犬の鼻血はすぐ受診すべき?よくある原因と応急措置も解説

犬の鼻血はすぐ受診すべき?よくある原因と応急措置も解説

犬が鼻血を出すのは人間と違って極めて異常なサインです。犬の鼻血はたいてい何らかの病気やけがが原因で、放置すると重症化することもあります。そのため、少量でも鼻血に気付いたらできるだけ早く獣医師に相談するのが大切です。本記事では、鼻血のよくある原因から応急処置の方法、受診の目安や検査・治療法まで解説します。

犬の鼻血によくある原因

犬の鼻血によくある原因

犬が鼻血を出す原因には、大きく分けて外傷・異物によるものと、鼻粘膜の損傷に分けられます。まずは外傷・異物と鼻粘膜ダメージについて見ていきましょう。

外傷による出血

犬が遊んでいる最中に鼻をぶつけたり、けんかで噛まれたりすると、鼻の粘膜が傷ついて出血することがあります。特に活発な犬や外で遊ぶ機会が多い犬では、鼻をぶつける軽いケガが原因で鼻血が出るケースがよく見られます。このような外傷性の鼻血は、出血量が少なくすぐ止まる場合は大事に至らないこともありますが、もし出血が止まらないようなら獣医師に相談しましょう。

異物の侵入による出血

散歩中に草の実や小石などを鼻の穴に吸い込んでしまい、それが粘膜を刺激して鼻血が出ることがあります。犬は好奇心旺盛なので、鼻を使って地面の匂いをかいでいるときに異物を吸い込んでしまうことがよくあります。特にノギ(草の実)や小枝などが刺さると粘膜に傷がつき、出血するケースもあります。こうした場合、異物を取り除けば出血も収まることが多いので、獣医師の診察で粘膜の中を調べてもらいましょう。

乾燥などによる鼻粘膜の損傷

人間では空気の乾燥や鼻をほじる習慣で鼻粘膜が傷付き、鼻血が出ることがありますが、犬は鼻粘膜が丈夫で、人ほど乾燥による鼻血は多くありません。それでも、特に冬場に室内の空気が乾燥していたり、犬が何らかの理由で激しく鼻をこすったりすると、鼻粘膜に小さな傷ができて出血することがあります。ただし犬の場合は、これらの軽い粘膜損傷でも何らかの病気が隠れていることが多いので、軽視せずに動物病院で診てもらうようにしましょう。

鼻血が出る可能性がある犬の病気

鼻血が出る可能性がある犬の病気

犬の鼻血はケガ以外にもさまざまな病気が原因で起こります。特に以下の疾患には注意が必要です。

鼻腔内腫瘍

犬の鼻の中に腫瘍ができると、進行に伴って鼻血を引き起こします。腫瘍の種類には腺がん、扁平上皮がん、軟骨肉腫、骨肉腫、リンパ腫などがあり、いずれも悪性であることが報告されています。鼻腔内腫瘍は初期には片側の鼻から少量ずつ出血しますが、病変が進むと両側から出血し、顔面の変形を生じることもあります。診断にはレントゲンやCTなどの画像検査と組織生検が必要で、治療としては放射線治療、抗がん剤治療、外科的摘出などが検討されます。

感染症

細菌やウイルス、真菌などによる鼻腔内の感染症でも鼻血が起こることがあります。感染が鼻粘膜に炎症を起こすと血管が傷つきやすくなり、くしゃみや鼻水の後に血液が混ざって出てくる場合があります。例えば犬のケンネルコフ(犬の伝染性気管支炎)や鼻炎、アレルギー性鼻炎などが進行すると鼻血を伴うことがあります。こうした場合、鼻炎や副鼻腔炎の治療として細菌なら抗菌薬、ウイルスなら対症療法、アレルギーなら抗炎症薬などが用いられます。

血液系疾患

犬は血液凝固障害などの血液系疾患にかかると、ちょっとした刺激で出血しやすくなり、鼻血が生じることがあります。例えば、血小板減少症やフォンウィルブラント病などでは、血管が傷付くと出血が止まりにくくなります。このような疾患では両方の鼻から出血することも珍しくありません。治療は原因疾患に応じて生涯にわたる内科管理が必要となり、出血量が多く貧血が進行した場合には輸血が行われることもあります。

中毒

抗凝固性の殺鼠剤(ワルファリンなど)を誤飲した場合にも鼻血が出ることがあります。これらの薬剤は血液を固まりにくくする成分を含むため、体内に入ると全身で出血傾向を引き起こします。犬が殺鼠剤を摂取すると鼻血だけでなく、吐血や血便なども起こることがあります。この場合、ビタミンKの投与や輸血などで出血を止める治療が必要です。また、農薬や重金属などの中毒でも出血症状が出ることがあるので、心当たりがあるときはすぐに獣医師に相談しましょう。

