「犬にニキビのようなできものがある」と驚かれた人も多いのではないでしょうか。膿皮症(のうひしょう)は、皮膚にあるブドウ球菌が増殖することでさまざまな症状を起こす病気です。
この膿皮症は犬によく起こる皮膚病の1つで、慢性的な犬のアトピー性皮膚炎ともいわれています。高温多湿な時期である、梅雨から夏場にかけて発症することが多いです。
ブドウ球菌が増殖する背景には、いろいろな要因が隠れています。しっかりと治療すれば治るケースがほとんどなので、異常に気づいて受診することが大切です。
今回は犬の皮膚トラブルである膿皮症について、症状・原因・治療方法を詳しく解説していきます。特に予防方法が気になる人は、ぜひ最後までお付き合いください。
犬のニキビのようなできもの、膿皮症とは?
それではさっそく、犬の膿皮症にみられる症状や種類についてみていきましょう。どのような特徴があるのかも、一緒に解説していきます。
ぜひ本記事を読みながら、犬の肌をチェックしてみてください。
犬の膿皮症と主な症状
膿皮症は冒頭でもお伝えした通り、犬の皮膚に常在しているブドウ球菌などの細菌がなんらかの原因で異常に増殖することで発症する病気です。
犬によくみられる皮膚病の1つで、高温多湿な時期に発症しやすいとされています。その理由としては、健康的な皮膚の状態であっても一定数の細菌が常に存在しているからです。
これは常在菌といわれ、なんらかの原因によって保たれていた細菌バランスが崩れることで皮膚に悪さをする細菌が増えます。
その結果、皮膚にニキビのようなできものができる膿皮症を発症するのです。以下のような症状を伴うことも多いでしょう。
- 皮膚に発赤・発疹・膿疱(のうほう)ができる
- 脱毛やフケが出る
- かさぶたができる
- 痒みが出る
発赤・発疹・膿疱は強い痒みが生じます。そのため、犬がかいたりなめたりすると症状が悪化することも珍しくありません。
必要以上にかいたりなめたりする行動がみられた時には、犬の皮膚に発赤・発疹・膿疱がないかチェックしましょう。
膿皮症の種類
膿皮症の種類は3つあり、症状の進行具合によって分類されています。まず、初期症状の場合には、表面性膿皮症となります。
初期症状では皮膚の表面に存在しているブドウ球菌などの細菌バランスが崩れ始めた状態です。ひっかき傷などの外傷がきっかけで、発症するケースが多いとされています。
- 赤みのあるポツンとした発疹ができる
- 皮膚に痒みを感じる
- 赤みの発疹が日に日に増える
上記のような発疹が増えはじめます。症状が進行して中期症状になると、表在性膿皮症となります。
- ジュクジュクとした膿みを伴う発疹がある
- 脱毛が始まる
- ジュクジュクした膿みを伴う発疹が増える
- ドーナツ状のフケやかさぶたができる(表皮小環)
表面のジュクジュクに膿が出るだけでなく、皮膚の深い部分で炎症が起こると後期症状である深在性膿皮症に突入します。
- ポロポロとフケのようなものが出る
- 皮膚が黒くなる
- 皮膚が腫れる
- 腫れた部分がジュクジュクして膿や血が出る
一般的に膿皮症と呼ばれているのは、中期症状の表在性膿皮症です。早い段階で治療すれば、ほとんどが治ります。
発疹を見つけたり皮膚をかきむしったりする場合には、動物病院へ受診しましょう。
膿皮症の特徴
膿皮症は主に犬の皮膚に発疹を伴う皮膚疾患ですが、犬の皮膚病の中ではポピュラーなものであるとされています。背中やお腹から発疹ができることが多く、症状が広がっていくと足の付け根や耳の裏など全身に現れます。
膿皮症は感染するスピードが早いのが特徴です。1つの発疹ができれば身体のあちこちに発疹がどんどん増えていくため、完治するまでに時間がかかるでしょう。
また、症状が進行していくにつれて強い痒みを伴います。ひっかいてしまうと更に治療が長引いてしまうため、犬の身体に発疹を見つけたら全身をチェックすることを心がけてください。
