愛猫が突然下痢をしてしまうと、飼い主としては大きな不安を感じるものです。特に、頻繁に動物病院へ通うことが難しい場合、どのタイミングで受診すべきか迷ってしまうでしょう。
本記事では、猫の下痢の原因や状態ごとの違いを詳しく解説し、必要な治療や下痢止めについても紹介します。これから猫の下痢について、予防から治療まで、実践的な知識を身につけていきましょう。
猫の下痢の原因
健康に見える猫でも、体内ではストレスや病気の兆候が隠れていることがあります。下痢はその重要なサインの一つであり、原因を特定して適切な対応が大切です。
ここでは、猫の下痢を引き起こす主な原因についてそれぞれ詳しく解説していきます。
細菌・ウイルス・寄生虫
猫の下痢の主な原因として、細菌・ウイルス・寄生虫による感染が挙げられます。うちの子は室内飼いだから大丈夫かなと思われるかもしれませんが、室内飼いの猫でも感染するリスクがあります。
具体的には、以下のような病原体が下痢の原因です。
- 細菌感染:サルモネラ菌や大腸菌など
- ウイルス感染:猫コロナウイルスやパルボウイルスなど
- 寄生虫感染:回虫やコクシジウムなど
細菌感染は、汚染された食事や環境から感染します。特に生肉や生魚をあたえている場合は注意が必要です。
ウイルス感染は強い感染力を持ち下痢を引き起こします。ワクチン接種で予防できるものもありますが、すべてのウイルスに対応できるわけではありません。
寄生虫感染は、猫の腸内に寄生して下痢を引き起こします。定期的な駆虫薬の投与が予防には効果的なため、獣医師の指導を受けることが大切です。
食物アレルギー
食物アレルギーは、猫の下痢の原因として見落とされがちな要因の一つです。いつもと同じフードを食べている場合でも、突然アレルギー反応を示すことがあります。
食物アレルギーによる特徴は食後に下痢が起こることが多く、皮膚のかゆみや耳の炎症を伴うことがあります。遅延型のアレルギーもあり、おやつなどのように時々摂取するものが原因の場合は1~3日後に症状が出ることもあるでしょう。
慢性的な下痢の場合は、食物アレルギーを疑う必要があるでしょう。アレルギーの原因の特定は困難な場合が多いです。
現在与えている食事をほかのものに変えて様子を見ましょう。早いと数日後に症状が改善されることもありますが、1ヶ月程度かかる場合もあります。
主な原因食材としては、鶏肉・魚・乳製品・穀物などが一般的なアレルギーの原因であり、複数の食材にアレルギーを持つ猫も少なくありません。
中毒物質・異物の誤飲
猫は好奇心旺盛な動物であり危険な物をお口に入れることがあります。中毒物質や異物の誤飲による下痢は、早急な対応が必要となります。特に注意が必要なものは以下です。
- 有害な植物:ユリやポインセチアなどの観葉植物
- 家庭用品:洗剤や殺虫剤・防虫剤など
有害な植物としてユリには猫にとって有毒な成分が含まれており、誤食すると重度の下痢や中毒症状を引き起こす可能性があります。猫のユリ中毒には重篤な腎毒性があるため注意が必要です。
また、家庭用品に含まれる化学物質は、猫が舐めてしまうと深刻な中毒症状を引き起こすことがあります。
ストレス
猫は環境の変化に敏感で、ストレスによって下痢を起こすことがあります。引っ越し・新しいペットの導入・家族構成の変化・飼い主の生活リズムの変化など、日常のさまざまな変化がストレスとなります。
トイレの位置や種類を変えることも、猫にとってはストレスの原因です。ストレスによる下痢は、環境変化の直後から数日以内での発生が多く、ほかの体調不良の兆候がない場合が特徴的です。
一般的検査にて異常を認めず下痢が続くことがあるため診断は困難となります。
猫の下痢の状態
猫の下痢の状態を確認することは早期治療に重要です。以下では、主な下痢の状態とその特徴について、それぞれ詳しく解説していきます。
水様便
猫の下痢のなかでも水様便は深刻な症状の一つです。水様便は通常の形のある便と異なり、完全に液状になっている状態を指します。
水様便が続く場合、脱水症状のリスクが高まるため特に注意が必要です。
水様便の特徴として、便の水分量が90%以上になっていることが挙げられます。健康な猫の便の水分量は70%程度ですが、水様便では著しく水分量が増加します。
このような状態が続くと、腸での水分吸収が正常に行われていない可能性が高いです。猫が水様便をしている場合、以下のような症状も同時に観察されることがあります。