犬が鼻血を出したときの応急処置

犬が鼻血を出したときの応急処置

犬が鼻血を出したら、まずは冷静に対応しつつ速やかに受診準備をしましょう。以下に自宅でできる対処法と、避けるべき行動を挙げます。

鼻血への応急処置

鼻血が出た場合は以下のように応急処置を行います。

犬が興奮すると血流が増え鼻血が止まりにくくなるため、静かな環境で優しく撫でながら犬を落ち着かせます。飼い主さんが冷静でいることも、犬を安心させるポイントです。

冷たいタオルや包んだ保冷剤を軽く鼻や頭に当てて血管を収縮させると、出血が一時的におさまる場合があります。ただし、直接氷を長時間当てると低温やけどの恐れがあるので、布で包んで間欠的に行ってください。

鼻血が出ている部分を指で優しく押さえ、数分間圧迫すると止血できることもあります。ただし犬が嫌がるときや、強く押しすぎると別の損傷につながるので、無理はしないでください。

また、出血の状態を記録しておくと受診時に役立ちます。出血がいつから続いているか、左右どちらの穴から血が出ているか、色や量の変化などをメモや写真で残しておくと獣医師の診断に有用です。

犬が鼻血を出したときに避けるべき行動

犬が鼻血を出したときには、上記の応急処置を行うとともに、下記の行動は避けるようにしましょう。どれほど軽そうでも、鼻血が確認されたら速やかに動物病院を受診することが最優先です。

ティッシュなどで鼻栓すること

人間のように鼻にティッシュや綿を詰めると呼吸が苦しくなり、かえって危険です。鼻孔を塞ぐと出血部位がさらに傷つき、誤って詰め物を飲み込む危険もあります。

頭を後ろにそらせること

犬の顎を持ち上げてしまうと、出血した血液を誤嚥する恐れがあります。常に自然な姿勢で安静にさせましょう。

むやみに歩かせたり興奮させること

移動中に鼻血が止まらない場合は特に、犬を歩かせたり興奮させたりすると血流が増えてしまいます。なるべく静かに運び、暴れるときはリードやケージなどで軽く固定して落ち着かせましょう。

市販薬や自己判断での薬投与

止血目的の薬やヒトの薬を与えることは危険です。犬に適さない成分が含まれている場合や、症状を悪化させることもあります。必ず獣医師の指示を仰いでください。

犬の鼻血|受診の目安と検査、治療法

犬の鼻血|受診の目安と検査、治療法

犬の鼻血は、どのような状態のときに受診すべきでしょうか。また、受診後にはどのような検査・治療が行われるのかを解説します。

犬が鼻血を出したときの受診の目安

犬が鼻血を出していたら、元気や食欲に問題がなくても受診を検討すべきです。全身元気に見えても、鼻血は異常のサインであることが多く、放置すると病状が悪化する可能性があります。特に以下のような症状がある場合は、できるだけ早く受診しましょう。

  • 鼻血が繰り返し出る、止まらない
  • 片方の鼻からずっと出血し続ける
  • くしゃみや鼻水が出る(血液が混ざる)
  • 顔面や鼻まわりの腫れ・変形が見られる
  • 元気消失や食欲不振、呼吸困難など全身症状を伴う

これらの症状は鼻腔内異物や腫瘍、感染症、血液疾患など重篤な病気が隠れている可能性を示唆します。少しでも異変を感じたら、早めに動物病院に相談しましょう。

動物病院での検査方法

動物病院に着いたら、まず獣医師が問診・視診を行い、鼻血の経過や量、生活状況などを詳しく聞かれます。そのうえで、原因を絞り込むために以下のような検査が一般的に行われます。これらの検査で異常が見つからない場合は、さらなる専門検査(例えば免疫疾患の検査など)を検討することもあります。

血液検査

感染症や炎症、貧血、血液凝固の異常(血小板減少など)がないか調べます。

画像診断

レントゲンや超音波検査で鼻腔内に腫れや異物、腫瘍がないか確認します。腫瘍が疑われる場合は、CT検査を行って鼻腔内の詳細を調べることがあります。また、腫瘍が見つかった場合は肝臓や脾臓などへの転移がないか超音波で検査します。

内視鏡検査(鼻腔鏡)

可能であれば、細い内視鏡を用いて鼻の内部を直接観察し、異物や病変部位を確認します。

組織検査(生検)