ひどくかゆがる症状があれば「膿皮症」を疑って病院を受診し、一刻も早く治療をはじめましょう。
犬が膿皮症にかかる原因
なんらかの原因で皮膚環境のバランスが崩れた際に、皮膚に常在している菌の1つである「ブドウ球菌」が異常に増殖して発疹や痒みなどが起こるのが膿皮症です。
では、なんらかの原因に当たるものは一体どのようなものなのでしょうか。皮膚環境のバランスが崩れやすくなる原因をチェックしていきましょう。
外傷や基礎疾患による皮膚バリア機能の低下
ひっかき傷などの外傷がきっかけで発症するケースが多い膿皮症ですが、以下のような基礎疾患を持っている犬も発症しやすい傾向にあります。
- 食物アレルギー
- アトピー
- 脂漏症
- 糖尿病
- 肝臓病
- クッシング症候群
- 甲状腺機能低下
膿皮症はどの犬種にも発症するリスクはありますが、免疫力や抵抗力が低い子犬・シニア犬・アレルギー体質の犬は特に注意する必要があるでしょう。
アレルギー
アレルギーの場合には、フードの質が影響している可能性も考えられます。ほかのメーカーのフードに変えただけで、改善がみられるケースも多いです。
食物アレルギーの疑いがある場合は、フードに含まれているたんぱく質をチェックしましょう。動物病院に受診した際に、獣医師に相談してみるのもおすすめです。
生活習慣・環境による要因
梅雨から夏場にかけては、菌が繁殖しやすくなる高温多湿な時期なので注意しましょう。一般的な高温多湿な環境とは温度が26℃以上あり、なおかつ湿度が60%以上ある状態を指しています。
- 海・川・湖の近くが居住地
- 降水量の多い地域
- 直射日光を遮るものが少ない
- 風通りが悪い立地
これらの条件に当てはまる場合には、エアコンや扇風機で温度と湿度を調節しましょう。直射日光を遮るには、遮光カーテンやすだれがおすすめです。
打ち水も蒸発する空気によって一時的にですが、温度を下げられるので試してみてください。特に屋外で飼育されている犬は、高温多湿に晒されやすいので注意しましょう。
犬のニキビの予防法
それでは犬のニキビの予防法についてみていきましょう。ちょっとした心がけで膿皮症の予防に効果的なので、取り入れられそうなものからぜひ試してみてください。
正しいスキンケアで身体を清潔に保つ
犬も人間と同じで定期的に身体を清潔に保つ必要があります。皮脂の分泌が多い犬種には、特に正しいスキンケアで身体を清潔に保つことが大切です。
- 月1~2回の入浴
- 定期的なブラッシング
- 濡れた時はすぐに洗って乾かす
- トリミング
普段のスキンシップにスキンケアを取り入れていきましょう。入浴やトリミングは定期的にサロンやペットショップに任せるのも1つの手です。
犬の身体を清潔に保てるだけでなく臭い問題も軽減できるため、飼い主にもメリットがあることを認識しておいてください。
さらに日常的にシャンプーや保湿剤を用いて、皮膚のコンディションを整えてあげることも大切になります。自宅でシャンプーをする際には、ポイントを意識して洗ってあげてください。
- 35℃前後のぬるま湯に設定する
- シャンプーはしっかり泡立ててから皮膚にのせる
- 毛の流れに沿うようにして優しく洗う
- シャンプー後は保湿剤を塗る
- タオルドライで水分をしっかりとる
- 皮膚に直接ドライヤーの温風が当たらないようにする
- 関節の裏や足回りなど乾き残しがないようにする
すでに膿皮症を発症してしまっていても、薬用シャンプーを使用すると早く症状が改善することもあります。薬用シャンプーを取り入れる際は、獣医師に相談してください。
アレルギー源・高温多湿を避ける
アレルギー源となるのは、フードだけではありません。ノミやダニでもアレルギーが発生することもあります。
そのため、犬の世話をするスペースはキレイに掃除するようにしましょう。また、ノミやダニも高温多湿だと増殖しやすいため、適温を保つ必要があります。
栄養バランスの良い食事
