猫の抜歯が必要なケースとは?治療費用や抜歯を防ぐためのケア方法も解説

猫の抜歯が必要なケースとは?治療費用や抜歯を防ぐためのケア方法も解説

「最近、お口がにおう気がする」「歯茎が赤く腫れている」そんな症状が見られる場合、猫が歯周病を発症している可能性があります。人間にとっても怖い歯周病ですが、猫にとってもそれは同じ。放置すると強い痛みだけでなく、全身に影響を及ぼすこともあります。

当記事では、歯周病によって猫の抜歯が必要なケースやその費用、予防のためのケア方法について解説します。愛猫の健康を守るため、ぜひ参考にしてください。

猫の抜歯が必要なケース

猫の抜歯が必要なケース

猫に抜歯が必要になるのは、歯やお口のなかに深刻なトラブルがあるときです。放置して悪化する前に、症状や原因を理解しておくことが大切です。

猫にどのような病気や症状があると抜歯が必要ですか?
重度の歯周病になっている場合、抜歯を選択されることがあります。

歯周病が進行すると歯茎だけでなく顎の骨にまで感染が広がり、骨が溶け、場合によっては骨折を引き起こすこともあります。こうした深刻な状態を防ぐために、早めの抜歯がすすめられます。

また、歯の根元に膿がたまり、目の下に穴が開いてしまう外歯瘻(がいしろう)も抜歯の対象です。歯が折れたり(破折)、猫の口内炎がひどくなっている場合にも、痛みの原因となる歯を取り除く必要があります。

さらに、子猫の場合には乳歯遺残(にゅうしいざん)といって、乳歯が自然に抜けずに残ってしまうことがあります。このまま放置すると歯並びや噛み合わせに悪影響が出るため、早期の抜歯が必要になるケースもあります。
重度の歯周病で抜歯が必要になる基準を教えてください
炎症が歯茎だけでなく、顎の骨や周囲組織にまで広がっている場合です。

重度の歯周病は、抗生剤やステロイドなどで一時的に症状が落ち着くこともありますが、根本的な治療が難しく、慢性的に悪化しやすい病気です。

薬で症状が改善しない場合は、全臼歯抜歯や全顎抜歯といった広範囲の抜歯が必要になることがあります。
難治性口内炎などが原因で全臼歯を抜歯することもありますか?
はい。口内炎のなかでも特に治りにくい難治性口内炎では、全臼歯を抜歯することもあります。

全顎抜歯によって約7〜8割の猫で症状の改善が見られるという報告もあり、効果が期待できる治療法です。

猫の抜歯にかかる費用と治療の流れ

猫の抜歯は、症状や治療方法によって費用や流れが大きく変わります。ここでは、一般的な治療費の目安や処置の進み方についてわかりやすく解説します。

猫の抜歯にかかる費用の目安を教えてください
症状の軽さや処置の内容によって、数万円〜10万円以上かかる場合もあります。

① 投薬治療
軽度の歯肉炎や、全身麻酔が使えない高齢猫の場合は、内服薬で炎症を抑えることがあります。抗生剤や抗炎症薬の費用は、1回の治療でおおよそ1万~2万円が目安です。

② 歯石除去(スケーリング)
歯石の付着が原因で歯周病が起きている場合は、超音波スケーラーなどで歯石を取り除く処置が行われます。麻酔や術前検査の費用を含めて、おおよそ2万~4万円が相場です。

③ 抜歯・外科手術
歯のぐらつきや口内炎が重症化している場合には、外科的な抜歯処置が行われます。1本あたり約3,000円〜1万2,500円ほどで、抜歯本数が多くなったり、入院が必要な場合には10万円を超えることもあります。
全身麻酔やレントゲン検査の費用は別途かかりますか?
動物病院によって異なりますが、多くの場合は治療費に含まれていることが多いです。

抜歯に際しては、全身麻酔や歯科用レントゲン、血液検査などが必要です。これらが個別に加算される病院もあれば、手術費用に一括で含まれている場合もあります。事前に動物病院に費用の内訳を確認しておくと安心です。
抜歯手術の流れを教えてください
麻酔をかけてから、歯の評価・歯石除去・必要に応じた抜歯・歯の表面仕上げまでを行います。具体的には、以下のような手順で進みます。

