遺伝性消化管ポリポーシスは、APC遺伝子の変異が原因となる顕性遺伝性疾患です。対象となる変異を調べることで、診断や繁殖計画に役立てられる場合があります。一方、遺伝形式や変異が体へ及ぼす影響は疾患によって異なります。検査結果だけで判断せず、症状や家族歴、画像検査、病理検査などを踏まえた獣医師の総合的な評価が必要です。
犬種や猫種ごとに発症しやすい疾患
遺伝子検査では、犬種や猫種との関連が報告されている遺伝性疾患を調べられる場合があります。同じ犬種・猫種の間で繁殖が重ねられると、特定の遺伝子変異が集団内に受け継がれることがあるからです。
これまでに、柴犬のGM1ガングリオシドーシスや、ボーダーコリーの神経セロイドリポフスチン症などに対する遺伝子型検査が開発されています。猫では、日本猫のGM1ガングリオシドーシスや、チンチラなどでみられる多発性嚢胞腎が検査対象となる例です。
犬種や猫種は検査項目を選ぶ手がかりになりますが、該当する種類のすべての個体が発症するわけではありません。血縁関係や症状も伝え、必要な検査を獣医師と相談してください。
動物病院の遺伝子検査でわからないこと

遺伝子検査で確認できるのは、検査対象となった遺伝子や疾患に関する情報です。病気の発症時期を特定したり、生活環境が関係する病気まで調べたりできるわけではありません。検査でわかる範囲には限界があるため、結果だけで健康状態を判断せず、診察や血液検査、画像検査などと組み合わせて評価します。
すべての病気の発症時期
遺伝子変異の有無がわかっても、病気を何歳で発症するかまでは通常判断できません。遺伝子検査は、特定の疾患に関係する変異を調べるものであり、発症する時期を特定する検査ではないからです。発症には遺伝子だけでなく、年齢や体の状態、生活環境など、さまざまな要因が関係する場合があります。
遺伝性消化管ポリポーシスのように、若齢で発症する例が報告されている疾患もあります。ただし、検査結果だけで個々のペットの発症年齢や経過を予測できるとは限りません。変異が見つかった場合も、食欲や元気、体重、排泄などの変化を日頃から確認しましょう。そのうえで、獣医師と相談しながら、ペットの状態に応じた診察や検査を受けることが大切です。
環境や生活習慣による病気

遺伝子検査だけでは、食事や運動、生活環境などが関係する病気を判断できません。病気には遺伝性のものだけでなく、感染や外傷、加齢など、遺伝子以外の要因が関係するものもあるためです。
同じ臓器に似た症状が現れていても、遺伝性疾患と非遺伝性の病気では、原因や必要な対応が異なる場合があります。そのため、遺伝子検査の結果が陰性でも、現在みられる症状を自己判断で様子見することは避けましょう。食欲や元気、排泄などに変化がある場合は、動物病院で状態を確認してもらう必要があります。
検査対象外の病気
遺伝子検査では、検査項目に含まれていない病気や遺伝子変異を確認できません。検査は、原因となる変異が明らかになり、検出方法が確立している疾患を中心に行われます。
犬や猫では、特定の犬種・猫種や疾患に対応した遺伝子型検査が開発されていますが、すべての遺伝性疾患を網羅するものではありません。検査項目が陰性でも、ほかの遺伝子変異や別の病気まで否定できるとは限らない点に注意が必要です。検査を受ける前に、対象となる疾患や変異、結果から判断できる範囲を獣医師に確認しましょう。
動物病院で遺伝子検査を受けるメリット

