猫の乳腺腫瘍とは?症状や治療方法や予防方法などを解説

猫の乳腺腫瘍とは?症状や治療方法や予防方法などを解説

猫の乳腺腫瘍は高齢の雌猫に多く見られる腫瘍性疾患で、約8割が悪性とされています。初期には無症状で気付きにくく、放置すると肺やリンパ節などに転移し、命に関わる危険もあります。日頃のスキンシップや健康チェックで異変に気付き、早期に対処することが大切です。本記事では、乳腺腫瘍の症状、治療方法、予防策について詳しく解説します。

猫の乳腺腫瘍とは

猫の乳腺腫瘍とは

猫の乳腺腫瘍は見落とされやすい病気のひとつです。ここでは、基礎知識として腫瘍の特徴や発生しやすい猫の傾向について解説します。

猫の乳腺腫瘍とはどのような病気ですか?
猫の乳腺腫瘍とは、乳腺にできる腫瘍性疾患のことで、特に中高齢の未避妊の雌猫に多く見られます。乳腺のいずれの部位にも発生しうるうえ、複数同時にできる場合もあります。触るとしこりとして感じられることが多く、約8割が悪性腫瘍である点が大きな特徴です。肺やリンパ節などに転移しやすく進行も早いため、早期発見と迅速な治療が重要です。避妊手術にはリスク低下の予防効果があるとされています。
どのような猫がかかりやすい病気ですか?
乳腺腫瘍は主に中高齢の雌猫に多く見られます。特に避妊手術を受けていない猫や、初回の発情後に避妊した猫はリスクが高くなる傾向があります。発症の平均年齢は約10~12歳で、シャム系やその交雑種では発症率が高いとされています。ホルモンの影響が強く関与しているため、初回発情前の避妊手術が極めて効果的な予防策となり、発症リスクを大きく下げるとされています。年齢や繁殖歴に応じた予防が重要です。
良性と悪性の違いを教えてください
乳腺腫瘍には良性と悪性があり、良性腫瘍は成長が緩やかで周囲の組織に浸潤しにくく、転移のリスクも低いとされています。一方、悪性腫瘍は急速に増殖し、周囲の組織へ浸潤したり、肺やリンパ節などへの転移を起こしやすいのが特徴です。猫の乳腺腫瘍では約8割が悪性であるとされ、特に中高齢で未避妊の猫ではその傾向が強まります。細胞診により良悪性を見極め、適切な治療方針を立てることが重要です。
乳腺腫瘍は、根治を目指せる病気ですか?
乳腺腫瘍の治療では、腫瘍を外科的に切除することが基本です。良性の場合は手術で完治が期待できますが、悪性腫瘍の場合はすでにほかの臓器に転移している可能性があり、手術のみで根治が難しいケースも少なくありません。ただし、早期に発見して広範囲に切除(片側乳腺切除、可能ならば両側乳腺切除)することで、再発や転移のリスクを大幅に抑えることが可能です。進行度によっては、術後に抗がん剤や緩和ケアを併用して、QOL(生活の質)を維持しながら治療を進めることも選択肢となります。

乳腺腫瘍で見られる症状

猫の乳腺腫瘍では、初期には目立った変化がなく見逃されやすい症状も多く見られます。次に、実際に現れる代表的な症状について詳しく見ていきましょう。

乳腺腫瘍ができた場合、どのような症状がでますか?
乳腺腫瘍では、お腹の乳腺部位にしこりや腫れができるのが一般的な症状です。触ると硬いしこりや腫瘍状の隆起として感じられ、進行すると赤み、潰瘍、出血、膿が出ることもあります。乳腺は左右に4対8個あるため、複数の部位に同時に腫瘍ができることも珍しくありません。また、痛みや元気の消失、歩行困難、食欲低下といった全身症状を伴う場合もあります。日頃からのスキンシップによる早期発見がとても重要です。
初期の段階で気付く方法はありますか?
乳腺腫瘍は初期段階では痛みや目立った症状が出にくいため、飼い主さんの手による日常的なスキンシップが早期発見の鍵となります。乳腺腫瘍は腫瘍の直径が2cm以下で発見できるかどうかが、その後の余命に大きく影響します。リンパ節への転移がなくても腫瘍の直径が2cm以上になると、余命が短くなります。

お腹をなでた際に小さな硬いしこりや左右非対称な膨らみ、熱感などがないか注意深く確認しましょう。特に高齢の雌猫や避妊していない猫はリスクが高いため、定期的な触診を習慣にすることが大切です。異常を感じた場合は自己判断せず、速やかに動物病院で診察を受けるようにしましょう。
乳腺腫瘍が進行するとどのような変化がみられるか教えてください
乳腺腫瘍が進行すると、しこりが次第に大きくなり、赤みや熱感、潰瘍、出血、膿の排出などが見られるようになります。皮膚との癒着が進んで硬くなり、猫が痛みで触れられるのを嫌がったり、歩行や寝ているときの体勢が不自然になることもあります。悪性の場合は肺やリンパ節などへの転移を起こし、呼吸困難、元気消失、体重減少、食欲不振などの全身症状が現れる可能性があります。病気の進行は速いことも多く、早めの受診と治療が不可欠です。