- 食欲不振や嘔吐
- 活動量の低下
- 腹痛による姿勢の変化
- 頻繁なトイレ行動
水様便が見られた場合は、食事内容や環境の変化を確認することが重要です。水様便が24時間以上続く場合は、深刻な疾患の可能性もあるため、動物病院での診察を検討する必要があります。
軟便
軟便は、水様便ほど液状ではありませんが、通常の便よりもやわらかく形が崩れやすい状態を指します。
具体的には、便の形はあるがスコップですくうと崩れる、トイレ砂に跡が残りやすい便が確認されたら軟便といえるでしょう。
軟便は猫の体調の変化を示す重要なサインとなりますが、水様便ほどの緊急性はない場合が少なくないです。軟便が続く場合は、食事内容の見直しが必要かもしれません。
特に、以下のような要因の確認が推奨されます。
- 急な食事の変更
- 消化不良を起こしやすいフードの使用
- 過度なおやつの摂取
慢性的な軟便は、腸内環境の乱れを示している可能性があります。このような場合、獣医師への相談も一つの選択肢となります。
血便
血便は、便に血液が混じっている状態を指し、猫の健康状態の重要な警告サインとなります。
血便には新鮮な赤色の血液が混じる場合と、消化された暗褐色の血液が混じる場合があり、それぞれ異なる病態を示唆します。
血便を見つけた際は、以下の点に注目して観察することが重要です。
- 血液の色(鮮血か暗褐色か)
- 血液の量
- 血液と便の混ざり方
- その他の症状の有無(排便回数の異変など)
特に注意が必要な症状は以下のとおりです。
- 大量の出血がある
- 血便が継続的に見られる
- 元気や食欲の低下を伴う
- ほかの消化器症状が併発している
血便が確認された場合は、基本的に獣医師による診察が必要です。血便を動物病院に持っていき、検査してもらいましょう。
原因が特定され、適切な治療が行われることで、多くの場合は改善が期待できます。ただし血便を放置すると症状が悪化する可能性があるため、早期発見・早期治療が重要です。
猫の下痢で動物病院を受診すべきタイミング
猫が下痢を起こした場合、原因や症状の重さによって適切な対応が異なります。以下では、急性と慢性の下痢の違いや、それぞれの場合に動物病院を受診すべきタイミングについて詳しく説明します。
急性と慢性の下痢について
猫の下痢は、発症からの期間によって急性と慢性に分類されます。急性の下痢は突然発症し通常2週間以内に改善する症状を指す一方、慢性の下痢は2週間以上継続する持続的な症状です。
急性の下痢は、一時的な食生活の乱れや軽度のストレスが原因となることが多く、自然に回復するケースもあります。
しかし、急性のもので、元気がない・熱がある・嘔吐・おなかが痛そうなどの全身症状を伴っている場合は重度の感染症や中毒など深刻な状態が隠れている可能性もあるため、症状の観察が重要です。
慢性の下痢は、食物アレルギーや炎症性腸疾患・腸内細菌の不均衡など、長期的な治療が必要な原因があるため、早期の診断と適切な対応が求められます。
慢性の下痢の場合は対症療法でよくならないことも少なくないので、じっくりと原因の追及が重要となります。
持続的な下痢は猫の体力を著しく低下させ、栄養失調のリスクも高まるため、適切な診断と治療が不可欠です。
慢性の場合の受診タイミング
慢性的な下痢症状がある場合、以下のような状況では速やかに動物病院への受診をおすすめします。
- 1週間以上下痢が続いている
- 食欲が徐々に低下している
- 体重が減少傾向にある
- 毛並みが悪くなってきた
- 活動量が明らかに減少している
特に注意が必要なのは、下痢の長期化で起こる脱水や栄養失調のリスクです。慢性的な下痢により、腸での水分や栄養の吸収が妨げられ、全身状態の悪化につながる可能性があります。
また、複数の症状が組み合わさって出現する場合や一時的に改善してもすぐに再発を繰り返す場合も,基礎疾患の可能性を考慮して動物病院への受診が望ましいでしょう。
急性の場合の受診タイミング
急性の下痢の場合、以下のような症状が見られたらすぐに動物病院を受診する必要があります。
- 血便や黒色便が見られる
- 激しい嘔吐を伴う
- 24時間以上水も食べ物も受け付けない
- 活動量が明らかに低下している
- 発熱がある
- お腹を触ると痛がる様子がある
特に子猫や高齢猫・既往症のある猫の場合は、症状が急速に悪化する可能性が高いため、早めの受診が推奨されます。