膿皮症は免疫力の低下でも発症するリスクが高くなります。免疫力を保つためには、栄養バランスの取れた食事が必要不可欠です。
しかし、食物アレルギーで発症する場合もあります。フードを変える際は、ウェットフードよりもドライフードを優先的に選んで変更してみましょう。
これまでの研究により、食物アレルギーを抑えるにはウェットフードよりもドライフードの方が効果的であることが判明しています。
フードはさまざまな種類があるため選び方がわからないと不安な人は療養用のフードもありますので、まずは獣医師に相談してください。
犬の膿皮症の治療法
膿皮症の進行具合によって治療方法は変わります。初期症状で膿皮症を発見できれば完治させることも可能です。
初期症状である表面性膿皮症では、膿皮症を悪化させないための以下のような治療が行われます。
- 病変部周囲の毛を剃る
- 抗菌成分を含む外用薬や消毒薬を塗布する
- かんだりなめたりすることを防ぐためエリザベスカラーを付ける
すでに表在性膿皮症の中期症状まで進行している場合には、発疹が局所であれば外用薬や消毒薬を使用して治療します。
発疹が全身に広がっている場合には、外用薬や消毒薬に加えて抗菌薬の内服・注射や薬用シャンプーで細菌バランスを整えることが優先されるでしょう。
抗菌薬で治療する場合には、どのような菌が増えているのかやどの抗菌薬が効くのかを調べるため、菌を採取することもあると認識しておいてください。
薬用シャンプーを使用すると皮膚が乾燥しやすいため、保湿剤で皮膚のコンディションを整えることも大切です。
後期症状である深在性膿皮症の場合には、発疹が深刻化している部分の洗浄と消毒を行います。しかし皮膚の深いところまで達しているため、外用薬での治療のみではなかなか治りません。
そのため、細菌の種類によっては抗菌薬を全身投与する必要があります。膿皮症以外にも併発している病気がある場合には、獣医師とカウンセリングまたは治療方法を相談してください。
犬のニキビのようなできものは膿皮症以外の可能性もある
実は膿皮症以外にも、似たような発疹が出る場合もあります。発疹だから膿皮症だと安易な自己判断は避けるようにしてください。
人間にも感染する病気が現れている場合もありますので、注意が必要です。それではどのような病気で発疹が出ている可能性があるのかみていきましょう。
毛包虫症(アカラス)
毛包虫症(もうほうちゅうしょう)の毛包虫とは、すべての哺乳類の毛包に寄生している常在寄生虫のことを指しています。毛穴はこの毛包の開口部のことで、毛穴から袋状になって毛根を包んでいます。
この毛包に寄生する毛包虫が、さまざまな原因で異常増殖して炎症が起こる病気が毛包虫症です。また毛包虫は英語でアラカスなので「アカラス症」ともいわれています。
ほかにも、人間のニキビと同じような症状がみられることから「ニキビダニ症」といわれることもありますが、どの病名でも同じ病気であると認識しておいてください。
症状は膿皮症と似ていますが、皮膚に赤い斑点(紅斑)や1cm以上の大きな盛り上がりがみられるのが特徴です。ほかにも、水疱の膿が溜まることもあります。
疥癬(かいせん)
一般的に2歳以下の若い犬にみられることが多いですが、シニア犬でも感染し発症するケースのある病気です。犬の疥癬とは、疥癬虫(ヒゼンダニ)が皮膚の表面に寄生することで発症します。
非季節性の強い痒みを生じる伝染性の犬の皮膚疾患で、イヌセンコウヒゼンダニが原因となります。主な感染経路は犬同士の接触とされており、猫・狐・人間にも感染するため注意が必要です。
疥癬は特定の犬種に限りませんが、クッシング症候群の病気を持っていたり免疫抑制剤を使用したりしている犬は免疫抑制剤を使用している犬は特に注意しましょう。
初期症状では膿皮症と似た点がありますが、症状が悪化すると分厚いフケ・重度の痒み・体重減少・衰弱がみられることもあります。
マダニ