①事前準備と麻酔
猫を病院で預かった後、点滴用の針を入れ、体重に合わせた麻酔薬を準備します。

②歯の評価
お口の中を詳しく診察し、歯の本数、乳歯遺残の有無、噛み合わせ、炎症の程度などをカルテに記録します。

③歯石除去(スケーリング)
超音波スケーラーで歯の表面の歯石や汚れを除去します。これは炎症を抑えるための基本処置です。

④抜歯
抜歯が必要な歯を処置します。膿がたまっていれば掻き出し、抜歯後は吸収糸で歯茎を縫合します。

⑤キュレッタージ・ルートプレーニング
抜歯しない箇所でも、歯周ポケットが深い場合は汚れを取り除き、歯茎と歯の再接着を促す処置をします。

⑦研磨(ポリッシング)
歯石を取った後の歯の表面を滑らかに研磨します。これにより再び歯石が付きにくくなります。

⑧麻酔からの回復
処置が終わったら麻酔を止めて覚醒させます。軽度の症例であれば1時間弱、重度であれば2~2.5時間程度の麻酔時間がかかることがあります。

抜歯後のケアと合併症予防

抜歯後のケアと合併症予防

猫がすこやかに回復するためには、抜歯後のケアがとても重要です。日々の過ごし方や注意点、起こりやすい合併症についても知っておきましょう。

抜歯後のケアで注意すべきことはありますか?
術後2〜3日は、元気がなくなる、食欲が落ちる、痛みや腫れ、出血などが見られることがあります。これは一時的な反応であることが多いですが、あまりにもぐったりしているなどの異変があれば、すぐに動物病院を受診しましょう。

抜歯後は、歯茎を吸収糸(自然に溶ける糸)で縫っているため、傷口が安定するまでの数日間は注意が必要です。特に、猫がお口の違和感から手でこすろうとすることがあるため、エリザベスカラーなどで保護しておくことをおすすめします。
抜歯後の食事や投薬管理方法を教えてください
しばらくは柔らかいフードを与え、お口に刺激を与えないようにしましょう。

例えば、缶詰やパウチのウェットフードを与えるのもよいですし、普段ドライフードを食べている猫であれば、ぬるま湯などでふやかして与えるだけでも十分です。

また、動物病院で処方された抗生物質や痛み止めなどの薬は、必ず指示どおりに飲ませましょう。飲み忘れや自己判断での中止は、感染や炎症の悪化を招く可能性があります。

猫は食後に薬を嫌がることもありますが、ウェットフードに混ぜたり、投薬用のおやつを使うなど、ストレスの少ない方法を工夫するとよいでしょう。
抜歯後に起こりやすい合併症には何がありますか?
主な合併症には、口鼻瘻孔、出血、感染、顎の骨折などがあります。

口鼻瘻孔とは、上顎の犬歯などを抜いたときに起こる症状です。鼻水や膿が出続ける、くしゃみが止まらない、食べ物が鼻に抜けるといった症状が続く場合は、早めに獣医師に相談しましょう。

抜歯を防ぐためのデンタルケア

猫の歯や口の健康を守るためには、日々の小さなケアの積み重ねが大切です。抜歯を防ぐために、できることから始めてみましょう。

猫の歯を健康に保つためにできる日常的なケア方法を教えてください
定期的な歯磨きが理想ですが、難しい場合は歯みがきシートやデンタルスプレーなど、手軽なケアを取り入れましょう。子猫のうちから慣らしておくと、将来的なケアがしやすくなります。
定期的な歯科検診でどのくらい抜歯リスクを減らせますか?
早期発見・早期治療につながるため、抜歯のリスクを大きく下げることができます。

猫の歯周病は進行するまで気付きにくいため、症状が出る前のチェックがとても重要です。半年~1年に一度の定期検診を受けることで、問題の早期発見ができ、重症化や抜歯を防ぐことにつながります。

特に中高齢の猫は歯周トラブルが起きやすくなるため、定期的に獣医師のチェックを受ける習慣をつけておきましょう。

編集部まとめ

猫の歯周病が進行すると、抜歯が必要になることがあります。抜歯には体への負担に加えて費用も数万円〜10万円以上かかることがあり、飼い主にとっても大きな負担です。

しかし早期に異変に気付いて治療すれば、抜歯に至らず、軽い処置と費用で済む場合もあります。日々のケアや定期的な検診でお口の健康を守り、猫がいつまでも元気に過ごせるようサポートしてあげましょう。

【参考文献】