乳腺腫瘍の治療方法

乳腺腫瘍の治療方法

猫の乳腺腫瘍は悪性の可能性が高いため、早期の治療が予後に大きく影響します。ここでは主な治療法とその特徴について詳しく解説します。

乳腺腫瘍はどのように治療しますか?
乳腺腫瘍の治療は、外科的に腫瘍を切除する手術が基本となります。特に悪性の場合は、再発や転移のリスクを考慮して、腫瘍だけでなく周囲の乳腺やリンパ節を含めた広範囲の切除が行われることがあります。腫瘍の大きさや進行度、転移の有無により、術後に抗がん剤治療や緩和ケアを併用することもあります。早期に適切な治療を行うことで、再発や転移のリスクを低減できる可能性が高まります。治療方針は獣医師とよく相談し、猫の体調や性格も考慮したうえで選択することが重要です。
良性の場合と悪性の場合で、治療方法は異なりますか?
はい、良性と悪性では治療方針が異なることがあります。良性腫瘍の場合は、腫瘍のみを切除する局所的な手術で完治することが多く、術後の追加治療も基本的には不要です。一方、悪性腫瘍では再発や転移のリスクが高いため、腫瘍だけでなく周囲の乳腺やリンパ節も含めた広範囲の切除(片側乳腺切除もしくは両側乳腺切除)が検討されます。さらに、進行度や転移の有無によっては、術後に抗がん剤治療を併用することもあります。腫瘍の性質を見極め、個々の猫に適した治療法を選ぶことが重要です。
治療後の再発や転移のリスクを教えてください
乳腺腫瘍は悪性の場合、転移率は50〜90%と非常に高く、初期でもリンパ節への転移率は20~42%となっています。手術で腫瘍を取り除いても、すでに肺やリンパ節に転移していることも少なくありません。再発は術後半年から1年以内に起こることが多く、特に初期治療の範囲が限られていた場合は注意が必要です。転移や再発を早期に発見することががその後の治療や予後を左右するため、定期的な検診とレントゲン・エコーなどの画像検査による経過観察が欠かせません。飼い主さんの継続的なケアが大切です。

猫の乳腺腫瘍を予防するためにできること

乳腺腫瘍は早期の避妊手術や日常的な健康チェックによって予防や早期発見が可能です。ここでは飼い主さんが日頃から実践できる対策を紹介します。

乳腺腫瘍の予防に避妊手術は有効ですか?
はい、避妊手術は乳腺腫瘍の予防に大変有効とされています。特に初回発情前に避妊手術を行うことで、発症リスクを90%以上低下させると報告されています。発情を一度でも経験すると予防効果は徐々に下がりますが、発情後であっても早い段階での手術には一定の効果が期待できます。ただし、高齢になってからの避妊手術では予防効果が限定的となるため、乳腺腫瘍のリスクを抑えるには若いうちの避妊手術が推奨されます。飼い主さんの判断が予防の鍵を握ります。
何歳までに避妊手術を行うと効果があるか教えてください
避妊手術による乳腺腫瘍の予防効果は、手術を行う年齢によって大きく異なります。生後6ヶ月齢までに避妊手術をした場合、91%のリスクが軽減されます。7〜12か月齢では86%のリスクの軽減。13~24ヶ月齢では11%の軽減にとどまり、24ヶ月齢を過ぎると効果が期待できません。予防を目的とする場合は、できるだけ早い時期での手術が理想的です。
定期的に健康診断を受けることは予防につながりますか?
はい、定期的な健康診断は乳腺腫瘍の早期発見と予防に大いに役立ちます。特に中高齢の猫や避妊手術を受けていない猫では発症リスクが高いため、年に1回以上、できれば半年に1回の健康チェックが望ましいとされています。触診に加えて、必要に応じて超音波検査やレントゲンを組み合わせることで、見落としを防ぎ、腫瘍を早期に発見できる可能性が高まります。小さなしこりでも油断せず、迅速な対処が予後を大きく左右します。

編集部まとめ

編集部まとめ

猫の乳腺腫瘍は悪性率が高く、進行も速いため、早期発見と迅速な治療が命を守るカギとなります。特に中高齢の雌猫や避妊していない猫では発症リスクが高まるため、日頃のスキンシップでの触診や年1〜2回の定期健診が重要です。小さなしこりでも油断せず、異変に気付いたらすぐに動物病院へ相談しましょう。若齢時の避妊手術は有効な予防策として推奨されます。

【参考文献】