また、複数の猫を飼育している環境では感染症の可能性も考慮し、ほかの猫への感染予防の観点からも早期の診断が重要です。
下痢の原因によっては適切な治療が遅れることで重症化するリスクがあるため、様子見が長引かないよう注意が必要です。
特に普段と様子が明らかに違う、いつもより元気がないといった違和感を感じた場合は、飼い主の直感を大切にして受診を検討しましょう。
猫に処方される下痢止め
猫の下痢治療には、原因や症状に応じてさまざまな薬が処方されます。止瀉薬は腸の動きを抑え、整腸剤は腸内環境を整え、下痢症状の改善を促す薬剤です。
また、細菌性感染症が疑われる場合には抗生剤が使用されることがあります。ここでは、猫の下痢に対して一般的に使用される止瀉薬・整腸剤・抗生剤について詳しく解説します。
止瀉薬
猫の下痢に対して処方される代表的な止瀉薬について詳しく解説します。止瀉薬は、腸の動きを抑制し、水分の吸収を促進することで下痢の症状を改善する薬です。
一般的に処方される止瀉薬には、ロペラミドなどがあります。止瀉薬は腸の蠕動運動を抑制し、腸内容物の通過時間を遅くし、水分やミネラルの吸収を促進します。
その結果、便の形が整い、下痢の症状が改善されるのです。しかし、下痢は体内の有害物質を排出する防御反応でもあるため、安易に止瀉薬を使用すると原因となる病気の発見が遅れる可能性があります。
止瀉薬の投与中は猫の様子を注意深く観察し、症状の変化や副作用の有無のチェックが大切です。改善が見られない場合や、症状が悪化した場合は、すぐに獣医師に相談しましょう。
整腸剤
整腸剤は、腸内環境を整えることで下痢の改善を促す薬剤です。
猫の下痢に対して処方される整腸剤には、主に生きた乳酸菌やビフィズス菌などの有用微生物(プロバイオティクス)、それらの餌となる成分(プレバイオティクス)が含まれています。
整腸剤は副作用が少なく、長期的な使用が可能です。特に、抗生物質の投与後や、ストレスによる下痢の場合に効果を発揮します。
ただし、整腸剤だけでは重度の下痢に十分に対応できない場合もあり、症状が深刻な場合は止瀉薬や抗生剤との併用が必要になることがあります。
抗生剤
抗生剤は、細菌性の感染症が原因で起こる下痢に対して処方される医薬品です。例として、ジアルジア症にはメトロニダゾールが処方されます。
獣医師は便の検査結果や症状の程度を総合的に判断し、抗生剤の使用を決定します。抗生剤の使用には特に慎重な判断が必要です。不適切な使用は、嘔吐・食欲不振などの問題を引き起こす可能性があります。
抗生剤を処方された場合は、必ず指示された期間と用量を守って投与を完了することが重要です。途中で症状が改善しても、勝手に投与を中止すると、細菌が再び増殖して症状が再発する可能性があります。
また、抗生剤の使用により腸内環境が乱れる可能性があるため、整腸剤との併用が推奨されることも多いです。
猫に下痢止めを飲ませるときの注意点
獣医師から処方された下痢止めは、飲ませ方や投与のタイミングを慎重に守る必要があります。
下痢止めを飲ませる際の具体的な注意点として、以下が挙げられます。
- 投薬は必ず獣医師の処方した用量を守り、自己判断で量を増減しないこと
- 症状が改善したように見えても、処方された期間は最後まで投薬を継続する
- 投薬後は水を飲めるようにして、薬がしっかり胃に届くようにする
- 嘔吐してしまった場合は、獣医師に相談して次の投薬のタイミングを確認する
投薬中は猫の様子を注意深く観察することも重要です。症状が改善されているか、副作用の兆候はないかをチェックしましょう。
便の硬さ・色・回数などの変化を細かく記録しておくと、獣医師との相談時に役立ちます。正しい投薬方法と適切な観察・管理を行うことで猫の体調を早期に改善させることができます。
不安な点がある場合は、遠慮なく獣医師に相談し、安全性を重視した投薬を心がけましょう。
まとめ
猫の下痢はさまざまな原因で起こり、その症状や状態によって適切な治療法が異なります。動物病院では症状に応じて、止瀉薬・整腸剤・抗生剤などが処方されます。
特に重要なのは、水様便や血便・食欲不振が続く場合は早めの受診をし、投薬の際は獣医師の指示を正確に守ることです。
愛猫の健康を守るために、日頃から便の状態を観察し、異変に気付いたら適切なタイミングで動物病院を受診しましょう。
参考文献