腫瘍やポリープが疑われる場合は、組織を採取して病理検査を行い、良性・悪性や種類を確定します。

動物病院での治療法

鼻血の治療法は原因疾患によって大きく異なります。主な治療例を挙げると以下のとおりです。

感染症・炎症

細菌やウイルスによる鼻炎・副鼻腔炎などが原因の場合、抗菌薬や抗炎症薬を投与します。場合によっては点滴治療や入院管理が必要になることもあります。

異物や腫瘍

異物が原因であれば、麻酔下で摘出手術を行います。鼻腔内腫瘍が原因の場合は、外科的摘出のほか、放射線治療や抗がん剤治療を組み合わせることがあります。

血液凝固障害

抗凝固剤(ビタミンK拮抗剤)中毒や遺伝性疾患の場合、ビタミンKの投与や止血剤を使用し、輸血が必要になることもあります。また血小板減少症など免疫性の病気では、免疫抑制薬での治療が行われます。

長期管理

慢性的な血液疾患や遺伝性の凝固異常などの場合、継続的に投薬や定期検査が必要となります。飼い主さんと獣医師が協力して、経過観察と健康管理を続けることが重要です。

犬の鼻血を未然に防ぐには?

犬の鼻血を未然に防ぐには?

人の場合は乾燥や興奮で鼻血が出ることもありますが、犬の場合、鼻血はめったに起こらず、起きたときには多くの場合何らかの病気やケガが背景にあります。愛犬の健康を守るためにも、日頃から鼻血を予防するケアを心がけ、異変は早めに察知して対処することが大切です。

日常ケアで鼻粘膜を守る

冬場や空気が乾燥しやすい季節は、犬の鼻の粘膜も乾燥によってダメージを受けやすくなります。乾燥した環境では鼻の粘膜がひび割れたり傷ついたりしやすく、わずかな刺激で出血につながる恐れがあります。特に暖房を使う冬の室内は湿度が下がりがちなので注意が必要です。

対策として室内の湿度管理を徹底しましょう。加湿器を使ったり、濡れタオルを室内に干すなどして、湿度を適切に保つことが効果的です。目安として室内湿度は約40~60%に維持するのが理想とされており、この範囲内であれば鼻の粘膜が乾燥しにくくなります。また、定期的に換気を行って新鮮な空気を取り入れることで、室内の空気を潤しつつ清潔に保つこともできます。

さらに水分補給にも気を配ってください。犬は自分で鼻を舐めて湿らせていますが、空気が乾燥すると追いつかないこともあります。新鮮な水をいつでも飲めるように用意し、室内環境と併せて身体の内側からも潤いを保つようにしましょう。もし老犬で鼻の乾燥が酷くひび割れてしまう場合には、獣医師に相談のうえで犬用の保湿クリームやワセリンを鼻に薄く塗ってあげる方法もあります。ただし、人間用クリームには犬に有害な成分が含まれる場合があるため、必ず犬専用を使うか事前に獣医師に確認してください。

散歩コースと草むらチェック

お散歩中は犬の鼻先が地面の匂いを嗅ぎ回るため、異物が鼻に入るリスクに注意が必要です。特に雑草が茂った草むらでは、イネ科植物の種(ノギ)や小枝などが鼻腔に入り込み、鼻粘膜を刺激して鼻血の原因になることがあります。ノギが鼻に刺さると激しいくしゃみや鼻水、ときに鼻血が見られ、放置すると慢性的な炎症や組織の壊死を引き起こす恐れがあります。散歩の際は愛犬が草むらにむやみに顔を突っ込まないようリードをしっかり握り、コースを工夫して背の高い雑草が生い茂る場所は避けるようにしましょう。

もし草むらを歩いた後は、帰宅後に愛犬の鼻先や顔まわりをチェックしてください。鼻孔の周りに種やゴミがついていないか確認し、必要なら濡れタオルで優しく拭き取ってあげます。散歩中にくしゃみが止まらなくなったり、片方の鼻から鼻水や鼻血が出ている場合は、鼻の中に異物が残っている可能性があります。無理に取ろうとせず速やかに動物病院で処置してもらいましょう。早めに異物を除去すれば、症状の悪化や二次感染を防ぐことができます。

また、物理的なケガの防止も大切です。興奮しやすい子や活発な犬の場合、家の中や散歩中にどこかに鼻先をぶつけて鼻血が出ることもあります。散歩中はリードをつけて急な飛び出しや衝突を防ぎ、家庭内でも犬が走り回るスペースにはクッション材を貼るなどして安全対策をしておくと安心です。

まとめ

まとめ

犬の鼻血は人間とは異なり、軽く見過ごせない異常です。外傷や異物から一時的に出血することもありますが、腫瘍や血液疾患など深刻な病気のサインである場合が多くあります。飼い主さんができる応急処置としては、犬を落ち着かせて冷やすなどの方法がありますが、決して自己判断で薬を使ったり鼻栓をしたりせず、できるだけ早く動物病院を受診しましょう。日頃から愛犬の様子に注意し、わずかな異変でも早めに獣医師に相談することが、犬の健康を守るために重要です。

参考文献