犬がマダニに刺されると、皮膚炎や貧血などを発症します。マダニが運ぶ病原体によっては感染症を引き起こし、命を脅かす可能性も出てきますが犬自身がマダニに刺されたと気づくことはほぼありません。
マダニはくちばしのような口を皮膚に刺して、抜けないようにセメントのような物質で固定し吸血します。満腹状態になると皮膚から口を離し落下するのです。
咬まれた部分が赤く腫れてしまったり、しこりのようになってしまったりすることがあります。犬にマダニが付着した場合は、飼い主自身も刺されないよう注意して一刻も早くマダニを取り除きましょう。
マダニは草むらや公園に潜んでいて、生き物を感知できる能力を持っています。期的なブラッシングやシャンプーでマダニを予防していきましょう。
また草むらに入ってしまった時は、毛の流れに逆らうように掻き分けながらマダニがついていないかチェックするよう心がけてください。
皮膚がん
あまり知られていませんが、犬にもがんが発症することが多いと近年の研究で判明しています。
- できものができる
- 傷のように見えるもの
- 皮膚炎のように見える
一見するとがんにみえない症状もあるため注意が必要です。その中でも、一度発症してしまうとなかなか治らない皮膚炎は特に注意しましょう。
- 硬いしこりがある
- こぶのようなものがある
- なかなか治らない傷がある
- 肛門がただれたようになる
- 慢性的な皮膚炎がある
上記の症状が1つでも当てはまる場合は、様子見をせず早めに動物病院へ受診することをおすすめします。
早期発見・適切な治療が大切
犬の様子がおかしいと感じた時は、様子見をせず動物病院に受診することを心がけてください。犬は違和感を覚えていても、人間には隠そうとする習性があります。
症状が悪化してしまう前に、治療を受けさせることが非常に大切です。症状を早く見極めるためには、日頃から犬とのコミュニケーションとケアが重要になります。
ちょっとしたひと手間で犬の健康を守れます。汚れたり臭いが気になったりした時だけではなく、定期的なブラッシングと入浴をさせることで膿皮症を防いでいきましょう。
まとめ
今回は犬によくみられる膿皮症について詳しくお伝えしてきました。犬のスキンケアを心がけることで、犬の健康を守れます。
普段の生活に犬のスキンケアを取り入れるよう心がけていきましょう。犬から人間に関する病気のこともあるため、犬だけでなく飼い主である人間を守る行動にもつながります。簡単にできることばかりなので、ぜひ試してみてください。
参考文献
- 犬の表在性膿皮症:治療指針ならびに今後の検討課題
- Staphylococcus pseudintermediusのUpdate
- 表在性皮膚感染症に対するオゼノキサシンローション(ゼビアックス®ローション2%)の使用成績調査による有効性および安全性の検討
- Panton-Valentine leukocidin (PVL)
- アトピー性皮膚炎を極めるー犬の臨床現場を中心にー
- 熱中症を防ぐために知っておきたいこと 熱中症予防のための情報・資料サイト|厚生労働省
- まもれますか?ペットの健康と安全
- 犬の浅在性膿皮症における2%酢酸クロルヘキシジン含有外科用局所洗浄剤(ノルバサンサージカルスクラブ)の局所療法に関する効果:無作為化二重盲検比較試験
- 犬のアレルギー性皮膚疾患における療養食の効果
- オゾン水を用いた洗浄療法により臨床症状が改善した表在性膿皮症の犬の1例
- 犬の汎発性毛包虫症 15例における併発症に関する検討
- The Japan Society of Medical Entomology and Zoology
- 犬の毛包虫症および疥癬に対するミルベマイシンオキシムの効果
- C09 日本の犬と猫におけるマダニの寄生状況調査
- Diagnostic Value of Fluorescence Method on Melanoma in Dogs
- 外科的切除を実施した犬のアポクリン汗腺癌5例の臨床および病理学的特徴