遺伝子検査のメリットは、検査結果を今後の健康管理や診療に活用できることです。特定の遺伝子変異を把握できれば、注意したい症状や必要な検査について、獣医師と相談しやすいでしょう。また、検査の種類によっては、診断や治療方針を検討する材料にもなります。ただし、検査だけで病気の予防や治療ができるわけではありません。
病気の予防や健康管理に役立てられる
遺伝子検査で特定の疾患に関わる変異が確認された場合、注意したい体調の変化や今後の検査について、獣医師と相談できます。結果をもとに診察の頻度や確認する項目を検討することは、継続的な健康管理につながるでしょう。
また、遺伝性疾患の原因となる変異を調べることは、次の世代への遺伝を考えた繁殖計画にも活用されています。実際に、遺伝子型検査と繁殖指導を組み合わせ、犬の集団内で原因となる変異の頻度を低下させた報告があります。ただし、検査結果だけを理由に食事や生活、投薬を変更せず、必要な対応は獣医師と相談しましょう。
治療方針を検討する材料になる
遺伝子検査は、病気の原因や特徴を詳しく調べ、治療方針を考える際の材料となる検査です。例えば、遺伝性消化管ポリポーシスでは、原因となるAPC遺伝子変異の確認が、非遺伝性の消化管腫瘍との区別や診断に役立ちます。病気の性質を把握することで、状態に応じた治療の検討につながるでしょう。
また、腫瘍組織を対象とする遺伝子検査では、薬が効く可能性を判断するために利用されることもあります。ただし、遺伝子検査だけで診断や治療方法が決まるとは限りません。症状や全身状態、病理検査、画像検査などの結果を組み合わせ、獣医師が総合的に判断します。
動物病院で遺伝子検査を受ける際の注意点

遺伝子検査を受ける際は、結果から判断できる範囲を事前に確認することが大切です。結果の意味は、対象となる疾患や遺伝形式、検査の目的によって異なります。陽性や陰性という結果だけで病気の有無を判断せず、ほかの検査結果と合わせた評価が必要です。また、検査後も体調を継続して確認しましょう。
検査結果で病気の発症が確定するとはいえない
遺伝子変異が見つかっても、発症しているか、将来必ず発症するかを遺伝子検査だけで判断できません。検査によっては、病気の原因となる変異を持つ保因個体を示す場合もあるでしょう。結果の意味は、遺伝形式や変異と発症との関係によって異なります。
一方で、特定の遺伝性疾患では、原因となる変異の確認が診断に重要な役割を持つこともあるでしょう。また、リンパ球クローナリティ検査のように、遺伝子を調べても単独では確定診断にならない検査もあります。結果票だけで判断せず、症状や家族歴、病理検査などを踏まえた獣医師の総合的な判断を受けましょう。
対象となる病気や動物の種類が限られる場合がある

遺伝子検査で調べられるのは、原因となる変異や検査方法が明らかになっている疾患です。獣医療における遺伝子検査は対象項目が限られており、すべての犬や猫、病気に対応しているわけではありません。
例えば、柴犬のGM1ガングリオシドーシスや、ボーダーコリーの神経セロイドリポフスチン症など、特定の犬種・猫種と疾患を対象とした検査が開発されています。ただし、同じ犬種・猫種でも、すべての個体に同じ検査が必要とは限りません。受検前に対象となる疾患と遺伝子変異を確認し、ペットに適した検査か獣医師へ相談してください。
検査後も定期的な診察や健康管理が必要になる
遺伝子検査を受けた後も、動物病院での診察や日常の健康管理を続ける必要があります。検査でわかるのは対象となる遺伝子の情報であり、その時点の臓器の状態や、検査対象外の病気まで確認できるわけではないからです。
変異が見つかった場合は、注意したい症状や今後必要となる検査について獣医師と相談しましょう。陰性だった場合も、すべての病気の可能性がなくなるわけではありません。食欲や元気、体重、排泄などを日頃から観察し、定期的な診察と必要な検査を受けることが大切です。気になる変化がある場合は、次の定期診察を待たずに動物病院へ相談してください。
まとめ

動物病院で行う遺伝子検査では、DNAを調べることで、特定の遺伝性疾患に関わる変異や体質の特徴を確認できます。結果は、今後の健康管理や診察内容、治療方針を検討する材料です。検査項目や使用する検体は、疑われる病気や犬種・猫種によって異なります。遺伝性疾患が疑われる場合や繁殖を予定している場合は、検査の目的と対象項目に加え、結果から何が判断できるのかも獣医師に確認しましょう。
ただし、遺伝子検査だけですべての病気や発症時期がわかるわけではありません。陽性でも必ず発症するとは限らず、陰性でも検査対象外の病気まで否定できない場合があります。結果を自己判断で受け止めず、症状やほかの検査結果と合わせて評価することが大切です。検査結果をもとに、注意したい症状や今後受ける検査について相談しておくと、日常の変化にも気付きやすくなります。検査後も定期的な診察と健康管理を続け、気になる変化があれば動物病院へ相談してください。
